RENAULT Twingo QuickShift5

メイン1786 トゥインゴのハザードスイッチを見ていたら、R2-D2を思い出した。映画『スターウォーズ』はすごい作品だ。人類の未来や壮大な宇宙戦争を映し出し、さまざまな個性を持った登場人物が活躍する。その作品には、子供のみならず大人もわくわくさせる夢が詰まっていた。ダースベーダ―やアナキン・スカイウォーカー、ヨーダなどの登場人物はじつに魅力的だったが、僕がいちばん気になったのはC-3POやR2-D2といったロボットだった。とくにR2-D2の能力はすごかった。ホログラムを投影し、スタンガンや消火器も装備し、人間がとてもできないような機械工作や信号受信なども行った。それはまさに当時まだ子どもだった僕が思い描いていた“万能”なロボット像だった。しかし、そんなすごい能力を持っているにも関わらず、R2-D2は人間の言葉を理解はできるものの、発することができなかった。それに気付いたとき、急に何かが冷めていった。ロボットはすごい能力を持っているけど、やっぱり人間の支えがあってこそなんだ、と。

前177214年のご長寿さん。

まさかここでトゥインゴ1が出てくるとは思わなかっただろう? いや、このブログなら想定内? そうかそうか。そうかもしれない。振り返ってみると、トゥインゴ2は紹介したものの、ルノーの大いなるベーシックカー・トゥインゴ1はまだだった。ので、今回はこのクルマについていろいろ書こうと思う。
トゥインゴは1993年に本国で販売を開始。当時ルノーの主任設計士だったパトリック・ル・ケモンの手によるもので、エスパスを小さくして曲線を強調した小型ワンボックスのようなフォルムはなかなか斬新だった。当時のプレス発表ではトゥインゴのことを「現代のキャトル、かつてのパンダ」と表現されていたことも印象的だった。
シャシーは専用設計で、広い室内空間を確保するためにホイールをなるべく四隅に追いやった設計を基本としている。そのため、室内はAセグメントのクルマとしては想像以上に広い。しかもそのスペースをより有効に使うために、後席のスライドやフルフラット化する前席など多彩なシートアレンジも話題を呼んだ。
後1773 エンジンは通称「クレオン・ユニット」と呼ばれるC3G型のOHVエンジン(R4、R5、Super5と同系のエンジン)で、排気量は1238cc。ブレーキはフロントがソリッドディスク、リアがドラムだった。1997年になるとD7F型のSOHCに変更したが、排気量は1145ccにダウンしている。これはトゥインゴにモアパワーは必要なし、という判断なのだろうか。もしそうであるなら、ベーシックカーとしての位置づけをしっかりと守り、ブレのないルケマンらしい考え方だと思う。
トランスミッションも一般的な5MTと2ペダル5MTの「イージー」がラインナップされたことで、ちょっとだけ話題になった。当時、輸入車雑誌の編集部にいた僕はこの「イージー」に乗ったことがあるのだが、シフトノブがありながらクラッチペダルレスという新機構に戸惑った。これまで人間が行っていたクラッチの断続を、コンピューター制御の油圧アクチュエーターが自動的にやってくれるのだが、シフトノブに手を置いていると身体が一般的なMTと思いこみ、どうしてもありもしないクラッチペダルを踏んでしまう。なので、最初はぜんぜんイージーじゃなかった。変速時はアクセルペダルを少し緩めて、シフトアップ/ダウンをするとうまくいくのだが……。あまりになじめないシステムにしまいには「こんなのいるか??」と思った記憶がある。
インパネ1774 2001年には汚名挽回とばかりに「クイックシフト5」が加わった。これは「イージー」で必要だったシフト操作も油圧アクチュエーターに任せたもの。マニュアルギアボックスに電子油圧制御のアクチュエーターを搭載することで、シフトレバーは変速司令を出す電子的なスイッチになり、プッシュ/プル操作をするだけで変速を可能にした。「イージー」になかったオートマチックモードもあるので、プッシュ/プルも面倒くさい人はオートマチックモードに入れっぱなしにしておけばいい。
その後も細かな意匠の変更や装備の充実、それにともなう限定車の発売など、生産は続けられ日本では2003年で販売を終了したが、本国では2007年までつくられていた。1993年から2007年。14年のモデルライフは何気に長い。

