CITROËN C4 1.6 HDi 110 FAP

ヴィブルミノリテ初登場となるシトロエンはディーゼル仕様だった。いままでC4には乗ったことさえないのにいきなりディーゼルとはちょっと敷居が高い……。
欧州ではもはや一般的になったディーゼルエンジン。日本ではまったくと言っていいほど普及していないが、それには規制の問題の他に何か理由があるはずだ。その片鱗くらいは見出せればいいなぁ、と思いながらキーを受け取った。

 

 

結局、フツーになっちゃった。

まずC4の概要から行こう。シトロエンのZX、クサラに続くCセグメントとしてC4が登場したのは2004年。プジョー307と同じプラットフォームを使って本国デビューを果たした。日本には2005年から販売が開始され、3年後の2008年にモスクワショーでマイナーチェンジを発表。見た目に大きな変更はないが、全長が15mm延長され、エンジンはBMWと共同開発された「VTi(バリアブル・バルブリフト&タイミング)」と「THP(ターボ・ハイプレッシャー)」がシトロエンとして初登場する(プジョーでは207、308ですでに搭載)。これによって既存の「1.6i 16V」は「VTi120」へ「2.0i 16V」は「THP150」に置き換えられた。ただ国内には1.6のNAとターボモデルしか導入されず、MTのVTSは姿を消してATのみとなった。
そして2010年に現行モデルである新型が登場。ここでついに3ドアも消滅し、5ドアのみとなり、インテリアで個性的な機能だったセンターパッドが回転しない「センターフィックスステアリング」や透過式デジタルパネルなども廃止された。
このような流れを見ると、デビュー当時はその個性的な外観デザインとインテリアのちょっと変わったギミックで“シトロエンらしさが帰ってきた”ともてはやされたが、モデルチェンジを重ねるたびに結局フツーになってしまったという印象は拭えない。まぁ、そもそも1976年からPSA体制になり、BMWとの共同開発も始まり、シトロエンのみならず自動車業界は世界的にグローバル化の流れに乗っているから仕方のないことかもしれないけど……。

熱効率のいいディーゼル。

今回の試乗車は中古並行の初期型、ドイツで2006年末に新規登録された2007年モデルである(欧州ではイヤーモデルは10月に変わるので)。5速マニュアル、そして何よりディーゼルエンジン仕様(もちろんターボ)というところがヴィブルミノリテ的には大きなトピックスになる。
ここでディーゼルエンジンについておさらいしてみよう。ディーゼルエンジンはドイツの技術者ルドルフ・ディーゼルによって1892年に発明された。その構造を簡単に言えば、ピストンによって圧縮された高温の空気に燃料である軽油を噴射することで自然着火させる仕組み。内燃機関では最も熱効率が良く、燃料も軽油の他に重油、メタノール系燃料、バイオ燃料、はたまたピーナッツ油などその使用範囲は相当幅広い。汎用性に優れていることからもクルマだけでなく、機関車や船舶などにも多く使われている(ちなみに世界最大排気量を誇る27万260リッターの舶用エンジンもディーゼル)。さらに希薄燃料で動かせるので燃費が良く、排出ガス内のCo2もガソリンエンジンに比べて平均で35%ほど少ないなど、その他にも多くのメリットを持っている。このあたりがヨーロッパでディーゼルシフトを促進させたひとつの要因でもあったりする。

ディーゼルの進化は「燃料噴射装置」にあり!

ディーゼルエンジンの進化において、最も外せないのが燃料噴射ポンプの進化だ。旧来のディーゼルエンジンではその信頼性の高さから噴射ポンプは機械式だった。ガソリンエンジンのほとんどすべてがEFI 化されていた90年代に入っても、だ。
しかしディーゼルエンジンに求められる性能はますます高まり、加えて排ガス規制も追い打ちをかける中、1995年にデンソーが燃料噴射の電子化に世界で初めて成功し、実用化させた(ただコモンレールと名付けて普遍化させたのはボッシュ)。燃料をあらかじめ加圧しておき、配管に溜め、電子制御で開閉する噴射弁で燃料室に送り込む。コモンレールの概論はこんな感じだが、ガソリンエンジンの噴射圧力はせいぜい3気圧程度なのに対し、ディーゼルは機械式の時代でも1000気圧、さらなる進化のためにはその倍以上の圧力が必要とされる。地球上で最も深い海溝の水圧以上の力を維持し、たった1立方ミリメートルの燃料を1/1000秒の弁開閉で制御するのは並大抵ではできない。しかし、この超高圧の課題をクリアしたことによって、燃料室の中により細かい燃料を最適なタイミングで噴霧でき、空気とうまく混合させることで完全燃焼に近づけたのだ。
つまりディーゼルエンジンの進化はより細かい燃料の霧を噴ける燃料噴射装置によって遂げられ、さらなる最適なタイミングと燃焼による動力性能の向上と排出ガスのクリーン化のためにその挑戦はいまも続いている。それがディーゼルエンジンの置かれている現状だ。

