【CROSS TALK】ツインエアか? FIREか?

今回はフィアットのエンジンとトランスミッションの話。2気筒シングルカムの0.9Lターボのツインエアか、4気筒シングルカム1.2L NAのFIREか。この2機はいまだに現行500とパンダに搭載されているのだが、今回は実質フィアットであるクライスラー・イプシロン(ツインエア+デュアロジック)とパンダ(FIRE+5MT)を題材にこの2機とトランスミッションの違いなどを考察していく。

 

この2台は過去に紹介しているが、エンジンとトランスミッションに特化した今回の企画のために、再度試乗した。まずはイプシロンから。スペックはこんな感じだが、太字の部分がエンジンに関する部分。現行モデルにはアイドリングストップなどの機能が付加されていると思うが、基本的なエンジンスペックはほぼ変わらないと思ってもらっていい。

低回転域で威力を発揮するエンジン特性
MTよりもデュアロジックの組み合わせが吉

2013y CHRYSLER Ypsilon
全長×全幅×全高/3835mm×1675mm×1520mm
ホイールベース/2390mm
車両重量/1090kg
エンジン/直列2気筒SOHC ターボ
排気量/875cc
最大出力/63kW(85PS)/5500rpm
最大トルク/145N・m(14.8kgm)/1900rpm

デュアロジックはオートモードにして、1速へ入れる。アクセルをゆっくり踏んで最初に感じるのは、出だしの良さだ。スペックを見て分かるように、最大トルクを発生させる回転数が1900rpmと非常に低い。そのため、ちょっと踏んだだけでドンと車体が前に出る印象。その後、緩やかにアクセルを踏み込んでいくと、シングルクラッチのデュアロジックがエンジンのおいしい回転数を狙って、上手にシフトアップしてくれる。上手に、といってもシングルクラッチのRMT(ロボタイズド・マニュアル・トランスミッション)なので、クラッチの断続に若干のギクシャク感はあるが、これは機構的にこういうものなので、気にしてはいけない。
次はマニュアルモードにして走ってみる。1速で思い切り踏んでみると、ドコドコドコッという鼓動を伴いながらエンジンがうなりを上げる。4000rpmで充分うるさく、振動もすごい。さらに踏んでいくと6000rpmでリミッターがかかってそれ以上回らなくなる。エンジンが高回転まで回るフィーリングは気持ちいいどころか、不快。いや、不快というかエンジンに対して無理を強いているような申し訳ない気持ちになってくるので、回したいと思わなくなると言った方が正しい。
それにしても、イプシロン。当時は“小さな高級車”といった立ち位置だったと思う。このクルマにツインエアを載せるなら、もうちょっと静音化や振動を抑え込む工夫をしても良かったのでは? と思ったりする。

昔ながらの伝統的なエンジン特性
古い人間には「やっぱこれだな」

2020y FIAT Panda 1.2 8V
全長×全幅×全高/3653mm×1643mm×1551mm
ホイールベース/2300mm
車両重量/1000kg
エンジン/水冷直列4気筒SOHC
排気量/1240cc
最大出力/51kW(69PS)/5500rpm
最大トルク/102Nm(10.4kgm)/3000rpm

次は4気筒1.2LシングルカムのFIRE。カタログなどには正式にFIREという記載はないが、今回はツインエアと対で語るため、便宜上FIREと呼ばせてもらう。ちなみに「FIRE」とは「Fully Integrated Robotized Engine」の略で、高度に自動化された生産工程により、組み立て所要時間を従来の4時間から2時間に半減させることに成功したSOHCユニットという意味だ。この名前からして、長い歴史を感じずにはいられない。
初めて登場したのは1985年で、1000ccのキャブレター仕様。その後、排気量は1.4Lまで拡大され、インジェクション化、ツインカム化、可変カム化され、ターボ版も登場した。そう考えると基本設計は古いものの、現代まで生産され続けている名機と呼んでいいかもしれない。
乗り味は低回転域から高回転域までフラットかつリニア。トルクの谷を感じさせることなく、上まで軽く、モーターのようなフィーリングで吹け上がる。1.2L NAなのでトルク、パワーともに薄いが、踏んで楽しい、上まで回して気持ちいいエンジンである。だからこそ、MTとの相性も良く、自分で好きなギアを選ぶことで、このエンジンを自在に操っている実感がある。音も静かだし、振動も気にならない滑らかなフィーリングは、乗っていて楽しいと感じるエンジンだ。