前席1775ちゃんと成長しているトゥインゴ。

そんな長いモデルライフのなかで今回紹介するのは、後期に発売された「クイックシフト5」。後期なのでかなり熟成が進んでおり、エンジンはSOHCだし、もちろんエアコンも付いている。パワーステアリング/パワーウィンドウ、センタードアロック、デュアルサイドエアバッグ、ABSなど装備も満載。あのデビューしたての、OHVでフロントブレーキがソリッドディスクだったモデルに比べると、すいぶん現代的になったものだと思う。
室内に乗りこんでみても基本的な内装のデザイン、空気感はデビュー時とほぼ変わらない。円形をモチーフにしたインテリアデザインはほぼフルトリムだし、上質感も少し上がった気がする。ああ、なんか懐かしい。思わずリラックスして当時を思い出してしまう。この居心地の良さはトゥインゴの大きな魅力だと思う。
kouseki 走り出して最初に気付いたのは「えらく静かだな」ということ。日本に導入したてのモデルはもっと騒々しかったように思う。いろいろ調べていくとドアのラバーシールがダブルタイプのものに変更され、バルクヘッドとボンネットには吸音材が加えられているそうだ。目に見えにくい地味な変更だけど、ちゃんと進化しているんだなと感心。
走りに関しては所詮58馬力のエンジンなので、爽快に飛ばせるわけではない。でも、880kgの車体を引っ張るには充分で、特別パワー不足は感じない。トゥインゴにはこれくらいがちょうどいい。脚も何気に少しシャキッとした気がする。それもそのはず、フロントにはスタビライザーを新設(リアは大径化)されているので、極端なロールがなく、より安定感を強めている。あと、トゥインゴに乗ったらぜひ高速道路で長距離ドライブをしてみてほしい。コンパクトなクルマだから、日本では近所の買い物グルマとして使われることが多いと思うが、高速走行もあんがいイケる。圧倒的に非力なので、坂道や追い越しのときは不便を感じるが、一定速度で走り続けるとその良さが見えてくる。乗り心地やスタビリティに関しては、かわいらしいトゥインゴがだんだん頼もしいGTカーに思えてくるはずだ(それはちょっと言い過ぎかな……)。

nisituATではない。

クイックシフト5についても述べなければならない。先ほども少し説明したが、基本的にこの機構はマニュアルのギアボックスを使い、自動制御で変速させている。トルクコンバーターを使ったATとは根本的に違うのだ。だから「わーい、トゥインゴにオートマが出たぞー」と勢い勇んで乗り込み、ATモードにしてアクセルを踏みつけるとたいてい「あれ?」となるはずだ。
まず感じるのが「1速と2速の変速に時間がかかること」。アクセルを踏み付けたままにしておくと、2速にシフトアップするためにクラッチが切れた瞬間、たぶんガクッと首が折れる。そして少し経ってから2速にチェンジし、クラッチがつながる。この遅さが「あれ?」の原因である。しかし、これには理由があるのだ。
クイックシフト5 1784 基本的に欧州車の多くは1速のギア比が低く設定されている。それはバカンスシーズンになると、トゥインゴのような小型車でも旅行道具一式を積み込んだ重いトレーラーを引っ張って、避暑地へ繰り出すというライフスタイルに起因する。そのような使い方を想定しているから、もっとも大きな負荷となる発進時に不足のないトルクを発生させるため、1速が低いのだ。そうなると当然、2速へシフトアップするときのステップ比が大きくなるわけだから、1速で思い切り引っ張って2速へ……となれば、どうなるか想像できるだろう。フライホイールの回転慣性モーメントは小さくないから、ギアボックスも回転を同期させるのに時間がかかるのだ。
だからクイックシフト5をスマートに操るには、こんな荒々しいアクセル操作ではダメ。まず1速はとにかく穏やかにやさしく→2速に上げるためクラッチを切る瞬間を見極め、少しアクセルを戻す→2速に上がったら1速のときよりも少し多めに、絞り込むようにアクセルを踏む。これができれば、1速から2速のシフトアップは無振動でできる。

