【CROSS TALK 1】愛はお金で買えるのか!? それとも、愛があるからお金をかけられるのか!?

今回の「ヴィブル・ミノリテ」は少し趣向を変えて、RENOすずきさんと僕モリタのトークをお届けします。テーマは「愛はお金で買えるのか!?」(笑)。いやいや、そんな大仰な内容ではなくて……。中古車を買うということ、そして表からは見えないけど、クルマ屋さんがやっていることなどを紹介しながら、クルマとお金の関係などについて話していこうという主旨。ひとまず、すずきさんから最近あったクルマの商談などを例として挙げていただき、それについてあーだこーだと話していきます。

ルーテシア3

業者オークションは、日本一高い!?

Morita(以下、M):というわけで、よろしくお願いします。

Suzuki(以下、S):はいはい。まず何からいく?

M:そうですね。まず3年落ちくらいの新しめな中古車と、5~10年落ちくらいの古いの、さらに10年オーバーのすごく古い中古車の3つを例に挙げてもらって、それぞれのクルマが「欲しい!」となったとき、すずきさんが何を考え、どう動いて、どうお金の計算をしてるのか、なんてところを教えていただければ。

S:なるほど。

M:最初は新しめな中古車で……、ルーテシア3くらいにしましょうか。

S:それなら半年くらい前にあったよ。306ブレークに乗っていた女性。もうすぐ車検が切れるし、そろそろ買い替えたいと。クルマのことは詳しくないけど、普通の国産車はイヤみたいで。ブレーク乗ってるから、荷物を載せる機会が多いのかといったらそうでもない。じゃあ普通のハッチバックでいいね、と。予算は100万円以内で……と。まぁ、そんな感じでいろいろ相談していった結果、ルテ3に落ち着いたわけ。そんなに古くないし、値段もそこそこだし、ATだし。ただ、ネックになったのが色。ルテ3って割とガンメタとか地味目の色が多いんだよね。でも「そういうのはちょっと……」と言われるんで。

M:まぁ、女性ですからね。色にこだわる人は多いかもしれない。

S:うん、それで業者オークション見て探すわけ。で、あったことはあったんだけど、業者オークションってけっこう賭けなんだよね。年式、走行距離、車検の有無、色、おおざっぱな見た目と、それくらいしか情報がない。で「おすすめするのは微妙なんだけど、こういうのがあったよ。でも、オークションなんで、落札できても100万超えるかもしれない」と聞いてみたら、予算的にちょっと厳しい、と。
そうなると今度は中古車雑誌で探すことになるんだけど、これ、一般ユーザーと同じことしてるんだよね。で「あ、この色いいじゃん!」ってのを見つけて。それがたまたま付き合いのあるクルマ屋さんだったの。すぐ電話して「こういう案件があるんですけど、進めていいですかね?」って話したらぜひぜひと言ってくれたんで、福井まで取りに行って。

M:運が良かったですね。

S:そうだね。知ってるところなんで、キズの有無など細かいところまで教えてもらえたんだよね。しかも新車からずっとメンテしてるクルマなんで、まず心配ないと。その女性にも納得してもらえて。

M:この場合は、たまたま知り合いのクルマ屋さんが持ってたから良かったですけど、もしなければ、やっぱり業者オークションで仕入れるってことになるんですよね?

S:そういう場合もあるね。でも業者オークションって、日本でいちばん高い中古車を買うことになるんだよ。だって、欲しい人が全国から入札するわけだから。タマ数の多いクルマならいいけど、うちらが扱うのはそうじゃないし、ましてや指定された色ならなおさら。さっきも言ったように年式、走行距離、車検の有無、色、おおざっぱな見た目くらいしか情報がないから、高額で落札したのはいいけど、来てみて「うわっ!」ってことだってある。

M:リスクは高いですよね。そのリスクを背負ってでも欲しいってクルマなら仕方ないけど。このパターンで言えることは?

S:まぁ、運が良かったことと、3~5年落ちくらいの新しめな中古車は、めちゃくちゃ安くはないけど、そのぶん荒れているクルマが少ない。当然、各部品の経年劣化も進んでないから、それほど触るところはないんだよね。だからお客さんは安心して乗れる。こっちの立場から言えば、触るところが少ないぶん、儲けも少ない(笑)。

 

