ALFAROMEO Giulietta Classica

アルファロメオは、ヴィブルミノリテで登場する回数が極端に少ない。前回は2013年の2月に145を紹介したが、それが最初でそれ以降登場していない。なぜアルファロメオは登場回数が少ないのだろうか?

 

 

 

 

盾形グリルからはじまるピンと張った2本のラインがボンネットに走るのは、ミト、4C、8Cと共通したデザインエッセンス何から何まで新設計のジュリエッタ。

それはすずきさん曰く「何となく似合わない気がするから」というシンプルな理由だ。それを聞いて私も同じだと思い、145のときにもそんなようなことを書いた(ただ、145は乗ってみるとそうでもないなと思った)。そして今回紹介するのは145、146、147と続くアルファロメオのCセグメントを担う「ジュリエッタ」である。

2010年にデビューしたジュリエッタはまったく新しいモデルだ。「コンパクト」と名付けられたプラットフォームは新設計で、高強度鋼板と超高強度鋼板を約8割も使用し、高剛性化と軽量化を両立。足回りはフロントがマクファーソンストラット、リアがマルチリンクで、アルミ材を多用しているのが特徴だ。ちなみにこのプラットフォームはクライスラーのダッチ・ダート、フィアットのビアッジオ、ジープではチェロキーにも使用されている。

 

ミト、4C、8Cの丸型と156などの横長のテールライトをひとつにまとめたよう。リアの複雑な面構成も見どころだアルファロメオの、現代におけるデザイン解釈。

デザインはフィアットグループのデザイン担当ディレクターであるロレンゾ・ラマチョッティが率いるチェントロ・スティーレ・アルファロメオの作品。これはあくまでも私見で余談だが、現代のアルファロメオのデザイン言語を確立させたのは、156からではないかと思う。このデザイン言語を用いて147もデザインされているし、その後の8Cやミト、4Cも同じ潮流を感じる。さらに言えば、ミトは8Cの影響を受け、ジュリエッタは4Cの流れを汲んでいるように思うのは私だけだろうか。そこには155や145などのデザイン言語からは決別するかのような意志を感じる。

最近のCセグメントに属するクルマは、巨大化するゴルフのようにどんどんサイズアップする傾向にある。ジュリエッタも例外ではないが、ゴルフよりもコンパクトに見えるのはデザインのせいかもしれない。非常に引き締まった筋肉質の体で、ロー&ワイドなフォルムはアルファロメオらしさに満ちている。丸みを帯びながらも要所要所で鋭いエッジを効かせる……。それがデザインにおける現代のアルファロメオらしさではないだろうか。

 

インストルメントパネルはスプリントのみボディ同色になるが、クラシカはすべてヘアラインのついたグレーのパネルとなるダウンサイジングターボエンジン。

エンジンのラインナップはすべて直列4気筒。本国ではガソリンの1.4Lターボの120psと170ps、1.75Lの235ps、ディーゼルでは1.6Lの105psと2.0Lの170psが用意される。その内、日本にはガソリンの1.4Lターボの170ps、1.75Lの235psの2つが導入される。1.4Lターボは16インチホイールを装着する「スプリント」、17インチホイールを装着する「コンペティツィオーネ」があり、1.75Lは18インチホイールを装着する「クアドリフォリオ・ヴェルデ(QV)」と呼ばれる。QVはトップレンジらしくサスペンションが専用のものになり、車高も前15mm、後10mmローダウンされ、トランスミッションには6MTが組み合わされる。

さらに2013年にはバイキセノンヘッドライト、ヘッドライトウォッシャーを装備するコンペティツィオーネから、18インチホイールを採用するなどさらに装備を充実させた「スポルティーバ」とレザーシートと7ホールデザインの17インチホイールを装着した「クラシカ」が新設定。今回紹介するジュリエッタのグレードは、まさしくこの「クラシカ」である。

 

クラシカに装備されるレザーシート。質感が高く室内を華やかに見せてくれるTCT、すげー!

