RENAULT Megane Estate GT220

そのクルマにおいて魅力は1つ、もしくは2つくらいでいいと思っている。たとえば、速い。たとえば、軽い。たとえば、荷物がたくさん積める。クルマの持つ魅力はデザイン的な要素も含め、いくつか列挙できる。しかし、その数が多いほどそのクルマは魅力的になるのだろうか。僕はそうは思わない。魅力が多いほど、そのクルマらしさが薄れるからだ。いや、厳密に言えば、魅力をたくさん詰め込もうとする企画者の思考が、そのクルマらしさを薄めている。かといって、魅力が複数ないと販売面で苦戦するという現実があるのも確かだ。現代において「魅力が少ないクルマほど魅力的である」という方向性を実現するためには、強力なブランド力がないと成功しないのかもしれない。

当該車はフェーズ2でフェイスリフトを受けたモデル。いわゆる”ヴァンデンアッカー顔”になったメガーヌだ。フェーズ1よりも顔の各部分の輪郭がはっきりし、メリハリがついた印象になった

アンバランスがバランスする。

メガーヌは1995年にデビューしたモデルで、19の後継モデルと言われているCセグメントにあたるクルマだ。初代メガーヌ1は1.6L/2.0Lエンジンを積んだごく平凡な5ドアハッチバックだった(2.0L 16Vのクーペというホットモデルもあったが)。しかし2002年に2代目へ進化すると、まずそのデザインが劇的に変わった。「退屈へのレジスタンス」という刺激的なキャッチコピーは、そのデザインに充分見合うもので、垂直に切り立ったリアウィンドウや大胆に突き出たリアゲートはこれまでのコンサバティブなメガーヌのデザイン路線をまったく引き継がず、フロントセクションとリアセクションのアンバランス感を生んだ。しかし、そのアンバランスが絶妙にバランスしているところがメガーヌの魅力であり、パトリック・ルケモンの真骨頂なのである。あのデザインにヤラれて、いまなおメガーヌ2を愛するユーザーも多い。

もともとは「エステートGT」として数量限定で導入されたモデル。いまではカタログモデルとしてラインナップされている。こういう立ち位置のクルマは、他メーカーを見てもあまりない

また、バリエーションも飛躍的に増えた。3ドア、5ドアはもちろん、ルノーのモータースポーツ部門の開発を請け負う「ルノー・スポール(RS)」がチューンにした高性能モデルやカブリオレ、ワゴン、そして4ドアも一部地域で販売された。

2008年になると3代目へ移行する。ボディタイプはメガーヌ2と同様、3ドア、5ドア、ワゴン、カブリオレで4ドアは「フルエンス」という新しいモデルとして独立。エンジンは1.6L/2.0LのNAとターボだったが、フェーズ2になると1.2L/1.4L/2.0Lのターボモデルになる。ちなみにこの3種類のエンジンはルノー初となる直噴エンジンだ。

 

インテリアのデザインはRSとほぼ同じ。さりげなく赤の差し色を交え、大人っぽく質感も豊か。 ハンドル位置は右のみで、トランスミッションは6段のマニュアル。ダッシュボード中央にはRSモニターが配置され、出力、ブースト圧、アクセル開度などが表示できる。スピードメーターは270km/hまで刻まれるRSの名を冠していないGT220はRSと何が違う?

日本へは2010年にRS(250ps/LHD)が先行で発売され、エステートと呼ばれるワゴンモデルは2011年から発売(RSはのちに265ps/RHDに変更される)。このエステートには「GTライン」と「GT220」の2タイプがある。GTラインは2.0L NA(日産製M4R型)+CVTで、GT220は2.0Lターボ(ルノー製F4R型)+6MT。同じ「GT」と名が付きながら、中身はまったく別物である。

GT220のもっとも大きな魅力はエンジンだ。これはRS用のエンジンを220psまでデチューンしたもので、車名に「RS」と記載されないものの、ダッシュボードやエンジン、リアゲートのエンブレム部分には「RENAULT SPORT」のロゴが入る。その範囲はエンジンだけでなく、シャシー、足回り、ブレーキ、パワステの制御まで入るから、もうほとんどRSと言っていい。細部に目を移してもRSと共通の部品が多い。18インチタイヤの「ダンロップSPスポーツマックスTT」はRSのシャシースポールが履くものと同じだし、RSモニター(加速G、ゼロヨンタイムなど各種走行状況を表示する機能)、ステアリングホイール、アルミペダルもRSと同様のものを使っている。シートも本国仕様のRSが装備する標準シートと同じだ(表皮の種類は違う)。

そうやってみると逆にRSと違うところはどこなのか? そっちを探したほうが早い気がする。率直に言うとハード面ではGT220のフロントサスペンションの形式がノーマルのストラットだというくらい(RSは「DASSダブル・アクスル・ストラット・サスペンション)」を採用)。感覚面ではRSよりも若干ソフトな味付けで、よりグランツーリズモとしての性格を強めているといった感じだろうか。

 

シートはレザーとファブリックの混合。メガーヌ2のファブリックシートようなしっとり感とは違って「しっかり感」のある感触だ

ワゴン車を忘れる走り。

今回の試乗コースは、街中とちょっとしたワインディング。クルマに乗り込んで最初に目を引いたのは、カーボン調のパネルに赤いライン、レザーステアリングにも赤いステッチが施され、硬派でありながらもおしゃれなワンポイントが効いているデザインだ(ここ最近のルノー車の中でも特に優れた造形だと思う)。

走り出すとステアリングは思ったよりも軽く、クラッチペダルを踏む力も大して必要としない。低速域では多少の硬さが感じられるものの、ハイパフォーマンスモデルとは思えないフレンドリーさだ。

