RENAULT Laguna

イメージ1125  今回、まな板の上に乗せるクルマは、ルノー・ラグナ。好事家の方なら「それ、きたかー」と思わずうなるクルマかもしれない。そう、ラグナって、みんな名前は知ってるけど、乗ったことがないとか、見たことすらないとか、はたまた「え、まだ現行で売ってたの?」なんて言う人もいるかもしれない。まぁ、とにかくそんな日陰な感じのクルマなのだが、反対にヴィブルミノリテで取り上げるには最高の素材とも言える。僕自身もこのクルマに乗れることを心待ちにしていたのだ。

前73 1116セナも乗っていたクルマ。

 まずラグナというクルマを振り返ってみよう。初代は1993年にデビュー。21の後継車種としてDセグメントに送り込んできたルノーのロアミドルクラスだ。ボディタイプは4ドアセダンに見えるが、じつは5ドアハッチバックという実用性を重視したカタチで、デザインは直線的だった21から曲線的なイメージへ一新。ちなみにこのラグナ1は当時、パトリック・ル・ケモンが手掛けた最初の1台となった。
 エンジンは1.8、2.0の直4と3.0 V6のガソリン、2.2のディーゼルがあったが、途中からボルボ850の1.9直5という変わり種も追加されたのは案外知られてないかもしれない。日本には2.0と3.0が入ってきたが、僕は当時「2.0 RXE」に乗る機会に恵まれた。最初に見たときは、深緑っぽい色もあって「地味だなぁ……」という印象。しかし乗ってみるとそのシートの良さ、足回りの良さに驚いた。当時、20代半ばだった僕は「これがルノーの乗り味かぁ」といたく感心したものだった。フラン後73 1117ス・モーターズの担当者が「アイルトン・セナも日常の足としてラグナに乗っていたことがあるんですよ」と言っていたのがいまだに忘れられない。
 2000年になるとモデルチェンジをし、ラグナ2へ進化するのだが、個人的にはこのラグナがいちばん印象に薄い。デザインの源流は1995年に発表した「イニシャル」がルーツだという。たしかにそこからアヴァンタイムやヴェルサティスといった個性派モデルが登場しているのだが、ラグナだけはどうにもその影響が薄い。
  そして2005年にはフェーズ2へ移行するのだが、見た目はガラッと変わる。クリオ2フェーズ2、メガーヌ2に共通した顔になり、洗練された印象になったのだが、日本には導入されず。2006年にフェーズ1の在庫が底を尽きた時点で販売を終了した。

インパネ1121ラグナ3の主役はディーゼル。

 2007年、ラグナは3代目を登場させる。ボディタイプはやはり5ドアハッチバック。このクラスではほかにメルセデスベンツCクラス、アウディA4、BMW3シリーズ、シトロエンC5が存在するが、基本はすべて4ドアセダンだ。ルノーはライバル勢を見据えてあえての5ドアハッチバックなのか、それともそもそもはじめから変えるつもりはなかったのか、その辺は分からないが。ボディタイプはその他にステーションワゴンやクーペも用意された。
 シャシーは日産ティアナ(2代目)、ルノーサムスンSM5と同じものを使用(SM5は後にラグナの4ドアセダン版を発表し、その後、ラティテュードも登場する)。デザインはこれまでの流れと決別し、非常にエレガントでダイナミズムにあふれた印象になった。塊感のあるエクステリアはフロントからリアに流れるラインが強調され、スポーティーな雰囲気を醸し出している。このようにかなり洗練されたデザインなのだが、クーペに至ってはさらに上を行く。セダンはサラッとしているが、クーペはもっと肉感的で色気すら感じさせるデザイン。フロントに設けられた格子状のメッキグリルやリア周りの造形が、どことなくアストンマーチンのDB9なんかに似ているように思う。
 一方、エンジンラインナップは、手元のカタログを見るとかつてあった3.0V6のようなぜいたくなものはなくなっている。当時のフランスでは、日本で言うハイオクガソリンが1リッター約250円と高騰していた背景や2008年にエコ税制法(エコ・パスティーユ)が施行された事情もあり、ガソリン車は1.6 16V(110ps)、2.0 16V(140ps)と2.0ターボ(205ps)の3タイプに留まっている。一方、主役となるディーゼルは、1.5dCi(110ps)、2.0dCi(130ps)、2.0dCi(150ps)、2.0dCi(180ps)、それぞれFAPのありなしを含めるとじつに8種類ものラインナップを揃えている。ただし、エンジンラインナップはけっこうな頻度で追加、廃止されている。それに加え、仕向地によっても異なる場合があるので、上述した限りではないことをご了承いただきたい。
 装備面ではラグナ2から採用された「マルチファンクションカード」が引き続き搭載されている。ヴァレオ社と共同開発したいわゆる「キーレスエントリーシステム」だ。カードキーの利点は複製が難しいこと。鍵の山を削って似たようなものを作るわけにはいかないし、車両を盗難しても使える鍵を作るためにはディーラーに行かねばならず……。当然、そこで足がつくというわけだ。
 ドアには鍵穴がなく、カードを持っていれば、ドアノブを引くだけでドアが解錠される。センターコンソールはカードを挿し込むスロットがあるが、カードを持っていれば、スロットに挿さなくてもエンジン始動が可能だ。で、エンジンを停止してクルマから降り、数メートル離れると自動的に施錠される。イレギュラーな操作(たとえばエンジンがかかったままカードが車外へ出ていくとか)を感知すると、警告を発したり、動作を停止するなど、クルマ側が判断して対応する。ブルートゥースにも対応していて、アイフォーンなどの機器を認識させておけば、クルマに乗ると自動的こ音楽を再生できるし、電話がかかってくればハンズフリーとして動作する(充電はクルマに備え付けられているUSB端子を使って行うことも可能)。この辺の細かい気遣いがルノーらしいし、高級車に搭載されるべきシステムだと思う。

