RMT(ロボタイズド・マニュアル・トランスミッション)ってどう?

何気に登場回数の多いトゥインゴ。過去、トゥインゴ1のクイックシフト5(以下、QS5)トゥインゴ2のRS「最近の1.2リッターNAってどう?」のときクリオ1.2といっしょに登場したトゥインゴ2のQS5。そして今回もトゥインゴ2のQS5だ。しかし、車両の話はもうお腹いっぱいなので、今回はQS5に代表されるトランスミッションについて話そうと思う。ちまたでは、セミオートマとか2ペダルMTとかSQ(シーケンシャル)とか、はたまたAMT(オートメイテッド・マニュアル・トランスミッション)とか、何だかよく意味が分からない呼び名で表現されているが、ヴィブルミノリテでは「RMT(ロボタイズド・マニュアル・トランスミッション)」と表現させていただく。

だから、ATじゃないんだってば!

 

最初はおさらいから。RMT(シングルクラッチタイプ)とは何か? 簡単に言ってしまえば、変速を自動化したMTのことである。通常のMTの場合、変速する際は人間がクラッチの断接とシフトチェンジを行うが、RMTの場合はクラッチの断接とシフトチェンジを機械に任せている。もうちょっと詳しく言うと、制御用のオイルをポンプで高圧にし、アキュムレーターに蓄え、その力を使ってクラッチを断接。シフトレバーの代わりにシフトフォーク(任意のギアを選択する主要部品)を油圧で動かし、変速している。で、その制御はコンピューターがやる、と。だから、人間はアクセルを踏むだけで、あとは勝手に機械が変速してくれるという仕組みだ。アクセルのコントロールもドライブバイワイヤによるもので、RMT には必須。回転数が合わなくても、適切なアクセル開度を調整してくれる。それじゃあ、ATといっしょじゃん。と思われるかもしれないが、違う。まったくもって根本的に違う。一般的なATはトルクコンバーター式(以下、トルコン)の専用トランスミッションが搭載されているが、RMTはMTが載っている。つまりATのような感覚で運転できたとしても、エンジンルーム内では機械がMTを操作しているのだ。だから当然、シフトチェンジのときに多少のショックがあるし、ブレーキを離してもクリープしないし、坂道でブレーキを離せばバックする(最近のはクリープを演出する機能や坂道発進をアシストする「ヒルストップ」とかいうデバイスが付いているものもある)。ATしか乗ったことのない人、もしくは構造を理解できない人は、ここに文句をつける。シフトショックがある。坂道のときバックして怖い。そりゃそうだ。ATじゃないんだもん。

 

イタフラ車はRMT花盛り。

 

では、RMTを採用するメリットは何だろうか。列挙してみると、

1・トルコンでのパワーロスがなく、燃費向上、ダイレクト感がある

2・コストが安い

3・ATに比べ、軽量にできる

と、まぁ、大きなメリットはこの3つだろう。日本ではATが多く使用されているが、欧州車はMTが大半を占める。自動化するためにわざわざATを採用するより、MTをベースに使ったほうが安上がりなのだろう。

欧州車で多くみられるRMTだが、国産車にも採用例がいくつかある。世界で初めて乾式クラッチ式でこのシステムを‘実用化させたのは、いすゞだ。1984年にアスカに搭載された「NAVi-5」である。その後、トラック用に進化を遂げ「NAVi-6」へ発展させたが、乗用車用としては、残念ながら当時の技術ではきめ細かな制御ができず、ATを凌駕するには程遠い結果となった。

空白期間を置いて、2000年にトヨタMR-Sが電磁クラッチ+MTのセミATを搭載。2009年にはレクサスLF-AにアイシンAI製のASG(Automated Sequential Gearbox)が載る。2014年には軽自動車としては初めてスズキの現行キャリイ、現行アルトにAGS(Auto Gear Shift)が搭載された。

