RENAULT Trafic COMBI ENERGY 1.6 dCi 145 Twin Turbo

「大きさ」のことを考えてみる。大きさは相対的なものであり、人は自分の基準となる物差しよりも大きいものを「大きい」と認識し、小さいものを「小さい」と認識する。この感覚は日常生活を送る上で、非常に重要ではあるが、同時に自らの価値観や可能性を狭めてしまっているのではないか、とも思う。特に日本は小さなもの、慎ましやかなもの、控えめなものを美徳とする傾向があるが、果たしてそうなのだろうか。時代の価値観がミニマムな方向に進んでいるいまだからこそ、疑ってみたい。

先代に比べて丸みを帯びたものの、それでもフロントセクション以降はスクエアなフォルムを維持しているLCV三兄弟。

これまでのヴィブルミノリテで紹介したクルマを振り返ってみても、ここまで大きなクルマは見当たらない。「トラフィク」は、全長が5mに限りなく近い4999mmを持つ。

その名称だが、すずきさんに指摘されて初めて気がついた。「みんなトラフィックって言うけど、これ、正確には『トラフィク』だよね?」。たしかに綴りをよく見てみると「Traffic」ではなく「Trafic」だ。というわけで、ここでは「トラフィク」に統一させてもらうことにする。

全幅1956mm、全高1971mmなので、後ろから見た姿はほとんど正方形。リアはほぼ垂直にカットされており、スペース効率を優先しているのが分かるこのクルマのジャンルは「LCV」と呼ばれるもので「Light Commercial Vehicle」、いわゆる「小型商用車」の略称らしい。LCVと言えば、ちょっと前にトヨタとPSAが同じプラットフォームを使用し「トヨタ・プロエース」、「プジョー・トラベラー」、「シトロエン・スペースツアラー」の三兄弟をデビューさせたことで少し話題になったが、このトラフィクもメーカーを横断し「ヴォクスホールオペル・ヴィヴァーロ」、「日産NV300」、「フィアット・タレント」が同じプラットフォームを使用する三兄弟である。LCVの分野では、昔からこのようにプラットフォームを各社で共有する文化があるので、それほど珍しいことではないのだが。

 

乗用モデルらしく、インテリアに商用車っぽさはない。フロントウィンドウの天地は狭いが、見切りが良く、大きさを感じさせないトラフィクは現行で3代目。

トラフィクは1980年にエスタフェットの後継モデルとしてデビュー。このときトラフィクよりも大型の「マステール」も投入され、LCVの2台体制を構築。ちなみにこの初代トラフィクはマステール同様にFFとFRの2種類の駆動形式を持っていたのが珍しい。

2000年、フルモデルチェンジを迎え2代目に移行。商用車でありながらもしっかりとデザインされた2代目は、当時のデザイン部門を率いたパトリック・ルケマンらしい顔つきになった。皆さんがトラフィクと聞いてイメージするのは、この2代目かもしれない。その後、2006年にマイナーチェンジをし、グリルやウィンカーが少しだけ変更になった。

そして2014年、3代目に移行すべくフルモデルチェンジを図った。デザインはルケマン顔から現在のルノーデザインを統括するローレンス・ヴァン・デン・アッカ―氏の顔に変更され、全体的なフォルムもグローバル化したように思う。

LCVは商用で使用されるため、さまざまなバージョンやオプションが用意されている。全長が長いモデル、リアクォーターガラスの有無、スライドドアが片側か両側かなど、それぞれの組み合わせを考えれば、けっこうな数になる。なので、今回はトラフィクの中でも乗用モデルとしてラインナップされている「コンビ」について書いていこうと思う。

 

標準仕様は助手席が2人乗りで前席に3人座れるようになっている。しかし、当該車は運転席と助手席が独立しており、8人乗り仕様になっている乗用モデルとしての「コンビ」。

コンビは乗用モデルとしての使用に耐えられる装備を持ったモデル。プラットフォームは全長とホイールベース違いの2種類が用意され、ショートホイールベースは「パッセンジャー」、ロングホイールベースは「グランパッセンジャー」と呼ばれている。グレードは下から「コンフォート」、「グランコンフォート」、「リュクス」の3種類で、当該モデルは最上級の「リュクス」。最大9名が乗車でき、リアエアコンなどの快適機能も装備されている。