―――

それぞれ特性の違う2機のエンジンを乗り比べてみて、実際どう感じたのか。
某月某日、某喫茶店で、その印象を語り合うオッサン2人……。

日本人はトルク重視派が多い!?

Suzuki(以下、S)/今回はエンジンに焦点を当てて話すんだけど、こういうときって、いつも何馬力あるとか、トルクがいくつだとかって話になるけど、僕らが求めるのは数字じゃないよね。
Morita(以下、M)/体感ですよね。数字は目安でしかないわけで。
S/とはいえ、目安となるのは確かなので、まず数字を見ていこうか。ツインエアが85馬力で、FIREが69馬力。個人的にはそんなに違わない。どっちもドングリの背比べであって。ところがトルクを見ていくと、14.8kgm対10.4kgm。約1.5倍!
M/しかも、ツインエアは1900rpmという低い回転数で最大トルクを出してる。
S/そこなんだよね。よく「あのクルマは何馬力あって……」なんて話を聞くけど、僕らが最も体感できるのはトルクのほう。踏んだときに、どれだけの力で車体を前に出すか。
M/日本人はトルク重視派が多い印象がありますね。ちょっと踏んだだけで、ドンと出るのが好みというか。まぁ、ストップ&ゴーが多い道路環境から来るんでしょうかね。

2機のエンジンはどんな人に向いているか?

M/乗ってみると、この2つのエンジンは本当に好対照でしたね。
S/好対照というか、ツインエアが特殊なんだよ。FIREはいわば昔ながらのエンジンで、3000rpmくらいで最大トルクを出して、5000rpmくらいで最高出力が出て、本気で走ろうとしたらタコメーターの針が上向いてないといかんよって。じゃあ、ツインエアはどうかというと、低回転域だけでコトが済んでしまう。
M/実際、ツインエアは4000rpmくらいですでに苦しいですからね。
S/そう、ぶっちゃけ「踏みたい」とは思わない。この感じってさ、ディーゼルエンジンに似てるんだよ。
M/ああ! そうかも。
S/下の方でトルクが出るんだけど、踏んでもすぐ頭打ちになる。ディーゼルエンジンの特性に似てる。この2つのエンジンを考察するにあたって、どういう観点で評価するのか。世間一般のクルマにそんなに興味がない人は、そもそも「踏む」という行為をしないよね。
M/すべてではないにしろ、エンジンを回して乗るってことはしない傾向にありますよね。
S/そういう人にはツインエアが向いてると思う。一方、FIREは古式ゆかしいエンジンになりつつあるので、僕らみたいな古い人間には合う(笑)。僕なんかは踏んで走らせるほうだから、ツインエアは「うーん」って思っちゃう。
M/そうですね。僕もどっちかというとその部類です(笑)。