では、欧州、とくにフランス・イタリア車ではどうだろうか? かつてはシトロエンDS、CX、GSにCマチックと呼ばれるセミATが存在した。その後1997年、トゥインゴ1にイージーシステムが採用される。変速は人間が行うが、クラッチの断接は機械が行うタイプのものだ。その後、イージーシステムはQS5に昇華し、クラッチ断接も変速も自動で行えるようになった。この頃になると、各社RMTをラインナップしはじめるようになる。プジョーは1007に「2トロニック」、シトロエンはC2などに「センソドライブ」、フィアットはプントなどに「デュアロジック」、ランチアはイプシロンなどに「D.F.N.(Dolce Far Niente=何もしない甘美さ)」、アルファ・ロメオは156などに「セレスピード」と、各社名前は違うがRMTの基本的な構造は同じだ(後発のセンソドライブのみ、油圧ではなくモーターで動作しているが、もちろんこれもRMTの仲間)。

 

不運なイージー。

 

Cマチックの頃のセミATは、単にクラッチを踏むという動作をなくすることで快適性を求めたが、イージーの頃になるとそれに加え、動力の伝達効率をいかに上げるかが課題となった。なんせ1000ccほどの非力なエンジンである。ATを載せればトルコンでパワーをロスしてしまうし、重量増を招く。ATのように快適でありながらも、動力の伝達効率は下げたくない。それに欧州の交通事情も背景にある。シグナルグランプリが日常で一時停止が少ない欧州では、ATだとモタついてクルマの流れについていけない。停車から発進は全行程上のごく一部。だからMTが普及したのだと考えるのだが、それでも人間なのでラクはしたい。となると、やはりRMTの存在価値が出てくる。そのようなニーズを考慮した上で、ルノーの出した答えがトゥインゴ1に搭載した「イージーシステム」である。

しかし、このイージーシステム、日本では不評だった。いや、不運だったというべきか。というのも、かわいらしくておしゃれなフランス車が140万円くらいで、しかもAT限定免許でも乗れるとあって、国産AT車しか乗ったことがないユーザーも購入していったからだ。しかし、イージーにはATモードが付いていないので、クラッチを踏む動作は省けたとしても、運転感覚はMTに近い。MT経験のある人は、半クラッチの状態はなるべく短いほうがいいという認識があるが、ATしか乗ったことのない人はその感覚がない。しかも、ストップ&ゴーの多い交通環境である。渋滞に捕まっても、2速に入れたままずっと半クラ状態を強いる運転なんかしちゃった日にゃ、そりゃ壊れるわな。アキュームレーターは消耗し、ポンプモーターが逝き、まさに“多臓器疾患”という結果に陥るのは目に見えている。実際、田舎で走っているイージーは、意外と壊れないそうだ。

さらにイージーにはスムーズな動作のためのセンサーがいろいろ付いているのだけど、特にシフトの動きを検知するシフトレバーセンサーと、何速に入っているかを検知するシフトポジションセンサーの微妙な関係が問題視された。どういうことかというと、たとえシフトレバーセンサーが壊れたとしても、その働きをシフトポジションセンサーがご丁寧に補完して、何とか運転できてしまうのだ。シフトレバーセンサーが故障すると、必然的に半クラ状態が長くなってしまうが、まったく動かなくなることはない。しかし、正常時と比べて確実にクラッチの消耗を早めてしまう。半クラ状態が長いか短いかなんて、新車から乗っていて正常な状態を知っている人ならまだしも、中古で買った人なら「こんなもんか」と思うだろう。で、結局、壊れているのを知らないまま、乗り続けているとクラッチが滑り出して、はい終了……である(ま、換えればいいんだけどね)。特に100万円台半ばのクルマが古くなって安いから買ったという場合は、クラッチ交換もろもろにかかる費用を払えない場合も多いだろう。

ただ、その故障に気づいたとしても、シフトレバーセンサー内蔵のシフトレバーは5、6万円したし、シフトポジションセンサーも3万円くらいするもんだから、トゥインゴにそれプラス工賃を払ってまで直そうという気概のある人がどれだけいただろうか(いや、そんなにいないだろう反語)。イージーシステムは、たとえアキュムレーターだけ壊れたとしても、ごっそりユニットごと変えるのが定説。そりゃあもう、すごい金額になるのは想像に難くない。そんなわけで、ちまたではイージーシステムの修理をあきらめ、パック化(5MT)するなんて改造も行われたりした。ただ、パックから持ってきた中古のクラッチも、その時点で減ってる可能性がある。とりあえず乗れるようになるだろうが、じきにクラッチ交換は免れないだろう。