カラカラ音は健在。

さて、難しい話はこの辺にして試乗に移ろう。先述したように、私としてC4に乗ってみるのはこれがはじめて。とはいえディーゼルエンジン自体ががはじめてかと言えば、学生時代にトラック(ふそうキャンター)に乗ったのが最後だ。商用車しかもトラックであるキャンターと乗用車であるC4を同じ土俵で語れないのは当然としても、それを踏まえた上であれから15年ほど経ったいま、ディーゼルエンジンはどんなフィーリングに変化したのだろうか。
キーを差し込み、ひねる。するとブルンとした振動の後「カラカラ……」とディーゼル特有のノック音が聞こえてくる。振動はうまく消されているものの、この音は紛れもなくディーゼル。15年経っても「我、ディーゼル也」なノック音は多少静かになれども、そのままである……(動画を撮ってきたので良ければどうぞ)。

新しいシトロエンの乗り味は?

最近はなぜかルノー車が多かったので、いざシトロエンとなるとシトロエンであるが故にどうしても乗り味を比較してしまう。しかし、私にとってC4の乗り味は皆様がシトロエンにイメージする“ソフト”な感触とは思えなかった。いや、じゃあソフトではないのか、と言えばそう断言はできない。言うなれば、その何というのか、シャシーはドイツ車のように固いけど、足はソフト。そのアンバランスさが、現代のシトロエンの目指す乗り味なのかなぁ、という解釈に至った。
思い返してみれば、シトロエンで乗ったことのあるモデルはDS、CX(これは正確には乗せてもらった)、BX、ZX、エグザンティア、XM、C2、そして現在乗っているサクソ。このように非常に時代遅れな経験の中で言うと、C2以外はすべからく“ユルユル”だった。私にとってはそのユルさ加減がシトロエンらしくて好きだったのだが、いまとなっては2010年、ちょっと認識を改めなければならない。ルノー車のようにシャシーと足回りが混然一体となってあの乗り味を創出しているのに対し、現代のシトロエンはガッチリシャシーにユルめの脚。バネから下はシャキシャキ動くのに、ボディはまったく動じない。そんな印象を受けた。
シートももはや旧車の仲間入りを果たそうとしているBXなどと比べると断然固い。包み込むようなしっとりふんわりした感触よりも、コシがあってしっかりと支えてくれるという印象。もちろん、これはこれで質の高いシートだと思う。
ステアリングはセンターパッドが回らないから、初めて回すと一瞬ギョッとする。メーカーのアナウンスによるとパッドに組み込まれたスイッチ類が回らないから操作しやすく、万が一のエアバッグ展開時にも適切な角度で開き、理想的な“末広がり”の形状で膨らませることができるという。

1750rpmで最大トルク。

さて、肝心のエンジンだがアイドリング時のカラカラ音は走り出せばすっかり影を潜め、普通に走っている分にはガソリンエンジンと大して変わらない振動と音になる。遮音性はかなり優れていて、ディーゼルだからという引け目を終始感じながらということは一切なく、快適そのもの。いちばんの特色は最大トルクの24.5kgmを1750rpmという低回転で発生させるため、低速でのトルクがとにかく分厚いことだ。ディーゼルの特性としてよく知られていることだが、1.6リッターをターボで過給することで2.0リッター並みのトルクが出ているから、街中での運転がかなり楽。しかもその回転数付近は特にレスポンスが良く、アクセルをちょっと踏むだけでグンッと車体が引っ張られる力強さを感じる。タウンユースでは3速に入れておくだけで充分事足りるのではないか。
ただ反対に高回転はぜんぜん回らない。5000rpmでレッドゾーンとなり、メーターが赤く光って警告する。回してもエンジンが苦しそうな雑音を奏でるだけでまったく面白味がないから、回すだけムダというもの。早めにシフトアップしながら低回転でゆったり乗るのがこのクルマには合っている。ふと考えると、これって大排気量多気筒車、それこそ3.0 V6ガソリンエンジンを普段街乗りで使ってる状態のような、大トルクに任せてゆったりドライヴ的な乗り方が、この手のディーゼルターボエンジンの正しい乗り方かもしれない。

ガソリンか? ディーゼルか?