エンジンは直4の1.6リッターディーゼルエンジン「R9M」。これにターボとツインターボを組み合わせて出力調整し、95ps、125ps、145psの3種類をラインアップしている(95psはシングルターボ、125psと145psがツインターボ)。

 

2列目、3列目ともに前後のスライドはしない。3列目にエントリーするときも、手前の席のシートバックがわずかに前に倒れるのみ。シートを外すときは、大人の男性が2人掛かりでやらないと厳しいエルグランドより、ちょっと大きい。

当該車を目の前にすると、さすがに大きい。ただ、最近は全般的にクルマが大型化しているので、このくらいのサイズのミニバンは大して珍しくない。たとえば日産のエルグランドは全長×全幅×全高/4975mm×1850mm×1815mmで、ホイールベースが3000mm。トラフィクはそれに対して幅が約100mm、高さで約150mm大きい。この差を大きいと感じるかどうかはその人次第だが、個人的には「ちょっと大きいくらい」のイメージだ。

運転席に座ると、天地の狭いフロントウィンドウと見慣れたルノーのインテリアがあるので、一瞬、サイズ感を忘れてしまう。しかし助手席、そして後席をグルッと見渡してみると、まぁ、何と余裕のあること! 前だけ見ていれば、ちょっと背の高いクルマに乗っているイメージだけど、横と後ろはさすがに広いし、大きい。最初はこのギャップに何とも不思議な印象を抱いてしまう。

 

リアゲートから3列目を出し入れすることはできない。そのため、3列目を取り外したいときは、スライドドアから2列目を取り出した後、3列目を外し、同様にスライドドアから取り出さなければならない想像以上に小回りが利く!

エンジンをかけてみると、ディーゼルエンジン特有のガラガラ音がかなり抑えられている。外に出てエンジンの近くで聞き耳を立てれば、さすがにディーゼルと分かるが、車内にいる限りはほとんど気にならない。「このクルマ、ディーゼルだよ」と言われなければ、多くの人は気付かないかもしれないくらいの静かさだ。

節度感のあるシフトレバーを1速に入れ、アクセルを踏むことなくクラッチをつなぐと、トラフィクは何事もなくスルスルと前進する。2トン近くあるボディを3.5リッターのガソリンエンジン並みのトルクで、簡単に引っ張っていく。4500rpmから始まるイエローゾーンまで回すまでもなく、ポンポンとシフトアップしていっても、分厚い低速域のトルクがドンドンとクルマを前に進めていく。無理やり上まで回しても特に官能的な印象もないから、とにかく「低速トルク命」なエンジンなんだろう。これだけ力があれば、たとえ9名フル乗車(当該車は8人乗りだけど)でもストレスを感じることはないだろう。そしてホイールベース3mを超すクルマでありながら、小回りが利くのには驚いた。そのおかげだろうか。運転中はこの大きさを忘れるほど軽快にドライブできた。ただ、これが落とし穴で、気分的にサイズを感じなくても実際は寸法どおりの大きさがあるので、いろんなところをぶつけないように注意しなければならない。

 

シートアレンジは多彩。2列目、3列目ともに、外せばそのまま屋外でベンチとして使用できる。重さがある分、しっかりと安定しているトラフィクを飼い慣らすために知っておきたいこと。

たまたますずきさんの店にエスパスがあったので、室内の違いを見てみた。各部にファブリックを使った内装の仕上げ、2列目、3列目のシートの出来は、乗用であるエスパスの方がはるかに上質だ。それぞれ独立したリアシートは少し小さめではあるけど、しっかりとした厚みがあり「これぞ、フランス車」といった感がある。もちろんレイアウトも多彩だし、それぞれ脱着も可能だ。快適性や細部のつくり込みは、もともと乗用を目的としているからまったく不満はない。

