FIAT Panda 4×4

歳を取ってくると、新しいものが受け入れられなくなるようだ。なんか最近、この類の話ばっかりしているが、それだけ深刻なのだ。いや「受け入れない」と門前払いをしているのではない。食わず嫌いでは、決してないのだ。新しいクルマに興味もある。しかし、そのクルマ単体で評価するのならまだしも、前モデル、前々モデルと比べてしまうと、どうしても古い方に目が行ってしまう。これまで古いクルマがダメだったことなんてあっただろうか! 新しいクルマは性能や品質を手に入れた代わりに、情緒を捨ててしまったのだ。しかし、情緒なんてのはいまの世の中、何の役にも立たないし、求められていないことも知っている。私の悩みと迷いは、きっとその部分での葛藤なのだ。

全塗装されて眩しいくらいに鮮やかな水色がこのクルマのセールスポイント。気分まで晴れ晴れしてくる。4×4特有のヘッドライトウォッシャー、はしご型のアンダーガードが特徴だ

フィアットを救ったクルマ。

パンダ1、久しぶりだなぁと思って過去のヴィブルミノリテを検索してみたら、2011年1月に掲載していた。そのときはセレクタだったので、CVT。しかしCVTであっても退屈さは一切なく、足回りもカヤバのショックに交換済みだったこともあってしっかり感があった。あれはいいクルマだったなぁといまでも印象に残っている。そして今回紹介するのは、パンダ1の4×4。5MTである。

パンダ1は1960年代から70年代にかけて、フィアットのピンチを救ったクルマである。外部から経営陣リアゲートには大きく「Panda 4×4」の文字が。FWDのパンダよりも車高が上がったことで、堂々と見えるの一人として招かれたカルロ・デ・ベネディッティ。この男がジウジアーロに「新しいコンパクトカーをつくってくれ」と依頼する。これがスモール・ユーティリティカー・プロジェクト「ゼロ」。安く、軽く、使いやすく、乗りやすいクルマの開発は、ジウジアーロの頭を相当悩ませたが、1979年に発表されたパンダは大ヒットを飾る。その後、パンダ1は2003年まで生産が続けられ、約30年で400万台以上のセールスを記録した。

 

 

全塗装する前の色はグリーン。インテリアもグリーン系にまとめられていてスタイリッシュだ。ダッシュボードの傾斜計はもしかしたら日本で付けられている(かも)4×4の歴史。

パンダ1の歴史を簡単に振り返るとこんな感じだろうか。その歴史の中に4×4モデルが登場してくるのだが、この辺の話をもう少し詳しく説明しよう。

4×4モデルが登場したのは、1983年。横置きエンジンのFWDをベースにした市販車で4×4を採用したのは、パンダが世界で初めてらしい(へぇ~)。エンジンはFWDの902cc/45psから965cc/48psにグレードアップ(アウトビアンキA112エリートと同エンジン)されており、リアサスのリーフは2枚から3枚に強化されている。4×4システムは非常に簡易的なパートタイム式で、このシステムはオーストリアの「シュタイア・プフ」との共同開発によって生まれたのはよく知られた話だ。

1986年、パワーユニットが一新され、999ccのFIREエンジンに進化する(ここからセリエ2と呼ばれるようになる)。1989年にキャブからインジェクションへ。1994年にはさらに排気量を上げ、1108ccになり、これがエンジンの最終形となる。その進化の流れは、排気量アップとそれにともなう内外装の変化が主で、基本的な4×4システムとリーフリジッドによる足回りはデビュー以来変わっていない。

 

 

ハンモックシートのような独特な座り心地はないが、小ぶりでも掛け心地はいい2速発進で行こう!

