RENAULT Kangoo2

メイン1319 すずきさんからこの話が来たとき、正直あまり気乗りしなかった。
Suzuki:カングー2があるんだけど、どうかな?
Morita:カングー2ですか? 前にやりましたよね?
Suzuki:うん、でもあのときは1もあったし。
たしかにそうだった。2010年1月。カングー1をはじめカングー2、ビボップなどを1日で5台も乗りまくったんだった。でも気乗りしなかったのは、そのときのインプレッションでも書かれているとおり「乗ってデカいとは思わないが、まったくもって重い」「もはや別のクルマ」「運転する楽しさより、スペース拡大優先」など、カングー2は僕にとってあまりおもしろいクルマとは思わなかったからだ。うーん、カングー2かー。

前1318カングー1台でどこまで儲ける!?

 カングー2は2007年に発表。カングー1ではクリオ1のプラットフォームを使用していたが、カングー2はセニック2のものを使用している。当然、車体寸法は大幅に大きくなった。ホイールベースは先代よりも100mmも長く、全長・全幅・全高はそれぞれ180mm、155mm、200mmアップ。先代は余裕で5ナンバーに収まっていたが、一気に3ナンバー枠になった。
 エンジンは1.1、1.2、1.4、1.6リッターのガソリンと1.5、1.9リッターのディーゼ後1320ル、LPG仕様などがあり、ボディタイプも荷室を延長した「マキシ」や「ピックアップトラック」などもある。トランスミッションは4ATと5MT。ちなみにATは、スウェーデンの郵便局がなぜか知らないけどAT仕様を大量発注(とはいっても800台くらいらしい)したのをきっかけにラインナップに加わることとなり、日本にもこのタイプが導入されているようだ。
 日本には1.6リッターDOHCエンジン(K4M)の1タイプだけで、4ATと5MTがインパネ1321選べる。いろんな仕様車があるのも日本ならではだ。2010年にはファンカー的な「ビボップ」、同年に特別仕様車の「クルール」でカラフルなカラーバリエーションを強調。2012年にはアッパーグレードである「イマージュ」が設定される。ビボップ顔のイマージュは、本革ステアリングや専用シート、15インチアルミ、ESPなど豪華な装備が自慢だ。さらにイマージュをベースにした特別仕様の「ショコラ」、色数の増した「クルール」、2013年にはカングー1にも設定されていた「オーセンティック」が300台限定で導入された。「カングー1台でどこまで儲けるんだ!」と言いたくなるくらいの快進撃である。実際、カングーは2002年からの累計で1万2500台以上販売し、ルノー・ジャポン全体の販売台数の5割弱を占めるという。とはいえ、ざっと割り算するとだいたい10年で1万台でしょう? ラテン車の範囲で見ていると、まぁ多いかなと思うけど、ゴルフなんか1年で軽く2万台以上販売しちゃうんだから、その現実は知ると「はぁ……」となったりもする。

前席1322今度のオーセンは廉価版じゃないぞ。

 で、今回の標的はその「オーセンティック」と「イマージュ」である。では、まずオーセンティックから。
 カングー1のオーセンティックは、とにかく装備を省きまくった仕様だった(オーディオまでなかった)。しかし、あまりの省きすぎに「廉価版」と受け取られてしまったようで、その点を反省し、カングー2のオーセンティックはそこまではしていないという。
後席1323省かれたものはエアライナータイプの物入れ(頭上の収納スペース)、シートバックテーブルなど(エアコンはマニュアル化、オーディオはある)。特にエアライナータイプの物入れは、先代のように天井の左右に振り分けられているのではなく、前席と後席の間部分に取り付けられているので、フロントまでルーフスペースを使うことができないという不満の声があったようだ。
ボディカラーは全6色。ブラン・グラシエ(白)、ジョン・アグリュム(青)、グリ・メタン(灰)、ルージュ・ビフ(赤)、ブルーアルジョン・メタリック(水色)で、オランジュ・クレマンティーヌ(橙)だけは限定色となっている。内外装についてはバンパーやドアノブ、リアコンビランプガーニッシュは黒、内装もブラウンベージュ系から黒系のデザインへと変更した。
 あえてドレスダウンして商用車のように見せるという手法はカングーならでは。カングー2のオーセンティックは廉価版というよりも、むしろ「このほうが本来のカングーの姿だ」と言わんばかりだ。カングー2になっても、カングー1の商用車ベースというルーツを求める向きには最適ではないか。

ラゲッジ1324やっぱカングーは働くクルマ?