実車を目の前にすると、各部の質感がとても高く、145の時代のアルファロメオとはまったく別物のように感じる。Cセグメントはどのメーカーも打倒ゴルフを掲げているだけに、中途半端な品質のクルマは出せないし、外側だけ見繕ったモデルでは厳しい目を持つユーザーにすぐバレてしまう。このジュリエッタは新世代のアルファロメオを感じると同時に、気合いの入り方が違うなと思った。

乗ってみてすぐに感じたのはボディ剛性の高さと足回りのソフトさ。堅牢なプラットフォームのガッチリ感とよく動くサスペンションが印象的だ。ホイールこそベースモデルの16インチから17インチになっているものの、硬さは微塵も感じられない。簡単に表現すると「やさしく余裕のある足回り」といった感じだろうか。

街中を走っている程度では、エンジンの個性は感じられないが「TCT(Twin Clutch Technology)」の出来の良さには驚いた。TCTはミトで初搭載された6速のデュアルクラッチトランスミッションのこと。そもそもフィアットグループはATの自社開発に消極的だったが、クライスラーを傘下にしてアメリカ市場へ復活するためには、新型のAT開発が急務だったに違いない。

このTCTは完全に自社開発によるもので、VWグループの7速DCTと同じ乾式を採用している。ただ、まったく同じ機構を持っているのではなく、2枚のクラッチの配列やクラッチの圧着方法に違いはある。乾式は湿式に比べてクラッチ冷却用のオイルや油圧ポンプが不要なので、軽量コンパクトに設計できるのがメリット。オイルにクラッチが使っていないので、粘性抵抗によるパワーロスもない。ただ、冷却面では湿式の方に分があるので、乾式はトルクの小さい小型車と組み合わせるのが定石だ。軽く流している程度なら変速ショックもほとんどなく、いつシフトアップしたのか分からないくらいだ。

 

リアの居住空間はルーフが尻下がりになるため、頭上の空間はかなり厳しい。膝前の空間もあまり余裕はない電子制御にたしなめられる。

静かで振動も少なく、とにかく快適。とてもいいクルマなのだけど、だんだんそれに慣れてくるとつまらなさも感じるようになってきた。あの145のときに感じたホットなフィーリングは、ジュリエッタには受け継がれていないのか……。3000rpm以下で走っていると、言い方は悪いが「ただのいいクルマ」である。いいクルマのどこが悪い言い方なのかと言ったら、優等生で突出するものがない、無個性なクルマということである。ときどきアクセルを強く踏んでみるもののレスポンスが悪く、ダイレクト感が薄い。間に電子制御がたくさん入り込んでいて「あ、ダメですよ。そんなラフな踏み方は。エコな時代なんですから……」とたしなめられ、強制的にアクセル開度を調整されているかのように感じる。

うーん、退屈だ……。と思ったとき、シフトレバーの前にあるスイッチに目が留まった。ああ、DNAシステム! そうだった。アルファロメオにはこれがあったのだ。D(ダイナミック)、N(ノーマル)、A(オールウェザー)の3段階に制御されたスイッチ。現在はNなので、ここぞとばかりDに切り替えてみた。

 

