RENAULT 5 GT Turbo

やっぱりそうだ。と、このクルマに乗って再認識した。とんがったものを持ってるクルマは楽しい。その“とんがり”を手に入れるために他の何かが犠牲になったとしても、だ。多くの人はその犠牲を短所や欠点と呼ぶだろう。でも短所をおそれるがために長所も引き出せないなんて、それじゃただのフツーのクルマじゃないか。そんなのは、つまらないに決まってる。このクルマがおもしろいのは、短所になってしまうことをおそれず、長所をズバッと伸ばしたところ。その爽快感に尽きる。

無理やり収めた。

長らくクルマの紹介が空いてしまった。ああ、前回のクルマ紹介でヴァンテアンターボに乗ったのは暑かったなぁ、と思い出しながら今回のクルマ・サンクGTターボに向き合う。
期せずにしてサンクGTターボは前回のヴァンテアンターボと似たような出自を持つ。ベースのクルマをターボで武装し、パワーアップを図った高性能版という面では同じだ。古くはサンクターボの1.3リッターOHVに端を発するCタイプエンジン(1.1/1.4)は、1.4リッターエンジンにターボが装着され、オンズ(11)ターボ(ヌフ(9)ターボも同じ)に載せられた。その後、サンクが二世代目にモデルチェンジするのを機にサンクのホットバージョンである「GTターボ」の心臓として収まったわけだ。
いや、収まった、というより無理やり「収めた」といったほうが正解かもしれない。オンズはサンクよりも大きく、エンジンルームに余裕があった。そのオンズに載っていたエンジン+ターボをそのままサンクに押し込もうとすれは当然無理が出る。カウンターフローならまだスペースが作れそうなものの、こいつはクロスフロー。ミッションの上にタービンを置い……たら、コイルの行き場がなくなった。まぁ、いい。とりあえずずれてもらおう。インタークーラーはどうしよう。狭いからほんとは取っ払いたいんだけど、うーん。でも、あきらめられない……。仕方ない、ラジエターを小さくしてその横に置くしかないか。さぁ、動かしてみよう。い、いかん、これじゃエンジンルームが暑くなりすぎてキャブ内のガソリンが沸く。ん~、じゃあ、冷やすためにアンチパーコレーションファン(ヘッドの上を通っているダクト)を付けるか。場所ねーぞ。いやいや、これは背に腹だ。付けなまずい。
といった感じで、サンクターボのエンジニアが苦悶したかどうかは知らないが、おそらくこの小さなエンジンルームに収めるのは簡単ではなかったはずだ。性能を犠牲にしたくなかったばかりにエンジンルームは隙間なく、ギッチギチ。さらに1987年からJAXが日本に導入する際「エアコンも付けたい」となったからさぁ大変。コンプレッサーはもとより、エンジンルームの前面はラジエター、インタークーラー、コンデンサーがせめぎ合うことになり、さらにエンジンルームの風通しが悪くなったことは想像に難くない。

ターボ→インタークーラー→キャブ→エンジン

ターボの話で言えばこんなトピックスもある。サンクの血統で話すとGTターボの先代はサンクアルピーヌターボということになる。サンクアルピーヌターボは、サンクのスポーティモデルとして’70年代の終わりごろに登場。サンクアルピーヌにゴルディーニ譲りの840ユニットとターボを組み合わせ、パワーアップを図ったモデルだ。両者ともターボを搭載している点では同じだが、よく見るとかなり違うことに気付く。エンジンの搭載方法は、サンクアルピーヌターボは縦置き、サンクGTターボは横置きであることは周知の通りだが、キャブレターの位置がじつは違うのだ。サンクアルピーヌターボはエアクリーナーを通過した空気がキャブに行き、それから圧縮されてインマニへ導かれるのだが、サンクGTターボは空気がタービンで圧縮され、インタークーラーで冷却された後にキャブへ到達し、インマニへ行く。つまりサンクアルピーヌターボはターボの前にキャブがあり、サンクGTターボはターボの後にキャブがあるということになる。ターボの前にキャブがあるならキャブまわりにそれほど気を遣わなくていいが、サンクGTターボのように圧縮された空気がそのままキャブに入っていくと、キャブ自体を過給に耐えられるような構造にしなければならない。そのためか、サンクアルピーヌターボで使用されているキャブはウェーバーの32DIR75、サンクGTターボではソレックスの32DIS T2に変更されている(タービンはどちらもギャレット製)。
おそらくサンクアルピーヌターボの時代には過給に耐えられるキャブがなかったのだろう。そのためターボの前にキャブを置いたのかもしれない。混合気を過給するのは、信頼性や耐久性の関係でそれほどブーストを上げられない。結果的に、サンクアルピーヌはサンクGTターボよりもGTカー的な乗り味になっている。