プジョー106-S16履歴の分かってないクルマはこわい。

M:では、5~10年落ちくらいの中古車はどうでしょう? たとえば、プジョー106 S16とか。

S:106だと最終型でも2003年だから軒並み10年以上前のクルマになっちゃったね。10万km超えてるクルマも少なくない。じゃあ、まず買う側の話からしようか。106のオーナーさんから電話がかかってきたとしますわね。年式と距離はこのくらいです、と言われるんだけど、僕は「そのクルマ、売れると思います?」って逆に聞いちゃうんだけどね。すると「いろいろ手が入ってますよ」と答える。でも、それって、どこでどうやったのか分からないよね。自分でやったのなら、それが原因で後々トラブルになる可能性だってある。もしうちが買い取って、お客さんに売ったとして何かあった場合、その責任はこっちが負わないといけなくなるわけだから。

M:どういう使われ方をしてるのかも分からないですよね。

S:うん。で、そういうお客さんはたいてい来ないね(笑)。でも過去、うちでメンテナンスしてるクルマになると話は違って。そのクルマのことも、オーナーさんのこともある程度把握できてるわけですよ。オイル交換の頻度とか、足はアブソーバーが変わってて、けっこうちゃんとしてるクルマだよなぁって。で、そういうお客さんが「クルマを手放したい」と言われれば「ぜひ、うちにください!」とこちらから言いますよ。

M:過去の履歴が分かっているのと分かっていないでは、大きな差があるんですね。

S:そりゃそうだよ。分かってないのは、買い取った後、何が起こってもおかしくないっていう覚悟が必要だもん。誰かも知らない、クルマも見たことないのに、年式と距離くらいの情報で値段を付けろっていうのはムリだよ。以前ね、OHVのトゥインゴを買い取ってほしいって電話があって。OHVだからいちばん新しいのでも18年くらい前のモデルだよ。「天井、色あせてません?」「ちょっとキてます」、「ボンネットは?」「かなりキてます」、「タイヤは?」「もうヤマないです」、「車検は?」「来月切れます」、「それ、いくら付ければいいです?」「10万くらいになりませんかね?」って。仮にね、そのクルマを10万で引き取って、ひととおり車検整備して、ボンネットと屋根塗って、タイヤ4本換えて、いくらで売ればいい? って話。そうすると相手も「う~ん……」ってなりますよね。まぁ、そういうことですよ。

M:たしかに。売りたいほうは、売られる側のことなんか考えてないですからね(笑)。

S:そもそもね、ちゃんとしたクルマなら周囲にいるクルマ屋さんが「それ、ヘンなところで安く売られたらもったいないな」って思って「手放すならうちに売ってよ」って話になるはずなんだよ。

M:なるほど。そうであるなら、そもそもすずきさんのところに電話かけてこないですよね。

S:そう。周囲にいるクルマ屋さんにも「うちじゃ買ってあげられないな」と言われたから、電話してきてるんだよね、たぶん。

 

価格は、わりと素直。

M:で、話を戻して106。売る場合はどうでしょ?

S:そうそう、106ね。この辺のクルマになると、程度はピンきりで、パリッとしてるクルマは、これまで手を掛けて、お金を掛けてきたからパリッとしてるわけで。そういうクルマは仕入れるときの値段も安くない。そこにクルマ屋の利益も乗るわけだから、売値も高くなる。

M:当然、そうなりますよね。

S:じゃ、パリッとしてないのはどうか? タイベル換えてなければ換えないかんし、クラッチレリーズがガラガラいってるならクラッチも換えないかん。つーか、ショック抜けてるよね。ショック換えるなら、アッパーマウントも換えたほうがいい。ロアアームのブーツ、破けてるなぁ。106ってブーツ単体で部品が出ない。じゃ、ボールジョイントだけ換えるかっていってもリスクがある。だからブーツ破れててロアアームブッシュも怪しいなら、アッシーで換えたほうが確実なんだよね。

M:やりだしたらきりがないですね。

S:でも、乗って困らないくらいのことはやって納めたいからね。だからやっぱり売値も高くなるんだよ。でも、そういうクルマは中古車サイトとかで価格別にソートされると、高い分野に分けられちゃうから誰も見ない。

M:そういう部分って買う側から見えにくいし、どうしても低価格って魅力のほうが勝っちゃうんでしょうね。

S:うちにも以前、程度のいい106があったんだけど、それなりに良かったので売値も高かった。で、あるお客さんが気に入ってくれて買ってくれたんだけど。4、5年前かな。その後、1回セルモーターいかれたけど、大きなトラブルもなくいまも元気に走ってるよ。

M:高いのを買ったけど、そのぶん幸せなカーライフを満喫できている、と。

S:逆に言えば、大したメンテナンスもせず、壊れても適当に直して乗ってたオーナーさんが、そのクルマを安く売ったとする。それを買ったクルマ屋さんも安く売るために、大した救済措置もせずに売ってしまって。それを安いからって飛びついて買った人は、その後クルマがどうなっても文句は言えないよね。

M:そうですね。昔は106も割と人気があって高値でしたけど、いまはだいぶ落ち着いていて、50万円くらいのもありますよね? それくらいのクルマってどうなんでしょ?