 実際に目の当たりにしても、その佇まいはストックのカングー2よりもなんか落ち着く。僕のなかにも「カングーは商用車ルーツであるべき(というかそうであるのが普通)」という観念があるのだろうか。家族が乗ってワイワイ言いながらレジャーに出かける姿よりも、リアシートなんか取っ払って資材や荷物などをガンガン載せ、ミラーが傷ついたり、横っ腹を擦ってたり、バンパーに傷があっても平気でそのまま使い倒しているシート倒し1325姿のほうが、鮮明にイメージできる。商用車なら国産車にもいくらでもあるが、あえてこのクルマで仕事してます的な部分に惹かれる。
 室内を覗いてみると、あれ? これMTだと気付く。前回乗ったのはATだった。そうか。ATだったからあまり印象が良くなかったのかもしれない。こ、これは希望の光が見えてきたぞ!

 

 

エンジン1327ATとMTの印象がこれだけ違うクルマは珍しい。

 ちょっとの期待を胸に、いよいよ試乗。座った感じはあいかわらず新しいルノーのそれだ。景色もシンプルでいい。目に入るものは黒、白、グレー、ときどき赤ってな感じでそっけない。そう、働く男(女)には、見てくれなんて大した問題じゃない。中身よ、中身! で、走り出してみる。すると、ん? あれ? あれれ? あれあれあれ~?
 なんだ、この運転感覚は! ATのカングーとぜんぜん違うじゃないか。クラタイヤ1326ッチミートした瞬間、すっと車体が前に出る感覚。もちろん非力なのでハイパワーなクルマと比較するのは酷だが、この排気量、この馬力で軽く前に出る感覚はATとはまるで違う。これがほんとに1.4トンもあるクルマか!? スピードを上げ、シフトアップしていく。あれ~? な感覚はまだ続く。ATにあったもっさり、もたもた、もっと速く行けよ! というもどかしさはぜんぜんなく、すごく軽いのだ。感覚的な部分ではなく、車体自体が軽くなったような感じ。何気に2-3-4速がクロスしているのでつながりもいいし、とても軽快に走れる。なんだ、これ。トランスミッションが変わっただけで、こんなにも変わるものなのか?
 路面への当たりがやわらかい足回りも好印象。そのせいかロールもけっこう盛大だが、先代よりもトレッドが広がっているので、グラッとくる感覚ではなく、ググッと抵抗を感じながら徐々にロールしていく感じで不安感はない。さらに室内の静粛性もカングー1とは比べものにならない(個人的にはもうちょっとうるさくてもいいが)。おそらく二重フロア構造のセニックだからロードノイズも小さくなっているんだろうなと思う。
 しばらく走っていると、あれだけ抵抗感のあったカングー2はしっかりと体になじんでいた。ポンポンとリズミカルにシフトアップし、キビキビと走る。いい! おもしろいよ、これ! カングー1にあった「商用車ベースなのに運転が楽しい」がここにも確かにあった。
 お次はイマージュ。先に書いた通り、イマージュはいろいろな仕様車の中で最も豪華な装備を持つ。オーセンティックとは対極に位置するモデルだ。真っ先に目を引くのがビボップの顔になっていること。そして乗り込むと、素敵なデザイン&カラーリングのシートが迎えてくれる。シートが変わるだけでこうも違うかね? いやー、おしゃれだ。粋だ。エスプリだ!(←良く分かってないのに使ってる) イマージュにはATモデルしか設定されていないけど、これはまぁ、なるほどと納得できる。リッチな装備が付いたカングーを選ぶ人に、街中をキビキビ走りたいと思う人は少ないだろう(いや、いるかもしれないけど)。むしろゆったりと安楽に街中を流すのにはATのほうがふさわしい。あと、デザイン的にビボップが好きなんだけど、やっぱり後席のドアが欲しいなぁ、と思っている方にもおすすめ。思い切って本国から派手なダッシュボード取り寄せて、ボンネットとリアゲートの一部も塗っちゃって「カングー・ビボップ・マキシ」なんてナンセンスなクルマにしちゃう?(余計なこと言うとスズキさんに怒られそうなので、この辺で止めとく)
 