交差点で止まるとエンジンも停止。ああ、アイドリングストップ。ちょっと前まではこの機構、ドキッとするのでやめてほしいなぁ、と思っていたのだが、最近はそれにもようやく慣れてきた(スターターモーターやバッテリーに負担をかけているという罪悪感はいまだぬぐえないが)。アイドリングストップはMT車のみに装備しており、CVTには装備されないところを見るとさすがルノーだな、と思ってしまう。おそらくCVTにはこのまま装備されず、EDCへ移行していくのだろう。

このアイドリングストップ機構、さまざまな条件に合致しないとエンジンを止めないらしいが、今回試乗した限りではけっこうな頻度で止めてくれた。下手すると信号で停まるためにニュートラルで空走させている間に止まったりもする。そして発進するときの再始動のタイミングも早い。クラッチに足を乗せた瞬間にスターターモーターが回って、エンジンをかけてくれるのでイライラさせられることもない。

RSよりもホイールベースを60mm延長。リアシートの居住性も充分に保たれている。これなら家族から文句が出ることもないだろう

そんなにハードじゃないワインディングに入る。アクセルペダルを深く踏み込むと、大きなトルクとともに1.4tの車体をグイグイと、そしてなめらかに引っ張っていく。いまどきのターボ車同様、まったくターボの存在を感じさせない加速感。速いのだけど、しっかりとしたシャシーと足回りに支えられ、恐怖感はまったくない。そのスピードを殺すブレーキもまた秀逸だった。ブレーキキャリパー&ローターの取付け剛性が高いのだろう。強く踏めば踏むほど足の裏からしっかり感が伝わってくる。この安心感はハイパワー車だからこそうれしい。

さらにコーナーを回って気づいたのが、かなりスポーティーなハンドル特性が与えられていること。ほとんどまっすぐの道を走っていたときは、まったく気づかなかった。完全なGTかと思っていたが、ワインディングもかなりイケるのだ。これまでそれほどワゴン車に乗った経験があるわけじゃないけど、このハンドリングはボルボの「R」よりもレガシーの「GT」よりもスポーティーだ。2700mmのホイールベースを感じさせないクイックな挙動は、うれしい発見。途中からこのクルマがワゴン車であることを忘れてしまうほど楽しんでしまった。

ラゲッジの容量はハッチバックよりも114L多い486L。6:4の分割可倒式のシートバックを倒せば最大1516Lまで拡大できる。ラゲッジの床下にはちょっとした収納スペースも用意されている

扱えないほどハイパワーでもなく、パワー&トルクの特性がピーキーすぎるわけでもなく、安心のシャシー&足回りの中で気持ちよく遊ばせてもらえる……。GT220は、刺激と安心感がうまい具合に調和しているクルマと言える。

しかし、である。きっとGT220の真価を味わうためには、高速道路に持ち込むのがいちばんだろう。あくまでも想像だが、きっとこのクルマも”ルノー・ライド”の持ち主である。速度が上がれば上がるほどフラット感が増し、スピード感がなくなるあの感じ。気が付いたらちょっと言えないような速度になっているから、気をつけないといけないだろう。リラックスして運転できるから、200~300kmは休憩なしでも、いやむしろ休憩しないで走り続けたいと思うようなクルマ……であるはずだ。そういう観点でとらえれば、以前紹介したラグナ・ワゴンに似ているかもしれない。

 

220psを発生させるエンジンは、RSと同様のツインスクロール式ターボエンジンをデチューンしたもの。最大トルクはRSが360Nm (36.7kgm)/3000rpm、GT 220は340Nm(34.7kgm)/2400rpm。GT220のほうが低回転域で最大トルクを発生させる

いいところを突いてくるなぁ。

いわゆる「スポーツワゴン」と呼ばれるカテゴリは確かにあって、ラテン車以外にも目を向ければ、ワゴンボディにハイパワーなエンジンを載せたモデルはけっこうある。主にドイツ勢だが400psどころか、500psオーバーなんてのもザラだ。そんなモデルに比べたら、220psなんてかわいいものだが、スペック判断ではなく、感覚判断で決めるのではあれば、エステートGT220はかなり「絶妙な立ち位置」にあり「いいところを突いてくるなぁ、ルノーさんよぉ」と言いたくなる。つまりバカみたいにハイパワーなワゴン車はいくらいでもあるが、この「ちょうどいい」ラインを狙っているクルマはほとんどない、ということだ。

メガーヌRSまでは必要ないけど、走りを楽しめるMTに乗りたい。サイズはそれほど大きくなくていいけど、デザインはかっこよくないとダメ。家族持ちなので、人を快適に運べるだけでなく、荷物もそれなりに積みたい。で、もっと言えば値段もそこそこだとうれしい……。かなり欲張った要求だけど、これに応えられるモデルって、もうエステートGT220しかないんじゃないかと思う。

タイヤは225/40R18の「ダンロップ・スポーツマックスTT」。ブレーキキャリパーはRSのようなブレンボ製ではないが、大径タイプでかなりしっかりとしている

冒頭で「多くの魅力を追ったクルマは、逆に魅力が薄まる」といった意味合いのことを書いたが、このクルマはそれに当てはまらないどころか、むしろ孤高の存在感を放っている。ニッチなターゲットだから爆発的に売れることはないだろう。しかし、このクルマにハマった人は、このクルマ以外の存在には目もくれないんじゃないか。それだけ愛される価値を持ったクルマなのである。

 

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

 

 

エンブレム_04572013y REAULT Megane Estate GT220

全長×全幅×全高/4565mm×1810mm×1490mm
ホイールベース/2700mm
車両重量/1450kg
エンジン/水冷直列4気筒DOHC16Vターボ
排気量/1998cc
最大出力/162kW(220PS)/5500rpm
最大トルク/340Nm(34.7kgm)/2400rpm

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