ツインエアとデュアロジックの組み合わせが最適解

M/エンジンと組み合わせるトランスミッションも重要だということは、今回の乗り比べであらためて実感しましたね。
S/MTで言うと、街中でだいたい3000rpm前後で乗って、ときどきガバッと踏む、みたいな乗り方をするんだったら、FIREのほうが向いてる。でも、ツインエアとMTは、そもそもそんな組み合わせのクルマが少ないので断言はできないけど、常に3000rpm以下で走るような乗り方をして楽しめるエンジンだと思う。まぁ、それが楽しいかどうかは個人の判断に任せるけど。
M/常に3000rpm以下をキープしてシフトチェンジしていくのって、けっこう難しいし、気を遣うなぁ。
S/FIREは車線変更とか高速道路の合流で、ここ一発の加速が欲しいとき、ガバッと踏めばトルクが付いてくるけど、ツインエアはその時点で3000rpmくらいになってたら、踏んでも前に行ってくれない。
M/シフトダウンどころか、むしろシフトアップして回転下げたほうがいいかもしれない。そう考えると、ツインエアをMTで乗るのってけっこう難しいかも。
S/そう、おいしいところを上手に使おうと思うと、シフトチェンジ忙しいと思うよ。
M/けっこうトルクバンドが狭いですもんね。だからこそ、ツインエアはデュアロジックに任せた方がいい。
S/ツインエア乗ったとき、ディーゼルエンジンに似てるとも思ったし、あの、何だっけ、BMWと共同開発されたエンジン……
M/ああ、プジョー207とかに積んでるやつ? EP6だっけ?
S/そうそう、あれにも似てるよね。あれに乗ったときMTで乗るより、CVTを組み合わせたほうがいいんじゃないかなって思った。BMWミニの初期にもCVTあったでしょ。
M/なるほど。
S/2000年代後半から出てきたエンジンって、だいたいそういうテイストのが多い。低回転域で最大トルク出すタイプ。
M/低燃費化とか、環境のことをさらに考えなきゃいけない時代ですから、そういうトレンドなんですかね。
S/そうだと思うよ。あと、以前ディーゼルターボのC5に乗ったとき、アイシンの6ATとの組み合わせだったんだけど、エンジンのおいしいところをうまく選んでシフトチェンジしていくから、やっぱ自動変速のほうが合理的じゃないかって思ったもん。
M/そうかぁ。だからツインエアもデュアロジックの組み合わせのほうが、しっくりくるんですね。
S/だからフィアットとしては、ツインエアとデュアロジックの組み合わせが最適解だと考えたんじゃないかな。
M/デュアロジックなら速いテンポでシフトアップしていくから、あの音も振動もそんなに気にならないですしね。

ツインエアの音と振動、気になる?

S/振動の話で言えば、こんなにツインエアの振動を問題視してるのは、日本くらいじゃないかなって思う。実際、現地でアイドリングのまま放置するようなことは、ほとんどないから。
M/ああ、渋滞にハマるってことも、日本に比べれば少ないですもんね。
S/アイドリングで多少ブルブルしても、許容範囲だし、走り出せば気にならない。ただ、これがイプシロンに積んでるから「ちょっとなぁ」って思うのは確か。
M/そうなんですよ。クルマのキャラクター的に考えて、500ならまぁいいかって思えるんですけどね。
S/そう、イプシロンだから問題視される。だけど、あの振動はさ、ないに越したことないわけで。ほどなく改善されると思ったけど、現行に積んでるエンジンも同じなのかなぁ。
M/どうでしょうね。確かめてみたい気もしますけど。

パンダにツインエアを! イプシロンにFIREを!

S/クルマを選ぶ人は、単純に外観で選んで、ツインエアっていう比較的に新しめのエンジンだし、なんか他と違っていいじゃんって言って乗るのもいいと思う。だけど、僕らみたいな古い人間だと「悪くはないけどさぁ」って感じになるのはぬぐえない。
M/そうですね。僕もそんな感じです。
S/そこで僕なりの結論だけど、このエンジンを入れ替えればいい!
M/ああ、パンダにツインエア、イプシロンにFIRE。なるほど!
S/パンダならああいうカジュアルなエンジンはいいかもしれない。イプシロンはFIREで良かったんだと思う。
M/それ、同意。パンダのFIREって静かだし、加速の滑らかさって、パワーはないけど上質感はあるから、イプシロンの“小さな高級車”にぴったりかも。
S/というわけで、クルマの性格も考えて「パンダにツインエアを、イプシロンにFIREを」が結論ということで(笑)。

 

PHOTO&TEXT/Morita Eiichi

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