エンジン1782「めんどくさい」ではなく「おもしろい」と思う人へ。

「えー、そんな気を遣う運転したくないなぁ」という人は、そもそもこの手の機構は向いてないので、乗ることをおすすめしない(いや、壊しちゃう可能性があるので乗らないでほしい)。むしろ機械が実力を発揮できるように手助けしてやるような運転を「おもしろい!」と感じてくれる人じゃないと。
トゥインゴのクイックシフト5には、働き者の小さいおっさんが3人隠れているのだ。1人目はクラッチを断続させる役割、2人目はギアをアップ/ダウンさせる役割、3人目はその2人に指示を出す役割。そして運転者であるあなたの合計4人でクルマを運転していると考えよう。
発進は先ほど言ったとおり、とにかくやさしくアクセルを踏む。何度も繰り返していると、2速へシフトアップするために3人目のおっさんが1人目のおっさんにクラッチを切る指示を出すタイミングが分かってくる。そのタイミングに合わせて、あなたはアクセルを抜く。すると、1人目のおっさんが「お、そうそう、そのタイミング!」とほめてくれる(実際はほめてくれない)。で、今度は3人目のおっさんが2人目のおっさんに「2速に上げてよー」と言う。で、上げおわったらまたアクセルを踏む。
ちなみにこの一連の動作をするのは、1速から2速に上げるときだけでいい。2速から3速、またそれ以降はそれほどアクセル操作にナーバスになる必要はない。3人目のおっさんが言う「あとはこっちに任せてよ」の声が聞こえてくれば、あなたはもう「クイックシフト5エキスパート」である(実際はそんな声は聞こえない)。

タイヤ1785人間と機械の「主従関係」。

と、まぁ、こんな感じに機械を擬人化したくなるくらいクイックシフト5は電子的でありながらもどこかアナログな感じがする。そこに何となく愛着が持てるのだ。
このシステムは本当に優秀だと思う。時と場合によっては、人間よりも賢明な判断でクラッチ操作・シフト操作を行ってくれることもある。ただ、1速と2速のシフトチェンジだけはどうしてもスムーズにいかないので、そこは人間であるあなたが、ちょっと手助けしてあげる。そうすることで、機械と人間の一体感が生まれ、一般的なMTやATを運転するときとはまた違った充足感を抱くことができるのだ。
2014年になったいまでも、機械はまだ万能ではない。いや、そもそも万能である必要はないのかもしれない。人間が「主」で機械は「従」。この関係が保たれる限り、問題はスムーズに解決されるだろう。クイックシフト5についても、シフトチェンジという行為に限定すれば機械が「主」に思えるが、運転全体を考えればその行為は一部であり、あくまでも人間が「主」であることに変わりはない。
飛躍するが、近年、自動運転が脚光を浴びている。これまで多くの動作が自動化されてきたが、こと自動運転システムについては批判的なコメントが多く寄せられている。その根源は人間と機械の「主従関係」を崩そうとすることへの危機感から来るものではないだろうか、と思ったりもする。

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

エンブレム17832002y RENAULT Twingo Privilege QuickShift5
全長×全幅×全高/3425mm×1630mm×1435mm
ホイールベース/2345mm
車両重量/880kg
エンジン/水冷直列4気筒SOHC
排気量/1145cc
最大出力/43kW(58PS)/5250pm
最大トルク/91Nm(9.3kgm)/2500rpm

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3 Responses to “RENAULT Twingo QuickShift5”

  1. シバッチRS より:

    開発当時、シュコダの買収をVWと争っていてトゥインゴはチェコで生産するための切り札として
    構想されていたそうです。結局、VWに買収されてしまいましたが、その優れたパッケージング
    をそのままルノーブランドで活用することになったそうです。

    • へー!
      “足るを知れ”を悟らせてくれる車ですよ。

    • Morita より:

      ほおー、そんな背景があったんですか?
      シュコダの買収に成功していたら、
      シュコダブランドで出たのでしょうかね?
      それもまた興味深いですが……。

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