RENAULT Espace 2.0dCi Initiale

このクルマを知れば知るほど「良いものが売れるもの」という至極まっとうで正しい理屈が通用しないことに愕然とする。売れることにおいて、プロダクトの優劣が及ぼす影響は、じつはそれほど高くないのかもしれない。国民性、製品、メーカーへのイメージ、ターゲッティング、価格、トレンド……。細かなものまで挙げればキリがないが、さまざまな要素が絡み合って「売れる」を形成している。

 

非常に特異なシルエット。フロントガラスをはじめ、各ガラスの面積が大きいのが分かる。フェーズ3は、フロントバンパー下に申し訳程度に付いているメッキの意匠が特長だ

エスパスの進化

このコーナーには2回目の登場となるエスパス。写真を見て「ん、前回と何が違うの?」と思われそうだ。たしかに一見すると4代目のエスパスでしょ? というくらいの印象だが、前回のモデルはフェーズ1。今回はフェーズ3である。

エスパスの出自については前回でけっこう詳しく書いたつもりなので、そちらを参照していただくとして、今回は4代目以降の話を少しだけ触れよう。エスパス4と聞いて最初に思い浮かぶのは、開発・生産がマトラからルノーに切り替わったモデルであること。なので、マルチチューブラーフレーム+FRPボディという稀有な構造から、一般的なモノコック構造へと大きく変化している。

欧州には「スライドドア=商用車」というイメージが根強くある。だからエスパスには当然スライドドアなんて採用されるはずもなく、ヒンジドア(Battantesというらしい)にこだわっている。日本ではクルマを購入するときにスライドドアを第一候補に挙げる人も少なくないから、嗜好の違いを感じさせるこの4代目が登場したのは2003年。7席シートと多彩なシートアレンジを持ち、安全性もユーロNCAPにおいて最高評価を獲得。市場からは大きな評価を得た。エンジンは日産製のガソリンエンジン(V6 3.5L)といすゞ製のディーゼルエンジン(直4 1.9 L、2.0 L、2.2L)をラインナップした。2006年にフェーズ2となり、エンジンのランナップが充実化。ガソリンエンジンでは2.0L、2.0Lターボ、3.5L V6、ディーゼルエンジンは1.9L、2.0L、2.2L、3.0Lとなる。2010年にフェーズ3へ進化。エクステリアが一部見直され、エンジンランナップはガソリンの2.0L(170ps)とディーゼルの2.0L(173ps、150ps)に整理された。さらに2012年に3回目のマイナーチェンジでフェーズ4に。いわゆる”アッカー顔”になったと同時にエンジンも新世代の2.0L dCi(M9R)を搭載している。

エンジンは2.0Lディーゼルターボで、最大出力127.2kW(173PS)/3750rpm、最大トルク360Nm(36.7kgm)/1750rpm。低回転域での太いトルクが特長で、約1.8tのクルマを運転しているとは思えないほど、グングンと引っ張っていくこの辺りで僕は「エスパスも4でおしまいなのかな」と思っていたのだが、2015年にエスパス5がデビュー。2013年のフランクフルトショーで、ルノーはコンセプトカー「イニシャル・パリ」を発表していたが、まさかあのモデルが新しいエスパスのベースになるとは思わなかった。ミニバンからクロスオーバーへの転身。しかし、純粋なクロスオーバースタイルではないのがルノーの個性だろう。真横から見ると明らかにミニバンのシルエットだが、前方斜めから見ると、SUV 的な印象を受ける不思議なデザインだ。

欧州ではエスパスはコンスタントに売れている。しかし、日本ではいまだ正規輸入は叶っていない。それにはいろいろな理由が挙げられるだろうが、いちばん大きな要因はその「使われ方」ではないだろうか。大人数を乗せることはあっても、日常的に数百キロを移動するような使い方は希である。そのため、エスパスのようなスタビリティは要求されない。つまりニーズがないのだ。

 

前席に座ったときの見晴らしの良さは感動モノ。これは他のどのクルマにもないエスパスだけの光景だろう。写真では伝わりにくいがAピラーは異常とも言えるくらい細い6人乗りキャプテンシートのミニバン

当該車はエスパス4のフェーズ3で、基本的な内容は前回紹介したフェーズ1と大きく変わらない。違う点はエンジンが2.2Lディーゼルターボから、2.0Lディーゼルターボに変わっていること。排気量はダウンサイズしているが、馬力は150psから173psにアップしているし、トルクも同じ1750rpmという低回転でありながら、320Nmから360Nmへ大きく向上している。その他にもヘッドライトがLEDに変更され、モールのボディ同色化、フロントバンパーの意匠変更など細かな部分がリファインされている。

インテリアに目を移すと7人乗りではなく、6人乗り、しかも6座すべて独立したシートである点がこのクルマのポイント。「イニシアル」という最上級グレードらしく、レザーとアルカンターラのコンビネーションシートは見るからに上質感にあふれている。もちろん、エスパスの特長である多彩なシートアレンジも健在。2、3列目のシートをそれぞれ取り外せるだけでなく、長いシートレールによって各シートのポジションも自由に取れる。

すっきりとしたインストルメントパネルも、実は各部が小物入れになっており、カバーを開けるとけっこうな容量を稼げるそんな風に見ていくと、このクルマには「ミニバン=ファミリーカー」というイメージは当てはまらない。このクルマの中をチャイルドシートとか、ゴミ箱とか、そういうもので溢れさせてはいけないと思ってしまうのだ。もっと言えば、個人ではなく、法人がビジネス用の送迎車として使うのがいい。こんなクルマがしれっとホテルのファサードに横付けされ、運転手がどうぞとドアを開けてくれたらさぞかし気持ちがいいし、粋なセンスを感じる。「なるほどね、あえてこれを寄こしたか」と。まぁ、企業が送迎用で使うなら、最新のクルマを使うだろうから実際はアレだけども。

 

1.8tを軽々と!