乗ってみた印象としては、現代のディーゼル車はガソリン車にまったく劣らない動力性能を持っているどころか、低速でのトルクはそれ以上にたっぷりと余裕があり、この点に関してはガソリンエンジンの1.6リッターターボに乗ってはいないものの、充分にアドバンテージがあると思った。気になるところと言えば、アイドリング時のディーゼルノック音。長くガソリンエンジンに乗っている者にとって、あの音は個人的に不快と感じた。まぁ、慣れる範囲といえばそう思えなくもないが。
ただ「このクルマを購入し、ずっと維持しつづけられるか」という話になると、ちょっと事情が変わってくる。まず大きな視野で見ると、日本国内における排出ガス規制。1993年の短期規制から始まって、1997年の長期規制、2002年の新短期規制、2005年の新長期規制、そして2010年9月1日生産以降のクルマ(継続生産車・輸入車)においては世界でもっとも厳しい排気ガス規制・通称「ポスト新長期規制」がかかることになる。あわせて過去の車輌に関して特定区域内に使用の本拠がおけないなどの使用期限が設定されたことがあり、今後その規制の範囲や年式が拡大される可能性もある。
このような段階的に厳しくなる規制の流れを見ると、今後も“ディーゼル嫌い”の日本において規制が厳しくなることは容易に想像できる。この先、クルマが壊れなくても10年、20年先も乗っていられる保証はできない。
燃料の軽油についてはどうだろうか。石油価格が上昇する以前までは軽油価格の安さは魅力的だったが、現在愛知県内では軽油でリッター110円前後、ハイオクガソリンで140円前後だ。もちろんまだ軽油のほうが安いのだが、100円以下で売られていた時代を考えるとその差分はたいぶ小さくなった。さらに質にも問題がある。欧州車のガソリン車は現地でのオクタン価の関係もあって日本ではハイオクを入れるのが常識になっているが、現地ではガソリンにもディーゼルにも硫黄分の少ない高品質な燃料が使用されている。いわゆる「サルファーフリー」と呼ばれる超低硫黄軽油(ガソリン)のことだ。これは燃料に含まれる硫黄分0.001%以下(10ppm)のものを指し、日本でも2007年から「自動車燃料品質規制値」の変更により、10ppm以下のものを販売するよう改められた(軽油高騰の影にはサルファーフリー化による設備投資分が上乗せされているという説もある)。ただ、ディーゼル本来の性能をちゃんと発揮させるため、またディーゼルを選ぶ人は少なからず環境に配慮したい意向のある人だろうから、ここはワンランク上のプレミアム軽油を入れたいところだ。一般的な軽油に比べてセタン価が高く、洗浄剤が含まれていることから黒煙も少ない。黒煙が少ない、つまりPM(Particlate Matter:粒子状物質)が少なくなるから、DPF(Diesel Particlate Filter C4のモデル名にある「FAP」はこれに相当する)が詰まるのも遅らせることができる。さらに着火性・燃焼性にも優れている。ディーゼルにとっては何ともすばらしい軽油なんだが、いかんせん提供しているガソリンスタンドの数が少ない。大手ではENEOSのみとなり、しかも全店舗にあるわけではない。中川区からいちばん近いところでも港区に1軒あるだけだ。そこまで神経質になる必要はないかもしれないが、乗る以上はちゃんと乗りたいと思う人にとって“燃料問題”はネックになる一要素だ。
それともうひとつ付け加えるなら、この「DPF」というフィルター、上記のとおりPMを濾し取るものなのだが、しょせんフィルターなのでいつかは詰まる。PMがこの中で堆積し、高温の排気によって着火してしまうと一気に1000度を超す高温になってフィルターを溶かしてしまう。だから、いつかは交換しなくてはいけないわけだ(費用はいくらかかるか分からないけど)。あと、まだあった。オイル。DPFが装着されているクルマにはそれ対応のオイルを入れるのが良い。一例を挙げるとYACCOではDPF対応オイルとして「Low SAPS」シリーズを用意している。S(硫黄)、A(灰分)、P(リン)が少なくDPFにやさしいオイル。そのシリーズの中で「VX-1703 FAP」というのがあるのだけど、これはリッター4020円。これを高いと見るか安いと見るか……。
つまり、ディーゼルといえどもおいしいところだけ、ってわけにはいかないってことだ。だから、いまあえてディーゼル賛美で行くのであれば、プレミアム軽油を入れてFAP対応のオイルを入れて……という人がディーゼル乗りの大多数であるのかどうかが興味深いところでもある。

個人的にはやっぱガソリンエンジン?

ディーゼルの動力性能や環境性能、運転フィーリング、そして日本国内で乗りつづけるためのランニングコストや手間など、もろもろ総体的に考えていくと、個人的には「ディーゼルの性能は魅力的だけど、うーん、僅差でやっぱガソリンエンジン? ディーゼルは回してナンボの爽快感がないんだよねぇ」と思ってしまう。
でも、日本でディーゼルに乗る希少性、その他クルマにかける費用や手間は厭わないぜ! という豪気な方にはぜひ。外観上はディーゼルであることをまったく誇張しない“ただのC4”にしか見えないところもまたマイノリティ魂をくすぐるのでは?

