RENAULT Twingo 1.2 TCe GT & GT Coupe des Alpes

クルマが好きな方なら、一度は考えたことのあるテーマ。「クルマはノーマルが最高なのか?」。この問いはクルマを一般的な使い方で使う人にとっては「Yes」だ。賢い技術者たちが、どんな人が乗っても平均点以上のパフォーマンスを発揮できるように設計、製造しているのだから。でも、クルマを一般的な使い方ではなく、どこかに特化した使い方をする人もいる。そういう人とっては、クルマをそれぞれの使い方に合わせたセッティングにし、場合によってはチューニングを施さなければならない。特化したい領域においてノーマルでは物足りなくなるので、答えは必然的に「No」となる。さて、あなたはどちらだろうか。

素のGTとCdA、外観の識別ポイントはアルミホイールが最も分かりやすい。素のGTのフォグランプの外側には「GT」の文字があるのだが、CdAには書かれていない。というか、CdAの車体にはそもそも「GT」の文字がないトゥインゴ大好き。

ヴィブル・ミノリテに取り上げるルノー車、何気にトゥインゴが多いことに気づく。トゥインゴ1の最初期型クイックシフト5トゥインゴ2の1.2(クイックシフト5)、RS、そして今回紹介するGT。すずきさんも僕もトゥインゴが大好きなのだが、しつこく紹介するのはルノー車の裾野を固めるエントリーモデルであり、大衆車。このクラスはいろんな性能が求められるから、メーカーの考え方が如実に現れるし、グレードや仕様によってキャラクターが違っておもしろいという理由もある。今回のGTも、素のGTとクープ・デ・ザルプで微妙に乗り味が違ったりするのでさらに興味深い。ということで、今回はトゥインゴGT vs トゥインゴGT。同グレードの仕様違いを2台同時に紹介する。

 

こちらは素のGTのリアビューGTはターボエンジン。

トゥインゴの成り立ちは過去さんざん説明しているので、ここでは省略するとして。GTの最大の特徴であるエンジンの話からしよう。トゥインゴ2のガソリンエンジンにはNAの1.2L(D4F)、1.6L(K4M)の2種類があり、1.2Lはベースグレードのトゥインゴに採用され、1.6Lはルノースポールに採用されている。GTは1.2Lのほうにターボを付けた「TCe(Turbo Control Efficiency)」エンジンだ。このエンジンは言うまでもなく、ターボで燃費を稼ぐタイプのもので、昔のターボのようにパワーを稼ぐタイプではない。しかし、ターボが効いているかどうか分からない現代のターボエンジンの中においては、比較的その効きが分かりやすいほうだと思う。トゥインゴGTのおもしろさは、まさにここにある。

 

こちらは素のGTのインテリア。CdAとの大きな違いはない。クルーズコントロール、オートエアコンなど快適装備も充実しているトゥインゴRSとはまた違う楽しさ。

アクセルをグッと踏み込んで4000rpmを超えたあたりから、ターボ独特のパワー感が出始め、レブリミッターが効く6000rpmあたりまで切れ味のいい加速を見せる。昨今の燃費重視な低圧ターボは体感しにくいが、トゥインゴは小排気量なのでまだ分かりやすい。エンジンの回転数を4000rpm以上をキープしながら、マニュアルミッションを操作して走るのはじつに楽しい。トゥインゴRSは1.6LだからGTに比べてそもそもトルクがある。だから回転数が低いところからでも、踏んでいけばグイッとトルクが持ち上がってくるが、GTはターボなので過給が充分に得られる回転数を維持して走りたい。この辺がルノースポールと違い、GTならではのドライビングフィールだ(まったく燃費重視の走り方ではなくなるが……)。

運転席のシート。CdAは素のGTより20mmダウン。個人的にはこのくらい下がっていたほうが自然なポジションだと思ったが、腰やひざが良くない方には、素のGTのほうが乗り降りしやすそうだシャシーはもちろん、トゥインゴ1より格段に剛性が増し、大きな安心感を得ているが、RSほど硬くなく「ちょっと山道を走り込んでみたいな」というときにちょうどいい。硬いシャシーはダイレクト感に富んでいるが、同時に身体への影響が大きい。その点トゥインゴGTは、適度なしなりがありながら芯がしっかりとしているので、走り疲れも少なそうだ。

 

エンストしちゃう。

数時間乗り込んだ後、ちょっとした異変が起きはじめる。そんなもったいぶるようなことではないのだが、ゼロ発進からのエンストが目立つようになってきたのだ。最初はたまたまだろうと思っていたのだが、青信号からスタートするとき、車庫入れのとき、とにかくエンストを連発するようになって、思わず考え込んでしまった。