当該車を前にして思うのは、この鮮やかなスカイブルーの美しさ。派手な色だが、パンダのような小さなクルマにはポップな色が似合うと思う。以前に乗ったセレクタはダブルサンルーフが張り替えられていたが、その他はオリジナルのままだった。今回の4×4はセレクタ同様、ダブルサンルーフが張り替えられている上、全塗装まで行われている。全塗装すると年式が感じられないくらいパリッとする。古い上に塗装がヤレていると悲壮感満点になってしまうので。

ドアを開けて乗り込むと、パンダのあの光景が広がっている。狭いのだけど、落ち着く空間だ。1速に入れ、クラッチをつなぐとグンと背中を押させるようにしてFIREエンジンが一気に吹け上がる。「おおっ!」と慌てて2速へ。1速のギア比がかなり低いので、これはエクストラ・ロー的に使うのが正解だろう。マニュアルミッションに乗り慣れていない人は、エンストにしくいからいいかもしれない。通常は2速発進でもOKだ。

ファイナルも落とされているのだろう。全体的にローギアードな印象だが、5速はオーバードライブに設定されているので、高速道路でもそこそこのスピードで巡航できる。世間的にはローギアードについてあれこれ言われているが、日常的な使用に不都合が生じるわけではない。普通に運転できるので、心配ご無用。

非常に質素なリアシート。クッション性もそれほどいいわけではないが、座ってみるとパンダらしい。必要最低限という言葉が似合うクルマだ乗り心地は前回乗ったセレクタよりもソフトだ。車高が上がってストロークが増えた分、そう感じるのかもしれない。FWDのパンダはリアがリーフスプリングからオメガアームに進化したが、4×4は2枚から3枚に強化されたものの、セリエ1同様リーフスプリングのまま。ダンピングがあまり効いていないようなグラグラ、ヒョコヒョコする動きになるのだが、これはこれで風情があっていいと思う。オメガアームを手に入れたFWDのほうが、正常進化という意味では真っ当な道を行っていると思うんだけど。
あと、新鮮だったのが少し飛ばし気味でコーナーに入るとけっこう曲げにくいということ。すごくアンダーステア。私が下手なだけかもしれないけど、こんなに曲がらないクルマは久しぶりでむしろワクワクした。どんなイメージを持って操作してやれば、うまく曲がれるのか……。これはこれで攻略しがいがあると思った(普通に走ってる分にはちゃんと曲がるので、誤解なきよう)。
まぁ、ともあれいい意味でも悪い意味でも、パンダなので。重箱の隅を突くように解説してもみても、パンダなので。多くを求めちゃいかんし、そういう人はパンダは乗らないほうがいい。

 

ダブルサンルーフは張り替えられているので見た目も機能的にも良好。全塗装といいなかなかお金のかかっている個体であるパンダ4×4の儀式。

あと、おもしろいのは、4×4に切り替えるときの所作。サイドブレーキの前にあるレバーを思いっきり引っ張る。これでもかってくらい引っ張る(このアナログ感、サイコー!)。4×4にするときは力技なのだけど、FWDに戻すときはちょっとしたコツがいる。運転席に座る → ギアをニュートラルにする → ドアを開けて左足を外に出す → クルマを前後に揺する → サイドブレーキの前にあるレバーをぐりぐり押し込む これでOKだ。
たしかパンダ4×4は軍用ユースで使用する目的があったようなないような。屈強な軍人ならこの程度の所作はたやすいのかもしれない。
ちなみにパンダ2の4×4は切替レバーが付いていない。前が滑ると後ろへ自動的に駆動力を送るシステムになっている。なので、普段は完全にFF車。ピンチのときだけ4×4になる(パンダ3はどんなシステムか不勉強です……)。

もしあなたが気になる女の子とデート中にスタックするようなことでもあれば、このような手順を流れるように済ませ、FWDに戻すとき、豪快にクルマを揺らし、男の力強さをアピールしよう。まぁ、これもパンダ4×4に乗るための儀式みたいなもんだと思えばいい。ちなみに4×4モードにするとさらに曲がらないので、調子に乗って飛ばさないように。そもそも4×4で常用することは想定されていないような気がする。あくまでも非常用なので、その辺を前提に考えてほしい。