TEXT&PHOTO/Morita Eiichi

2006y CITROËN C4 1.6 HDi 110FAP(5DOOR)
全長×全幅×全高/4270mm×1770mm×1460mm
ホイールベース/2610mm
車両重量/1245kg
最大出力/80kW(110PS)/4000rpm
最大トルク/240Nm(24.5kgm)/1750rpm

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8 Responses to “CITROËN C4 1.6 HDi 110 FAP”

  1. be bop ナリタ より:

    燃費については,ちょっと古いんですが07年に同じ1,6で,24/ℓを見つけました。(群馬県ですが) 今のところ自分もそれに近い感じです。(まだ,市内を130kmしか走ってませんが。)ハイセタンをずっと入れるつもりで,給油ポイントを東海4県と長野県で10ヵ所ほど見つけました。オイルは文中のとおりで,フィルターのことは知りませんでした。とてもありがたいです。音については,全然気にならないんですが,周りからはどうでしょう。トルクは確かにありますね,一速に入れてあると思い込んでいて,三速で交差点右折しそうになったくらいです。まだ、高速に乗っていないのでどんなものか興味があります。

    • コメントありがとうございます。

      DPF(FAP)は・・・
      http://www.ibiden.co.jp/product/ceramics/dpf.html
      http://www.ngk.co.jp/product/automobile/diesel/index.html
      http://ja.wikipedia.org/wiki/DPF

      こういうものらしいです。(すっげ手抜き)
      なので、長持ちさせるにはそれ相応の油脂類を使った方がいいらしいです。

    • morita より:

      リッター24kmとは優秀ですね。
      ハイオクは燃えにくさを示すのに対し、ハイセタンの軽油は燃えやすさを示すものであることは記事を書いていて学びました。ディーゼルは日本では蚊帳の外的な存在なので、まだまだ知らないことがいっぱいありそうです。音はもう完全に個人によりますね。僕も3日も乗れば気にならなくなるようにも思えます。トルク、たしかに3速入れっぱなしでもふつうに走っちゃいますよね。ナリタさんの経験談もうなづけます(笑)。

  2. しの より:

    初めまして。関東の地方都市で06年から1.6HDiに乗っている者です。
    インテリアの画像を見て驚きました。この個体は日本では貴重なマニュアルエアコン仕様ですね!
    C4のオートエアコンはボタンが並ぶタイプでブラインドタッチは出来ないし、温調ダイアルも画面を見ながら運転席側/助手席側の両方を操作しなくてはならず使い勝手は良くないです。マニュアルエアコンは見るからに操作性が良さそうですね。珍しい画像をありがとうございました。

    • morita より:

      しのさん、コメントありがとうございます。そうです。マニュアルエアコンですね。こちらのほうがシンプルだから目で確認しなくても手さぐりで操作できてよいです。この形がベストだと思います。
      久しぶりのディーゼル試乗でしたが、本当に貴重な経験でした。いろいろと考えさせられるものもありましたしね。しのさんも末永くC4ディーゼルにお乗りください!

    • コメントありがとうございます。
      当該車、現地ではStyle5と呼ばれてる(らしい)中堅グレードです。なのでマニュアルエアコン、なのかな?
      オートエアコン、オートなのでそうそう触る必要はないとはいえ、まぁ人間がやった方が賢いってのが世の常で・・・(笑)
      という感じで、どういう感じだ?どうぞ宜しくお願いいたします。

  3. be bop ナリタ より:

    「しの」さんへ ひょっとしたら,自分が見つけた燃費の数字は,「しの」さんではありませんか。確か Javel のホームページで見たと記憶しています。ところで,自分は C4 を「志帆」ちゃんと,呼んでいます。くだらなくてすいません…。

    • しの より:

      こんばんは。
      そういえば、Javelさんの掲示板でご紹介いただいたのは↓のページですね。
      http://eshy.s22.xrea.com/allnenpi.html
      「ランキング」をクリックし、カテゴリー「その他」をお選びいただくと、通算燃費10位に私のC4 1.6HDiが居ます。地方で週末の遠乗りが多く相当に恵まれてた条件下ではありますが、10万キロで通算燃費24.8km/Lをマークしています。
      本記事にも書かれている通り(発進加速を除けば)低回転のまま右足の力加減ひとつでいつでも思い通りの駆動力を引き出せ、地方の遠乗りにはうってつけの車だと思います!

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