13インチなのに195。

違いつながりで話せば、サンクGTターボの前期と後期の違いも興味深い。二代目のサンクは1984年に発表され、1988年にマイナーチェンジしており、87年式までを前期型、それ以降を後期型と呼んでいる。前期型はエアロパーツとオーバーフェンダーがグレーで、グリルやバンパーなどの意匠も変更されている。エンジンのスペックも前期型は85kW(115ps)/5700rpm、165Nm(16.8kgm)/3000rpmに対し、後期型は88kW(120PS)/5750rpm、165Nm(16.8kgm)/3750rpmと若干パワーアップ。そしていちばん顕著な違いは、ステアリングのフィーリングだという。これは僕の前期型と後期型の両方所有したことがある友人の話だが、乗ってみると双方はまるで違うクルマのような印象を受けたそうだ。その決定的な違いを生み出す要素はタイヤサイズにあるという。前期型は175/60R13なのに対し、後期型は195/55R13と2サイズも太いタイヤを履く。その影響で前期型のステアリングフィールは軽快そのものだが、後期型は反対にどっしりとした安定感に変わるそうだ。いまとなっては前期型と後期型を乗り比べるなんて贅沢な願いだが、いつかは前期型にも乗ってみたいと思う。

ヴァンテアンターボよりもドッカン。

スズキさんは「気を付けてねぇ~」と言いながらも、どこか口の端で微笑んでいるかのように見えた。その意味は比較的空いている夜の幹線道路へ出て、ちょっと深めにアクセルを踏んだ瞬間に分かった。ブースト計が一気に跳ね上がり、それとともにタコメーターの針がレッドゾーンに飛び込もうとする。パワー自体はたかだか120馬力程度なのに、この暴力的な加速ははるかにその数値を上回る。走り好きな人なら、このアクセルひと踏みで思わずにんまりしてしまうに違いない。
ヴァンテアンターボのときにも書いたが、やっぱりターボはこうでなくちゃいけない。トルクをひとまわり太らせ、燃費の向上を狙った最近のターボは効いているのか効いてないのか分からない(もちろん、それが狙いだというのは分かるが)。それじゃあ、つまらないのだ。「いまタービン回してがんがん圧縮した空気を送ってまっせー!」という雰囲気が右足に伝わる、いまの時代では後ろめたさすら感じる、そういう分かりやすいターボがいい。しかも、このクルマはヴァンテアンターボよりもドッカンだ。ヴァンテアンターボは2リッターで1.4リッターのこいつに比べれば、そもそもトルクが厚い。ドッカンターボと言われているが、サンクGTターボに乗った後ではヴァンテアンターボのほうがオトナに感じられる。サンクGTターボは小排気量なのでもともとトルクが薄い。だからブーストがかかったときの変化が感じやすいのだと思う。
胸の空く軽快な加速感とは対照的にステアリングフィールはなかなか重厚だ。車庫入れなどの極低速域ではとにかく重い。キックバックも強烈だ。ステアリングの内側に親指を入れていると、それが原因で捻挫してしまうくらいの鋭いパンチが飛んでくる。普通に走っているときは、いたって普通なんだが……。