フィアットの名機FIREエンジン。1.1リッターSOHCで、50PS/8.6kgmは数値だけ見れば圧倒的に非力だが、そう思わせないのがFIREエンジンの美点。年式によって点火系や燃料供給系などの細かい部分が変わってきている。正規輸入終了後の並行車こそが最終形と言えるかもしれない。ちなみにウィンドウォッシャータンクが2つあるが、デカいほうはヘッドライトウォッシャー用。こんなに大きくなくてもいいのに大古車のオーナーさまへ。

それにしても、パンダ1、このセリエ2でさえもう20年前のクルマになってしまった。通常そのまま使い倒されていれば、塗装も劣化し、ダブルサンルーフのキャンバス地だってボロボロになってしまうだろう。それを何とかしようと思ったら、塗り替え、張り替えは避けられない。そういう意味では当該車は全塗装もダブルサンルーフのキャンバス地張り替えも行われているので、この色さえ気に入れば、けっこうイイ線いってるんじゃないかと思う。
20年くらい経つクルマは、パンダ以外にも同様の憂き目にさらされている。そのクルマを愛し、これからも永く乗っていきたいのであれば、全塗装や生地張り替えを妥協なくやってほしいと思う。もうすでに部品供給が怪しくなっているパンダ1。いまのうちにやっておかないと、数年後にはやろうと思ってもやれないときがくるかもしれない。脅すわけではないけど、そういう時期に差し掛かっているのは事実だ。

シートバックは分割せずそのまま可倒。シートベースを持ち上げるとさらに広い空間が生まれるパンダ1の4×4は孤高の存在。

パンダはこの後もパンダ2、パンダ3へと進化を遂げ、現行車は見違えるほど立派な乗用車になった(いや、パンダ1も2も乗用車なんだけど)。パンダ1のようなチープさはまったく感じさせず、性能も装備も安全性も他のコンパクトカーに見劣りしない。製品としての完成度はもちろん現行車のほうが上。でも、なぜだろう、そこまで言われても、いや言われるほどにパンダ1の素朴さが魅力として際立ってくるのは。そう、パンダ1は、パンダ1の4×4は、孤高の存在なのだ。

製品がコモディティ化(品質、機能、デザインなどの差別化特性が薄れることで、各社の製品に違いを見出すことができす、どの製品を買っても同様の状態のこと)するのは、成熟の証とも言えるが、それによって「これでもいいけど、これじゃなくてもいい」と判断されてしまうことは、生産者(社)にとってもっとも屈辱的なことではないか。「パンダ3かぁ。でも似たようなスタイルで同じくらいの価格帯のクルマ、ほかにもあるよね」と(いや、パンダ3もいいクルマですよ。この場合、パンダ1と3の比較の話ね)。

タイヤサイズは145/80R13こんな風に思うのは、ただのノスタルジーなのかもしれない。だって、パンダ1(4×4)のようなクルマなんて、この後絶対に出てこない。ないものねだりなのかなぁ、と思ったりするが、もし新車でパンダ3が買える予算があったとしても、私はパンダ1にその予算を突っ込んでバリバリの大古車に仕上げたい。いくら懐古主義者と言われようとも、そうしたいからそうする。それだけのことだ。

 

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

 

1994y FIAT Panda 4×4

全長×全幅×全高/3405mm×1510mm×1535mm
ホイールベース/2170mm
車両重量/810kg
エンジン/水冷直列4気筒SOHC
排気量/1108cc
最大出力/37kW(50PS)/5250rpm
最大トルク/84Nm(8.6kgm)/3000rpm

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2 Responses to “FIAT Panda 4×4”

  1. rallye より:

    思えば、4×4からいろいろ始まったなぁ、という車です。

    • RENAULT4,CITROEN2CV,Panda1,VW空冷Beetle,ROVER(BL)MINI,えっとあとなんだっけ?Twingo1も入れるべき?は、一回自分の車として乗っておくとィい車だと思いますよ。ちゃんとしてれば後悔はしない。
      と言い続けて、既に2Decades、もうそれすら容易ではなくなってきたなぁ・・・(トーイメ)

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