 

ATよりも運転する楽しさはある。

 

イージーは不運だったが、まぁ、それは昔のこと。その後の第2世代とも呼べるQS5やそれに似た各社のシステムは、さすがにイージーほどの大変さはない。セレスピードなんかはちゃんとテスターがあって、つなぐとそれぞれのパーツの状態が診断できるので、管理しやすくなっているし(とはいえ、初期はトラブル続出でそれなりに大変だったが)、いちばん後発のセンソドライブはシフトチェンジのタイムラグを詰めるために電動モーターを採用したのではないかと言われるくらい変速がスピーディーだ。もちろんQS5もその熟成度は高く、普通に乗る分にはまったくもって快適。クリープもATよりは弱いが、電子制御クラッチで絶妙に演出されている。先述したようにクラッチの断接には多少のショックはあるものの、アクセルを踏んでパワーをかけたときのダイレクト感はATの比じゃないし、マニュアルモードで乗れば、MTに近い運転フィールを味わうことができる。RMTの構造を理解し、シフトのショックやタイムラグも「こういうもの」と捉えることができる人なら、ATよりも運転する楽しさを与えてくれると思う。まぁ、理想をどこに置くかだ。パワーロス感も関係なく、あの変速ショックがイヤって人はATやCVTを選べばいい。

 

DCTが世界を席巻するのか!?

 

と、RMTについていろいろ語ったものの、時代の潮流はあきらかに「DCT(Dual Clutch Transmission)」である。同じRMTでありながら、クラッチを2つ持つことでシングルクラッチタイプよりも変速時間を大幅に短縮(というか事実上ゼロ)させたのだ。VWが「DSG」として一気に普及させた新時代のRMT。余談だが、DSGの普及はVWだからこそできた力技だと思う。半ば強制的にATを排除し、DSGにしちゃったんだから。生産台数を増やして、コストを下げて、それなりの品質をキープし、しれーっと移行させたのはある意味すごい。その流れに乗ってルノーは「EDC(Efficient Dual Clutch)」、アルファ・ロメオは「Alfa TCT(Twin Clutch Technology)」を出してきた。個人的には、ルーテシア4RSがEDC1本というのはやりすぎな気がしないでもないが。
今後はDCTの普及によってコストが下がり、小排気量車にも搭載されるようになるのか(トゥインゴ3はEDCになるという噂。となるとQSはトラフィックのQS6しか残らなくなる?)。それとも、小排気量車は従来通りシングルクラッチのRMTが採用されつづけるのか。何となく前者のような気がするが、個人的にはアナログ感が残るシングルクラッチのRMTが存続していってくれることを願う。

 

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

 

 

2010y RENAULT Twingo QuickShift5

全長×全幅×全高/3600mm×1655mm×1470mm
ホイールベース/2365mm
車両重量/980kg
エンジン/水冷直列4気筒SOHC
排気量/1148cc
最大出力/56kW(75PS)/5500rpm
最大トルク/107Nm(10.9kgm)/4250rpm

Share

5 Responses to “RMT(ロボタイズド・マニュアル・トランスミッション)ってどう?”

  1. rallye より:

    アスカは、教習車でした、当然MTですけど。
    TwinAirのミッションは、普通に良いですよ。
    わざわざ、マニュアルモードにはしないですね。
    シフトダウンはしますけど。
    アイドルストップは、バグがあるみたいですねぇ。
    どこかで、誤判断していて、最近はエンジン止まらないですぅ。

    • ほー。ってか、止まらないでいいですけども。(人間旧いのでドキッとするノデ。)

    • Morita Eiichi より:

      アスカ、なつかしいですよね(笑)。
      rallyさんは500のオーナーさんなんですね。
      僕もおそらくRMTのクルマを所有したら、
      マニュアルモードでは運転しないと思います。

      • rallye より:

        500cとclioがいますよ〜

        • Morita Eiichi より:

          イイですね!!

Leave a Reply