後席11205ドアハッチバック売れない神話。

 このようにラグナ3はしっかりとモダナイズされ、ヨーロッパ各地を走り回っているのだが、残念なことに日本には入ってきていない。だからこそ、先述した「え、まだ現行で売ってたの?」状態になるわけで……。じゃあ、そもそもなぜ導入が打ち切られるほど日本では売れなかったのか? もちろんいろんな理由があるとは思うが、ひとつは4ドアセダンではなく、5ドアハッチバックというボディタイプに要因があるのかもしれない。というのも、日本ではなぜか伝統的(!?)に5ドアハッチバックが売れない。それは輸入車だから、ではなく国産車でもだ。たとえばトヨタ・コロナシエロ、日産プリメーラUKワゴン、三菱エテルナ、マツダ・ランティス……ほかにもあると思うが、5ドアハッチバックのクルマがヒットした印象がない(その中ではアテンザはかなり健闘しているかも)。しかも、ラグナは見た目セダンの形をしているから余計にタチが悪い。いや、見た目がセダンならいいじゃないかと思うのだが、セダンと思い込んでいたのに、後ろがガバッと開くことに気付いた人は、その落差で「ガーン!」とショックを受けるのかもしれない。いや、個人的には5ドアハッチバックってすごく好きなのだが……。荷物も積みやすいし、セダンのトランクよりもたくさん入るような気がする。

ラゲッジ1119スポーティーさと高級感の同居。

 そんなわけでようやく今回のクルマの説明に入るのだが、当該車はガソリンエンジンの2.0リッターターボ。手元のカタログに記載されているラインナップ中、もっともハイスペックなモデルだ。すずきさんの話によると、少し前までは「GT」というグレードがあったそうだ。それがいいなぁ、と思っていたのだが、いざ発注するときになってみるとそのグレードがなくなっているではないか。いろいろ考えた挙句「PACK GT」という仕様にすれば「GT」のグレードに近いものがつくれることが分かった。その内容はハーフレザーに電動シート、専用ステアリング、アルミトリム、18インチアルミ(これはオプション)など、かなり豪華な仕様になっている。ちなみにBピラー部分にある「GT」のエンブレムは後からオーナーが貼ったものなのであしからず。
 車内に乗り込んでみると、非常に包まれ感の強い雰囲気で、スポーティーさと高級感が同時にやってくる。ドアの閉まり音も「バフッ」といかにも剛性が高そうである。そして、走り始めの低速域でハンドルを切っていくと、誰もが「あれ?」と違和感を覚えるはずだ。そう、このクルマの最大の特徴「4コントロール」つまり「4輪操舵」である。