運転席に乗り込むと、相変わらず広すぎる視界に驚く。インストルメントパネルはすっきりとしたシンプルなデザインだし、ピラーが細いので非常に見晴らしがいい。そして今回も驚くハンドルの切れ角。これだけ大きなクルマでありながら、驚くほど小回りが利く。下手するとルーテシア2 RSよりも小回りが利くかもしれない。

シートは6座独立のキャプテンシート。中列、後列のシートは同じタイプのものを使っている。小振りだが、見た目も座った感触も上質。中列、後列のシートはそれぞれ取り外し可能。シートレールが長いので前後の自由度が高いエンジンは前回の2.2Lディーゼルターボから2.0Lへダウンサイジング。2.2Lも相当パワフルに感じたのだが、これはそれ以上。実際、スペックも上がっているからだろうけど、低速域のトルクが太く、運転しやすい。1.8tの車重でもグングン引っ張っていくので、その重さを感じないほどだ。以前からディーゼルエンジンに組み合わせるのはATがいいと思っていたが、これはその好例。そもそもディーゼルエンジンはガソリンエンジンよりも上まで回らないし、回したとしても大しておもしろくない。それだったら、変速はATに任せて安楽に運転するのが吉。ATのシフトスケジュールもポンポンと上のギアにリズムよく上げていってくれるので、とても気持ちの良い加速を味わえる。これまでさしてディーゼルには興味がなかったが、車重のあるこういうクルマにはディーゼルエンジンの特性が活きるんだなとあらためて認識することができた。

 

ボタンひとつでガラスルーフのカバーが開く。ただでさえ明るい室内がさらに明るくなる。ミニバンなのに、この開放感は特別だエスパスは「GT」

しかし、このクルマの真髄は街中でチョコチョコ乗っていては分からない。伊勢湾岸道で高速走行を試したが、まぁ、すごい。とにかく操縦安定性のレベルが高い。直進安定性もよくビシッと真っすぐ走るし、足回りもきっと高速ステージを前提に煮詰めていったのだろうと想像できる。恐ろしいほどの安心感。同乗者はきっと寝るね、これは。

一定のスピードをキープして走り続ける。しかも高速で。このクルマは高速道路こそが気持ちいい。こういう経験をしてしまうと、このクルマはもはやミニバンではなく「GT」であると言いたくなる。姿かたちはミニバンだが、その本質は間違いなくGTだ。大人数を長距離にわたって快適に、安全に、移動させる。それが使命だ。運転だって、高速道路のほうがよっぽど楽しい。スポーツドライブという意味ではなく、ただ単に高速でぶっ飛ばすことが楽しいのだ。

 

エスパスの特長がこのルーフキャリア。フェーズ1でも触れたが、このスポイラー風のものを半分に分割して可動させるこのクルマは誰が乗るのか?

ただ、エスパスのクルマとしての完成度を知れば知るほど、このクルマをどう使っていいのか。どんなライフスタイルの人に合うのかが見えなくなるのも事実。前回のフェーズ1は7人乗りのファブリックシートで、何となく生活感が漂っていても許せるクルマだったけど、このクルマは6人乗りのレザーキャプテンシート。法人の送迎用なんて冗談を言ったけど、本当にそれくらいしかターゲットが見つからない。価格帯を考え、600~700万円クラスの国産ミニバンを買うような層に向けてアピールできるかといったら、エスパスはあまりにも地味過ぎる。メッキパーツはほぼないし、オラオラ系のデザインでもない。「これ、新車で500万円以上するんですよ」と言っても「え……、これが?」と返答されるのは目に見えている。

タイヤサイズは225/55R17このクルマはいったい誰が乗るのか? かなり悩ましい。エスパスは高速安定性を頑なに堅持し、無駄な装飾を省き、外見で訴求するものは何もない。それはあえてそうしているようにしか思えないほど、皆無だ。見た目が豪華で、えばりが利いていればいいという日本のミニバンユーザーのニーズなんてまったく受け入れない、我が道を行くクルマなのだ。

しかし、他にはない6人乗りという仕様。後席はゆったりとリラックスしながら談笑できるだろうし、レザーとアルカンターラのシートが醸し出す上質感もあいまって、とにかくゆとりがある。下世話なものなんて一切ない。だから、大人数を載せる必要のある人、または人+荷物を載せる必要のある人。長距離を快適にドライブしたい人。まずそれを前提として、直進安定性、操縦安定性など、クルマから伝わってくる「感覚」や「味」を大切にしたい人。そして「花」よりも「実」を取る人。そういう人にこそ乗ってほしい。

このクルマは数百キロの移動をオーナーズカーとしていかに上質に、快適にこなれるか? そんな問いに対するルノーの答えであり、その答えを見事に実現している。他にはない非日常空間。それが、エスパスイニシアルのアイデンティティであり、あえてこれを選ぶということは、そうとう「粋」じゃないとできないことだと思う。

 

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

 

 

2011y RENAULT Espace 2.0dCi Initiale

全長×全幅×全高/4661mm×1894mm×1801mm
ホイールベース/2803mm
車両重量/1855kg
エンジン/直列4気筒DOHC 16バルブ ディーゼルターボ
排気量/1995cc
最大出力/127.2kW(173PS)/3750rpm
最大トルク/360Nm(36.7kgm)/1750rpm

 

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