基本性能がちゃんとしてるからこそ。

狭いエンジンルームに無理やりターボを詰め込んだ、しかも暴力的なドッカンターボで超重いステアリングのクルマ、と文字面だけ見ると、なんだかはちゃめちゃなクルマのように思われてしまうのだが、ここで「そうじゃない」と言っておかなければいけない。たしかにドッカンターボだが、どこに飛んでいくか分からないような恐怖感はないし、ステアリングフィールも(ただ一般的なノンアシストのステアリングに比べて)重いだけで、弱アンダーの特性を持ったマナーの良いものだ。ブレーキもすごくよく効く。つまりサンクというクルマのデキがいいからこそ、そこにやんちゃなターボをのっけても破綻しないのだ。ちゃんと走るし、曲がるし、止まる。そういう意味ではサンクGTターボは、一般のクルマ好きが楽しんで扱えるギリギリの位置にいるかのかもしれない。
ちなみに僕は以前、ミニのERAターボに乗ったことがあるのだが、あれはギリギリで破綻していた。パワー(というかターボの味付け)がクルマの基本性能を少しだけ超えていた。そのおかげで楽しいと同じくらい怖かったのをいまでも覚えている。

短所は、じつはただの短所ではない。

その圧倒的な加速感を味わいたくて、必要もないのにアクセルを踏みつけてしまう。こんな楽しいクルマを手に入れることができたらどんなにいいだろう、と一瞬思いかけたが、そこでスズキさんの言葉が頭をよぎる。飼いならすのはそれなりに大変だというのだ。夏はエアコンが期待できないこと、渋滞に捕まると水温計の針とにらめっこになること、1.4リッターとはいえ、電子制御を持たないキャブレター&ターボなので燃費が良くないこと、整備性が悪いこと、など、それなりの覚悟を持って臨まないと、良好な関係は結べない。エアコン取っ払って、夏以外に乗るセカンドカーとしてならいいかもしれない。贅沢だなぁ。でも一回乗ると、そういうことまで考えてしまうほどの魅力がこのクルマにはある。ともあれ、大変な想いをしながらも、それでもこのクルマが好きで乗りつづけているというオーナーには男の粋を感じるし、称賛に値すると思う。
冒頭に短所と長所のことを書いた。サンクGTターボに当てはめてみると「短所と長所がはっきりしているクルマ」と言えそうだ。しかし、このクルマが抱えるネガは本当に短所なのだろうか。短所をなくそうとしたら、同時に長所もなくなってしまうのではないか。エンジンルームのスペースを少しでも稼ぐためにインタークーラーを排除したら、このスペックは保てないだろうし、燃費向上を図るためにインジェクションにすれば、きっとこのやんちゃな性格は矯正される。重いステアリングだってパワステにすればいいだろうが、それも加えたらエンジンルームはさらに狭くなってしまうだろう。このクルマの短所は結果的に短所になってしまったのであって、その実は長所を活かすための大事な要素だったのではないだろうか。

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

1990y RENAULT 5 GT Turbo
全長×全幅×全高/3600mm×1600mm×1360mm
ホイールベース/2405mm
車両重量/880kg
エンジン/水冷直列4気筒OHV+ターボチャージャー
排気量/1397cc
最大出力/88kW(120PS)/5750rpm
最大トルク/165Nm(16.8kgm)/3750rpm

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12 Responses to “RENAULT 5 GT Turbo”

  1. tomo より:

    私は、90年式の白を91年に当時のディーラーであるJAXで購入して依頼21年に成ります。
    購入当初は、第三京浜で軽自動車料金を請求されたりと””ミラ・ターボ”じゃないと様々な逸話がありますが、○00Kmオーバーでも安定したハンドリングと其処からのフルブレーキでのコントロール性のよさは、スペックでは語れない”職人技”を感じさせる車だと思います。
    また、2速から踏み込んだ時の加速感は未だに胸が空く感覚は、今でも色あせる事は有りません。
    過去に、何度か乗り換えを考えた事がありますが結局はサンクGTターボを凌ぐ車にめぐり遭えずに今に至っています。
    因みに、強烈なキックバックは、アクセルワークで切り戻しをせずにコーナーを抜けられるなど利点もあるんです。