エンジン1122自然な4輪操舵。

 4輪操舵といえば、3代目プレリュード(1987年)が世界初となる機械式の「4WS」を採用したとして注目を浴び、その後も各メーカーが4輪操舵システムを組んだクルマをリリースしたものの、この機構が定着したとは言い難い。構造の複雑化によるコストと重量の増加、ステアフィールの違和感など、デメリットばかりがクローズアップされ、しだいに姿を消していった。しかし、近年になってこのラグナをはじめ、日産、レクサス、BMWなどが再び4輪操舵の機構を採用しはじめている。
 ラグナに採用されている4コントロールはもちろん電子制御式(アイシン製だという噂)で、ステアリングの切れ角に応じて後輪をアクチュエータで作動させる。アクチュエータの動きはリンケージを介し、リアハブに接続されている。リンケージを押し引きすることで、トーを変化させるという仕組みだ。トー変化は60km/hを境に逆相、同相の切り替えを行い、左右でミューの異なる滑りやすい路面では、リアステアにより姿勢も制御する。いわゆる「横滑り防止装置」の役割も果たしているのが興味深い(仕組みはこの動画が分かりやすい)。
 4コントロールに違和感を覚えるのは最初だけで、慣れてしまえばこんなにすばらしいものはないと実感するだろう。このサイズのクルマだから決して大きくはないものの、街中で小回りが効くのはうれしいし、高速道路ではレーンチェンジの際にほんの少しの舵角を与えるだけで完了する。安定感も抜群でレーンチェンジ後のふらつきは一切なく、ピタッと吸い付くように走る。これは新感覚だ。そして何より素晴らしいのは、自然なフィーリングだということ。昔の4WSは何度ステアリングを切っても横滑りするような感覚があったが、最新の4輪操舵はそういった違和感は皆無で、すぐにしっくりと馴染む。
 高速走行はとにかく快適。6速2300rpmだから振動は少なく、エンジン音も静かだ。追い越しが必要な場合は5速にシフトダウンするまでもなく、そのままアクセルを踏み込めばいい。太いトルクがモリモリ出てきてあっという間にここに書けないくらいの速度域に連れて行ってくれる。峠道に入っても2756mmのホイールベースを感じさせないくらいキビキビとしたハンドリングで、思った以上に楽しい。もちろん4コントロールの恩恵なのだが、ちょっと気合いを入れて攻めてみてもやはり不自然さは感じない。走りに関しては、高速道路も市街地の細い道も峠道もオールマイティに楽しませてくれるはずだ。荷物は大量に載せられないけど、4人家族ならこれ1台で不満が出ることもない。ベンツやBMWみたいなネームバリューはないけど、スタイルだってつくりだってけっこう上質だから、それなりに見栄も張れる。まぁ、このクルマを選ぶ人は見栄なんて関係ないって思うだろうけど。

タイヤ1123これ1台で不満なし。

 ラグナ。すごくいいクルマである。コンパクトな大衆車に乗っている身からすれば、もう高級車の類である。ヴィブルミノリテな方々はちょっと天邪鬼でレアものに萌える人が多いだろうから、このラグナという選択は希少でありながらセンスがいいと思う。そりゃそうだろう。ベンツのCクラスとかBMWの3シリーズとか、このクラスで選ぶにはあまりにもつまらない。ラグナなら(4コントロールなら)、スポーティーな走り、高速道路での長距離移動、街乗り、そのすべてで楽しさを提供してくれる。家族持ちならセダンだが、そうでなければクーペもおすすめしたい。基本性能の良さに加えて、あのエロいデザインである。そりゃもうウヒヒとほくそ笑みたくもなる。

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

エンブレム11242010y RENAULT Laguna Berline 2.0 16V Turbo 4Control Pack GT
全長×全幅×全高/4695mm×1811mm×1445mm
ホイールベース/2756mm
車両重量/1547kg
エンジン/水冷直列4気筒DOHC TURBO
排気量/1998cc
最大出力/150kW(205PS)/5000rpm
最大トルク/300Nm(31.0kgm)/3000rpm

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6 Responses to “RENAULT Laguna”

  1. ta-san より:

    ラグナ3いいですね。マイナーチェンジでフロントグリル変わったようですが、こちらの顔の方が好きです。うちのルーテシア3とグリルの処理が似てるような気がします。
    私はメガーヌ2phaze2.1.6MTに乗ってますが、以前はラグナ2に乗っていたので、すごく興味があります。左ハンドルのマニュアルというところも希少価値がありますよね。
    ところで、これ販売可の車ですか?

    • コメントありがとうございます。
      残念ながら当該車両は、オーナーさん手放す予定はないと思います。
      もうこのスペックのLaguna造ってないですからねぇ・・・

      Megane2のGCの左MT車なら・・・(謎)

      • ta-san より:

        ご返信ありがとうございます。
        カブリオレですか。魅力的ですね。
        私自身はマニュアルシフトにこだわっていますので、当面は現在のMEGANEでがんばります。
        現在、2.0プレミアムに装着されている17インチ純正ホイールを物色していますが、なかなかありません。情報をお持ちでしたらご一報いただければ幸いでです。

        • がんばってくださーい。ホイールは部品で買えると思いますので、おつきあいの車屋さんにご相談くださいぃ。

  2. morita より:

    ta-sanさん、コメントありがとうございます。
    ラグナの顔は3になって良くなりましたね。
    高級感とスポーティーさが両立しているように思います。
    メガーヌ2もラグナに劣らずいいクルマですよね!

    • ta-san より:

      ありがとうございます。MEGANE2は決して速い車じゃないのですが、気持ちよく走ることができます。予想以上に燃費が良いのも望外の喜びです。
      LAGUNA2はイグニションコイルの故障で手放すことになりましたが、特に長距離は得意種目でしたね。
      LGUNA3。とってもカッコイイです。左ハンドルのマニュアルというところも車好きの心をくすぐりますね。

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