ラゲッジは開口部が大きく荷物の出し入れはしやすい。容量は350~1045Lでシートバックは6:4の分割可倒式ジュリエッタもホットハッチだった。

豹変した。これまで手枷足枷がはめられていた身動きのとれない状態から解放されたように、急にエンジンが活き活きとしだしたのだ。こういう類のスイッチは、もともと信用していなかった。「ダイナミックっていったって、ちょっと変わる程度でしょう」といつも疑っていたし、実際切り替えても「まぁ、多少は元気になったかな」というくらいの変化しか感じられない経験が多かったからだ。しかし、ジュリエッタは違う。これははっきり「豹変した」と書いてもいい。Dモードに入れるとメーター内中央にあるディスプレイがブースト計に変化する。そしてアクセルのツキが良くなり、トルクも野太くなり、そのトルクに乗ってどんどん速度が上がっていく。Nモードもおとなしさは何だったんだ! こりゃ痛快極まりない! ただ、エンジンは6500rpmでレッドゾーンに入るのだが、その手前から徐々にエンジンの回転を鈍化させるリミッターが作動するので、あんまり上まで引っ張り上げても気持ちよくはない。パドルシフトでいちばんおいしい6000rpmくらいでシフトアップしていくのがおすすめだ。「さすがターボ。エンジンの制御でこんなに変わるんだ」と感心しつつ、始終顔はニヤけっぱなしである。Dモードにすれば、ジュリエッタもやはりホットハッチだった。

フロントストラットよりも前に配置されたエンジン。マルチエアエンジンは吸気側のバルブをカムシャフトではなく油圧ピストンで駆動させるため、自由なバルブ駆動を実現。ポンピングロスを減少させるなど、多くのメリットを持つ2ペダルでもおもしろい!

こんな楽しいモードを見つけたのだから、街乗りだけではもったいない。次の日、日が昇る前に私は峠にいた。

アクセルを深く踏み込み、まだ暗い峠道を走る。このとき感じたのは、エンジンのすばらしさとともに、足回りの懐の深さ。スプリントをベースにしているので、足回りは非常にソフトでロールも深いのだが、前後ともになかなか地面を離さない。街中でも感じられた「よく動くサスペンション」は峠道だとさらに顕著に感じられ、どのくらい伸びているのか縮んでいるのかが頭の中でイメージできる。とくにリアサスの追従性は秀逸で、路面を離す気配すら感じられないから、その安心感たるや絶大! Dレンジは電動パワーステアリングの制御も多少は変わるのだろうか。ステアリングの反応もNモードとは違ってレスポンシブルだ。パドルシフトの反応もまずまずで2ペダルにしてはしっかりスポーツできる。トラクションコントロールに相当する「VDC」はカットできないので、そこは制御下に置かれるものの、正直、2ペダルでここまでおもしろいと感じたのは、ジュリエッタが初めてかもしれない。

クラシカはアルファロメオらしい7ホールホイールを履く。タイヤサイズは225/45R17アルファロメオ・ジュリエッタの魅力も二面性にある。

内外装の質感が高く、シートもレザーでおしゃれ気取りなアルファロメオ・ジュリエッタ。新しい世代になって「スポーツ」なんて言葉は忘れたのかと思っていたら、DNAシステムのDモードにしっかりと伝統を隠し通してきてくれた。しかも名ばかりのダイナミックではなく、過激なダイナミックさは、きっと走り好きに満足できる興奮を授けてくれるはずだ。

クライスラーを傘下にし、アメリカ市場を重要なターゲットに据えれば据えるほど、アルファロメオらしさが失われてしまうのではないかと心配したが、このジュリエッタについては杞憂に過ぎなかった。

145の記事で私は「アルファロメオ145の魅力は二面性にある」と書いた。まさしくその言葉をジュリエッタにも贈りたいと思う。Nモードはジェントルな走りを見せてくれるが、ジュリエッタはただ牙を折られたホットハッチではない。静かで滑らかでやさしい運転ができる一方で、ひとたび枷を外せば、刺激的な走りも手に入れられる。ベーシックなモデルのスプリントでコレである。1.75LターボのQVならどうなるのだろうか。6MTを介してそのエンジンを味わってみたいものだ。

 

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

 

2013y ALFAROMEO Giulietta Classica

全長×全幅×全高/4350mm×1800mm×1460mm
ホイールベース/2635mm
車両重量/1400kg
エンジン/水冷直列4気筒DOHC16V
排気量/1368cc
最大出力/125kW(170PS)/5500rpm
最大トルク/230Nm(23.5kgm)/2250rpm

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