S:かなりクオリティ下がると思うよ。だって、よく聞くのが「今度の車検でいくらかかるか心配で、心配で」って。実際どこかのクルマ屋さんに出したら、全部で30万かかりましたって。でもさ、その中身を考えていくと、諸費用がいまだとだいたい5、6万。実質25万だよね。で、たいていのクルマ屋さんは基本点検料とかで5、6万かかる。となると残り20万。20万でクルマに何ができるって考えると、そんなに大したことはできないよね。だって、車検のときに換える部品って、破れてるブーツとか減ったパッドとか最低限のものだけ。それらを交換するだけでもけっこうかかるからさ。ちまたで売ってる40、50万のクルマっていったい何がなされているのか?

M:そう考えると、クルマの売値はクルマの質に比例してますね。

S:そう。絶対そうだとは言い切れないけど、価格はわりと素直よ。

 

キャトルキャトルオーナーに猶予はない!?

M:では、最後にすごく古いクルマ、たとえばキャトルとかどうです?

S:キャトルねぇ。ボロいだけのキャトルならタダでもいらんですねぇ。

M:(笑)

S:部品取り用でも、って来たら、取れる部品すらないってこととかね(笑)。

M:でも、キャトルくらいのクルマになると、けっこうちゃんとしたオーナーさんが多いのかなぁ、って思うんですが、そうでもないんですか?

S:そうでもないねぇ。わぁ、こんなんでよく乗ってるなぁってキャトル、よく見るもん。塗装もかなり傷んでるのも多いし、車体揺らしてみるとすごいギシギシいったりして。そういうのってブーツが切れて、中のボールジョイントもダメになってるんだよね。車検はブーツさえ切れてなければ通っちゃうからさ。そもそもキャトルってブーツだけ換えれる構造してないから。

M:あ、そうなんですか?

S:うん、サイズだけ合わせて国産車のを適当に付けても、結局グリス漏れるから。あれはボールジョイントごと換えるものなのね。他にもショックが抜けてオイルでベトベトになってたりしてね。キャトルなんか新品に換えてなきゃ、たいていショックなんか抜けてるって。だって20年でしょ? 乗り心地がゆったりしてていいね、なんて言ってるけど、あれは抜けてるからそうなってる場合が多いんだよ。

M:大いなる勘違い(笑)。

S:そう。実際に僕も知らなかったんだけど。以前、ショック4本新品に交換するってお客さんがいて、それやってから乗るとすんごくシャッキリしてるもん(笑)。

M:じゃあ、もしそんなクルマのオーナーさんに「買ってください」って言われたら?

S:そうねぇ。売り物になるところまで仕上げようとするなら、まず全塗装だね。ショック、ボールジョイントも交換。ブーツみたいなゴム製品もあらかたダメでしょう。シートも破れてたら張り替えしないといかんし。いろいろ足し算すると60~70万くらいかかる。んで、僕も生活してかなきゃいかんので利益を乗っけると100万くらいになっちゃう。「え? でも、それ100万で売れる?」ってさっきのトゥインゴみたいな話になるわけ。ボロボロのキャトルを仕入れてきて、あれこれやって売値100万って……。それは現実的じゃないでしょう。

M:そうですねぇ。そこですずきさんから指摘されたオーナーさんが「じゃあちゃんと直しましょうか」ってなればいいですけどね。

S:そうならない場合が多いんだよねぇ。

M:更生するチャンスを逃しましたね。ちょっとずつでも、直していって正しい道へ行ってくれれば、その後の未来もあると思うんですが……。

S:そうだね。で、キャトルの場合、それができるのもいまのうちなんだよね。

M:というと?

S:これまでたいていの部品は手に入ったけど、だんだん部品が手に入らなくなってきたんだよね。直そうと思っても部品がないんじゃしょうがない。いまのうちにちゃんとやっとけば、あと10年くらいは足として乗れるかもしれないよ。

M:重要部品が出なくなってる?