後席はトゥインゴ伝統のスライドシート。トゥインゴ1は座面が一体だったが、トゥインゴ2からは左右独立でスライドできるようになった。いちばん後ろまで下げると、コンパクトカーとは思えないゆったり感!おそらく理由はこうだ。ターボの力強さに慣れてしまって、1.2Lエンジンということを忘れてしまっているからじゃないか。運転しているうちに1.6Lくらいのエンジンを積んでいるクルマのイメージになっちゃっているから、発進のときもそれくらいの感じでクラッチをつないでしまうのだ。でも、ターボはアイドリング+アルファの回転域では効かない。超低回転域は1.2Lそのものだから、トルク不足でエンストする。この現象はトゥインゴGTに慣れたときから頻発しだす。うちの嫁にも運転させたところ、同じような現象になったから僕だけの話ではないみたいだ。

まぁ、とは言っても、それがトゥインゴの機械的なネガであるはずもなく、ただゼロ発進のときに回転を上げ気味にしてつなげば済む話なので、まったく問題ない。ただ、これまで経験をしたことのない現象を体験したので、ちょっとおもしろかっただけ。トゥインゴが悪いわけじゃないので、誤解なきよう。

 

GT独自の装備、電動パノラミックルーフ。3ポジションのスライドとチルトが可能だシャシー、とくにフロアをチューニング。

さてお次はクープ・デ・ザルプだ。ルノースポールが登場する前まで、ルノーのハイパフォーマンスモデルは「アルピーヌ」が受け持っていたのは多くの方がご存じだろう。その創設者であるジャン・レデレー氏が1954年にルノー4CVを駆り、あるラリーで優勝を飾った。そのラリー名が「クープ・デ・ザルプ(以下、CdA)」なのだ。

それにしてもなんで「Coupe des Alpes」が「クープ・デ・ザルプ」になるのか。「クープ・デス・アルプス」じゃねーのかと。クープはそのままだけど、desとAlpesがくっついてデザルプ。なんでここだけくっつんや。と、思わずふだん話もしない関西弁でツッコミたくなる。こうやって2つの単語がくっついちゃうのを「リエゾン」と言うらしいが、これについてあれこれ言っても理由はない。そういうもんだと受け入れるしかない。さすがフランス語だ。

さて、このCdAはトゥインゴ2の数ある限定車のひとつなのだが、その中でも特に気合が入っているモデルだ。CdAに装着されるパーツを用意したのは、ルノー車のチューニングで有名な「SiFo」。シャシーのチューニングに力を入れたという。

フロント両方のロワアームの付け根をシングルビームで結び、フロントサブフレームの後端からフロアトンネルにかけて8点支持のクロスメンバーを配した。さらに中央のフロアトンネルをフロントのロワアーム同様にシングルビームでつなぎ、リアハッチの開口部下にもパイプ状のビームを追加している。

Bピラーのカーボン調シート、左右サイドマーカー部とリアゲートに専用のデカール、キッキングプレート、フロア補強、テールゲート補強がCdAの特徴鍛造1ピース構造のアルミホイール(7J×15インチ)も専用品だ。ノーマルホイールよりも1本あたり3.6kg軽量になっている上、デザインがなかなかかっこいい。あとはデカールやキッキングプレートのようなドレスアップ品、そして運転席の座面が20mmダウンされている。

シャシーに対して念入りな剛性アップが図られていることから、その違いは歩道から車道に乗り出す小さな段差ですぐに気が付く。素のGTより明らかに下回りのガッチリ感が違う。シャシーの剛性を上げていくと、たいてい足回りに影響が及ぶものだが、フロアを中心にやり過ぎない程度の剛性アップが見事だ。ホイールの軽量化も効いているのだろう。足が良く動き、軽快感が増したように感じる。

 

CdAは専用の鍛造アルミホイールを装着。径は素のGTと同じ15インチだが、6Jから7Jと幅広になっている。1本あたり3.5kgの軽量化を実現GT vs GT、どっちが好き?