    • コメント有り難う御座います。
      いや、イイクルマ、というか、オモシロイクルマですよ、GT-Turbo。
      少しくらいの苦労は厭わないんです、って言って乗ってみえる好事家さん少なからずです。
      (それ以外の方は世話しきれずにメゲて終わらせちゃいますが。。。)

    • morita より:

      tomoさん、コメントありがとうございます。
      大事に乗られているのですね。
      GTターボの魅力は、やはりこのクルマしかない爽快感だと思います。
      だから皆さん、苦労してでも維持されているんでしょう。
      (それにしても「ミラ・ターボ」はひどい……(苦笑)

      キックバック、なるほどです。
      気を付けないとケガしそうですけどね。

  2. JR浜松 より:

    通りすがりなのですが、これが出た時に購入し(ブラック)2年くらい乗ってました(子供が産まれて泣く泣く買い替えました)読んでいてまさにその通りだと思い出しました。
    当時はホンダ車などからよくパッシングされて楽しんだ記憶があります。一度旅行中にクラッチを繋いでいるコードの先端が割れて抜けてしまいペダルがフラフラになって走行出来なくなったのは良い思い出です。沼津にJAX提携のショップさんがありすぐに駆けつけてくれてことなきをえました(笑)夏場のエアコンだけは、我慢に堪え難い思いをしましたが、冬場は最高でしたよ(^^。

    • 書き込み有り難う御座います。
      クラッチワイヤー切れ、時折ありますねぇ。クラッチ旧くなってくると重くなるので、旧いワイヤーじゃ耐えれないんですよ。
      クーラーは・・・まぁ期待しないで。(笑)
      という感じで、どうぞ何卒で御座います。

    • URL修正しました。まつがっている支障あるようでしたらご指示下さい。

    • morita より:

      コメントありがとうございます。
      JR浜松さんにとって、思い出深いクルマだったようですね。
      実際に乗っても忘れられないくらいのインパクトがあり、
      とても楽しかったです。
      いまはこういう尖ったクルマが少ないので、残念です。
      これも時代ですかねぇ。

  3. ブログマン より:

    こんにちは。
    ルノールーテシア初代の没個性(?)と申しますか普通さに惹かれて

    ネットサーフィンで貴HPを訪問したものです。

    サンクのブルー色、良いですね。 

    落ち葉との対比で際立つ美しさです。

    さて、ドッカンターボとのこと。 学生時代にスターレットターボを拝借して

    走った事がありますが、当時はバブルで渋滞がそこかしこで発生しており、

    ノロノロ速度あっても望みもしないターボが効いて、首がガックンガックンとなって

    往生したことを思い出します。

    サンクターボも低回転からターボが強烈に効く性格なのでしょうか?

    それからルーテシアについてはHP主様は詳しいでしょうか? 

    • すずき@PMG4 より:

      この頃のターボ車は、基本、ブースト掛けっぱでうりゃうりゃ乗るか、過給がかからんとこでノソノソ乗るか、どっちかじゃないかなぁ?
      そのドッカンの差はインジェクションターボほど甘くなく、それが無理ならキャブターボは扱えないんじゃないかな?

      ルーテシアに関して?普通の車屋が知ってることくらいは知ってますよたぶん。

  4. ブログマン より:

    こんにちわ。
    お教えいただきたいのですがルーテシア フェイズ1とフェイズ2の機構の違いは何でしょうか。

    メカ的な信頼度が1よりも2の方が上なのでしょうけど、何がどう変更されたのか。

    また1を乗る場合の注意すること。 例えばタイミングベルトは6万KMで交換する等です。

    ご教授をお願い申し上げます。

    • すずき@PMG4 より:

      買うお店で現物を前にしてご相談されたほうが確実だと思います。
      きっと懇切丁寧に説明してくれることだと思います。

  5. ブログマン より:

    ありがとうございました。

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