カングー(BEBOP顔)前1409ウィンカーレバーの動作が気持ちいい。

 それと運転を楽しくさせている要素として、もうひとつ見つけたことがある。それはシートの座り心地をはじめ、ステアリング、シフトのアップダウン、さらにはコラムレバー(ウィンカーレバー)の感触やウィンカーを出しているときの音までもが気持ちいいのである。
ステアリングは電動パワステらしいちょっとダイレクト感に欠ける印象だけど、まずまずの味付けだし、特に声を大にして言いたいのがウィンカーレバーのフィーリング。カチッというほど硬質ではなく、コトッと言えばいいのか、少しやわらかめの何かを間にはさんでいるような、とにかく動作が気持ちいいのだ。あまりに気持ちいいので、意味もなくレバーを押し上げたり、押し下げたりしてしまったじゃないか。そういえば、シフトチェンジの感触もこれに似ているかもしれない。カチッではなく、コトッとかコクッ。明確な節度感はあるのだけど、硬いわけではなく、その硬さにやわらかい膜がかかったようにちょっとやさしい。これこそ「絶妙!」と言わずして何と言う。
まぁ、とにかく感覚的に訴えてくるのだ、カングー2のMTは。こんなことに400字も費やして説明したくなるほど、運転者とクルマが接し、動作する部分に気持ち良さを宿してくれるのだ。カングー2の記事はいろいろ読んだけど、この部分にこれだけ費やして説明しているのはひとつもないぞ。些細なことなのでいちいち書いてないのだろうけど、僕にとってはこれ、すごく重要なことなので、いっぱい書いておいた。
 ああ、たくさん書いたついでにもう一個。リアシートを畳む機構がなかなか良い。ま、国産ミニバンではこんなの当たり前なんだけど、よくあるシートベースを引き起こしてから、シートバックを倒すというタイプではない。シートバックを倒そうとすると、シートベースがそれに連動して前方にスライドし、一発でフラットに。ちなみに助手席もリアと同じような方式(一発じゃないけど)で畳め、同様の高さになる。これはけっこう便利だと思う。

カングー(BEBOP顔)前席1410自分だけの正解を見つける楽しみ。

先に、カングー2はいろんな仕様のモデルがあると書いた。色で主張するもの、装備の豪華さをアピールするもの、反対に質素さで攻めてみるもの。ビボップのような個性で勝負するもの。AT仕様だって見ようによってはキビキビ走るよりものんびり、ゆったり楽ちんに運転したいって人には最適だろうし、MTはその真逆だ。そう俯瞰してみると、カングー2の懐の深さに感じ入ってしまう。楽しみ方はいろいろある。その中から自分のライフスタイルや好みで「自分だけの正解」を見つけ出せばいい。カングーブラザーズにおいて僕の正解はこれまでビボップだったが、今回のオーセンティック(MT)もかなり捨てがたい存在になった。
 
余談だけど、つい先日ヴァンデンアッカー顔になったビッグマイナーチェンジ版が発表された。日本仕様はなんと4ATのみ。本国ですら1.6リッター+MTの組み合わせはない。じゃーMTはもう乗れないのか、といったらそんなわけはない。日本はけっこうMTのカングー売れてるからね。おそらく今後、1.2ターボ+6MTの仕様で入ってくるでしょう。いや、そんなことより、なんかね、時代を感じます。もう1.6エンジンは過去の遺産となりつつあるんだなぁってね。

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

エンブレム13282013y RENAULT Kangoo Authentic
全長×全幅×全高/4215mm×1830mm×1830mm
ホイールベース/2700mm
車両重量/1420kg(MT)
エンジン/水冷直列4気筒DOHC
排気量/1598cc
最大出力/78kW(105PS)/5750rpm
最大トルク/148Nm(15.1kgm)/3750rpm

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