これは素のGTより峠道が楽しくなりそうだ。僕はそう思っていつもの場所にCdAを持ち込んだ。ここは日本の峠らしく、細かいコーナーが続く低速ステージ。2速入れっぱなし、ブレーキもさほど使わず、アクセルのオンオフで切り抜ける場面が多いのだが、意外にもあまり楽しくなかった。というのも、フロアの剛性が高くなった分、足回りがついてこない。市街地ではよく動くと思っていた足も、右へ左へ振られる峠道になるとちょっと力不足だったようだ。たぶん天井に乗っかっているパノラミックルーフの重さも影響していると思う。素のGTとハンドルを切り込んでいくタイミングが違ってくるので、まずそれに慣れることが必要だ。

そう考えていくといろいろしたくなる。まず天井の“おもり”を撤去、サスペンションをもうちょっといいやつに換えて、タイヤもハイグリップなのがいいなぁ……と、どんどん欲が出てきてしまう。天井の“おもり”撤去って……、そんなの簡単にできないでしょうが。

ラゲッジシートのレイアウトも多彩。定員乗車時でも後席スライド量に応じて165~285リッター(VDA)の容量を持つ。ダブルフォールディングで倒せば、959リッター(VDA)にCdAを返却して、もう一回、素のGTに乗ってみる。うーん、これはあくまでも個人的な意見なのだが、僕はこっちのほうが好きだと思った。その理由を一言で表すと、バランスがいい。CdAのシャープさも捨てがたいのだけど、あれこれ手を加えないと満足できなくなる危険性がある。それに比べて素のGTは、これはこれで完成しているのだ。僕は、シャシーが適度にしなって力を吸収するのが好みなので、余計にそう思うのかもしれない。ドイツ車のようにガッチリタイプが好きな方は、きっとCdAのほうが好きというだろう。これはあくまでも好みの問題なので、どっちがいいとは言えない。でも乗ると明らかに2車は違うので、おもしろい。それは断言できる。

シャシーだけの話で言うと、GT → GT CdA → RSの順に硬くなる。これは走りに対する本気度の順、といってもいい。これら3台を乗って、ああ、僕はやっぱり適度にゆるくて気楽なのが好きなんだな、と再確認するいい機会になった。

 

エンジンは素のGTもCdAも同じ1.2リッターの直4ターボユニット(100ps、14.8kgm)。ベースグレードの「トゥインゴ」は75psと10.9kgm、ハイパフォーマンスモデル「トゥインゴ ルノースポール」は134ps、16.3kgmを発生するトゥインゴGTはルーテシア2 16V !?

すずきさんが言っていた。「トゥインゴGTはルーテシア2 16Vみたいなクルマだ」と。「16Vのいいところは懐の深さ。どんな状況でも応じられる適度なパフォーマンスとそれを受け止める充分な足がある」。その意見には大いに賛成である。もちろん、2台はぜんぜん違うクルマだけど(いや、トゥインゴ2のシャシーはルテ2ベースだった)、ベースグレートとRSの中間にいる立ち位置は確かに16Vと似ている。MTで乗るなら、多くの人はRSに行っちゃうだろう。とにかく走るのが好きで、サーキット行ってタイムを縮めることに至福の喜びを感じる方はRSこそ最適だと思う。けど、そこまでは必要ないなぁ、という方も多いだろう。街乗りもするし、高速道路で遠出もする。気持ちのいい峠道があれば、ちょっと寄ってこっかとなるし、燃費だって人並みに気になる。走るのは好きだけど、神経すり減らしてまでは攻め込むほどではない。GTはまさにそんな人に打ってつけなクルマだ。

省燃費至上主義の現代において、もちろんこのTCeも省燃費を目的にしたエンジンなんだけど、1t ちょいのクルマに載せるとあんがいスポーティーであることに気づかされる。さすがにこれが1.2LのNAだと物足りないだろうけど、1.2Lターボの100psならちょうどいい。こいつをぶん回すのはけっこう楽しいと思う。

上にRSがあると、どうしてもその次が霞んでしまう。ルテ2 16Vもそんなクルマだった。でも、噛めば噛むほど味が出る、攻めても良し、長距離ドライブも良し、ないいクルマなんですよ、じつは。トゥインゴGTもそんな立ち位置になるのか。RSを狙っている方、その前にGTに乗って床まで踏んでお試しあれ。

 

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

 

2009y RENAULT Twingo 1.2 TCe GT

全長×全幅×全高/3600mm×1655mm×1470mm
ホイールベース/2365mm
車両重量/1040kg
エンジン/水冷直列4気筒SOHC8V
排気量/1148cc
最大出力/74kW(100PS)/5500rpm
最大トルク/145Nm(14.8kgm)/3000rpm

 

エンブレム_2312009y RENAULT Twingo 1.2 TCe GT Coupe des Alpes

全長×全幅×全高/3600mm×1655mm×1470mm
ホイールベース/2365mm
車両重量/1040kg
エンジン/水冷直列4気筒SOHC8V
排気量/1148cc
最大出力/74kW(100PS)/5500rpm
最大トルク/145Nm(14.8kgm)/3000rpm

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