S:ルームランプはもう10年以上前から供給終了してるし、グリルはここ5年くらいからかな?最近再生産されたって噂も聞くけど……。でも、いちばんイタいのはヒーターコアかな。ここ数年で供給終了になったみたいで、致命的だよね。出ないとなるとワンオフでつくるしかない。

M:なるほど。猶予はないって感じですね。

 

「そういうもんですよ」の真意を探れ。

S:古いキャトルは、ピンきりの差が106よりも確実に広い。たとえばクルマ屋さんでの売値が100~150万くらいなら、もうこのまま乗れますよってやつ。安いやつはそれこそ20~30万で売ってたりする。そういうのって元値はタダ同然だよね。クルマ屋さんとしては、それが売れればそれなりの儲けになるかもしれないけど、買った人は悲劇しか待ってないよね。お客さんはプロじゃないから、そういう隠れた部分は知らないし。で、乗っていろいろ問題が出てきて、そのクルマ屋さんに文句言ったとしても「そういうもんですよ」と言われたりする。

M:古くて一般的じゃないクルマって「そういうもんですよ」攻撃が通用しやすいですよね。

S:「そういうもんですよ」ってのは、そのクルマをよく知ってるクルマ屋さんだけに言う資格がある。そうじゃない場合は、ただの逃げ口上だからね。

M:でも、そうなってくるとキャトルみたいな古いクルマの良し悪しを見分けるにはどうすればいいんでしょう?

S:とりあえずいろんなクルマ屋さんに行って最低でも5台くらい乗ってほしいな。写真はきれいに見えるので、現車で確認するのがいいよ。安い買い物じゃないからね。で、試乗できればラッキーだし、できなくても店の人の話を聞いて自分と周波数が近いかどうかを見定める。もしかしたら、そこから数年はお世話になる店かもしれないしね。ある意味、クルマ屋さんってお客さんとクルマの仲人みたいな存在だから。うちは1回キャトルに乗ってみたいっていうお客さんには、いいことも悪いことも隠さずに話すから、たいていの人は怯むけどね(笑)。ま、もっとぶっちゃけていえば、ひと通りのことがしてあれば、キャトルって70~80万以下には落ちないと思うんだよね。ま、でも最終的にはどの程度のものを買って、どの程度のものまで仕上げるかがポイントになってくる。最初はそこそこのものを買って、1年目は足回り、2年目は外装、3年目は内装……とか「キャトル再生3か年計画」みたいな感じで仕上げていきたいってお客さんなら、僕は計画完遂までしっかり付き合いますよ。

 

愛はお金で買える!?

M:さて、いろいろな話をお聞きして、思わず長くなってしまいましたが、この辺でまとめに入りましょう。

S:そうですね。中古車を選んで買うのって、いまではウェブやヤフオク!みたいのもあって簡単になってきてるけど、お客さんにとって本当に望んでいる中古車を買うのは、あんがい難しい。車種、年式、走行距離、色、車検のように目に見える情報以外にも、そのクルマがどのような履歴を持っているか、オーナーがどのような使い方をしてきたかなど、目に見えない情報も考慮しなければならないからね。じゃあ、その目に見えない部分はどうしたらいいのかっていうと、そこはもう信用できるクルマ屋さんを見つけるしかない。しかも皆さんが欲しいのは、国産車みたいなそれほど一般的じゃないクルマ。だったらちゃんとした専門的な知識と経験のあるお店を見つけておくべきだよね。

M:「クルマ選びよりお店選び」なんて言われるけど、それは本当なんですね。

S:うちはどこへ持って行っても恥ずかしくないようなクルマをお客さんに納めたいから、それなりに売値は高いよ。それを納得してもらえるかどうかはお客さんしだい。あ、でも何が何でも完璧にしないとダメとは思ってないよ。お客さんにも予算や都合があるだろうし「ここはお願いしたいけど、ここは自分でやる」って方もいらっしゃるだろうし。そこはお互い相談しあいながら柔軟に決めていきたいと思ってる。怪しいところは全部新品交換しますよって話だと、コスト掛かりすぎて中古車とは思えない金額になっちゃうから。やるべきことと現状維持すべきことのさじ加減も重要で、そこがクルマ屋さんの周波数になったりもするわけで。まぁ、いろいろ言ったけど、最終的に「売るならうちに売って」とクルマ屋さんに言われるような愛情のかかったクルマになるといいよね。キャトルみたいな絶滅危惧種なクルマは特に(笑)。

M:「愛はお金では買えない」なんて言いますが、ことクルマへの愛に関しては「お金で買える」んですね。

S:というか、そのクルマにお金をかけられるかどうか? それが結局、愛なんだよ。中古の機械として引き受ける覚悟がないとね。それができないなら、新車買いましょう(笑)。

M:お金は愛のバロメーター(笑)。

S:壊れたらちゃんと直して、洗車して、たまに磨いて……。そういうことをしてくれれば、結局はオーナーさんもクルマも幸せになれるんじゃないかな。

 

TEXT/Morita Eiichi

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