一方、トラフィクは商用を出自としているが一見するだけでは、商用と思えないくらいの品質は高く、不満は感じない。しかし、エスパスと比較するとやはりプラスチッキ―な部分も目立つ。2列目、3列目はベンチシートでシートの厚みもそれほど贅沢ではない。カングーのリアシートと似たような感じといえばイメージしやすいだろうか。しかも2列目の右側席は3列目への乗降用にシートバックが倒せるようになってはいるが、完全に倒れないばかりか角度も浅い。それでは左側のスライドドアから入れば、と思うのだが、こちらから入っても2列目の左側座席のシートバックは倒れもしない!
3列目は荷物を乗せるために畳める構造にはなっているが、それだけである。シートを脱着するにしても、ベンチシートの全幅の関係で、リアハッチから降ろすことは困難。3列目を脱着するためには、まず2列目をスライドドアから降ろしてからでないと難しい。しかも2列目、3列目ともにかなりの重量があるので、脱着には大人の男性2人が必要。シートを脱着するためのレバー操作など、いかにも「機械を操作してる感満載」で非常に男臭い。2列目、3列目のシートはサイズもあるので、外したとしてもそれを置いておく場所も確保しなければならない。

エンジンは日産とルノーが共同開発した「M9R」にツインターボを組み合わせたトップモデル。当該車は「ENEGY」と呼ばれる仕様で、スタート&ストップ機能が付いている。トランスミッションは、ルノー内製の6MT「PF6」が組み合わされる大きなクルマなので、車内を快適に保つためにも、エアコンはリアにも欲しい。窓を開ければいいと思いきや、前席以降の窓はスライドドアについている小さな2枚のみで、しかも数十cmスライドするだけなので、この大きな車室空間を効率良く換気できるとは思えない。ちなみに「リアエアコン+窓」という装備はトラフィクの中でも最上級グレードである「リュクス」のみに標準装備されるものであり、他のグレードでそれらを付けようとするとそれなりのオプション料金が発生する。

まぁ、トラフィクのような商用出自の大きなクルマを乗用で、しかも快適に使えるようにするためには、それなりの努力とコストが必要ということだ。しかし、それをいったん成し得てしまえば、およそ何でも詰める広大なスペースを手に入れることができる。このスペースを倉庫とするか、第2のリビングとするかは、その人の意向次第である。何もせずに快適で広大なスペースを手に入れたいなら、初めから乗用前提でつくられたエスパス(もしくはグランエスパス)をオススメする。トラフィクはあくまでも商用車が出自。本気で検討している人はそのことを肝に据えてほしい。

 

タイヤサイズは215/60R17。16インチもあり、その場合は215/65サイズのタイヤが装着される大きいことはいいことだ!?

今回は諸条件で試乗に多くの時間を割けなかったが「サイズ」についていろいろと考えさせられる機会となった。多くの人はトラフィクを目の前にすると、まず「大きい」という印象を持ち、その次に多くの人は「こんなに大きいと日本の道路事情には合わないのではないか」とネガティブな感情を抱くかもしれない。道路事情だけではない。「このクルマはアリかナシか?」と問われれば、人によっては「駐車場に入らない」、「自宅前の細い道を通れない」といった理由で「ナシ」と答えるかもしれない。さすがにそういった物理的な事情の場合は仕方ないが、そのような条件さえクリアになれば、あえて大きなクルマに乗ってみるという冒険もおもしろいかもしれない、と私は思ったのだ。

大きさというのは、相対的なものだ。常日頃、大型トラックに乗っている人にとっては、トラフィックなんて小さな部類のクルマに入るだろう。サイズなんてものは、自分の基準によって大きくもなり、小さくもなるのだ。

大きなサイズのクルマに乗り換えるときは、最初こそサイズ感に気を付けなければならないが、人間はすぐに慣れる生き物である。注意期間を過ぎてしまえば、そのサイズの恩恵に預かることも多いのではないか。人も載る、荷物も載る。友だちとどこかに遊びに行くときも、数台に分かれて乗車していたのがたった1台で済む。座席さえ外しておけば、コストコに行って80インチの大型液晶テレビだって持って帰れる。これまでできなかったことができるようになるというのは、いくつになってもうれしいことだし、これをきっかけにライフスタイルが変わるかもしれない。たかがクルマのサイズを大きくしただけで、である。

かつて某製菓メーカーが「大きいことはいいことだ」というキャッチコピーを掲げ、大型の板チョコレートを発売した。昭和40年代初め、高度経済成長の時代ならではである。現代では誰も口にしないであろうこのコピーだが、そこに込められているのは、単にサイズだけの話ではないはずだ。

 

 

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

 

2017y RENAULT Trafic COMBI ENERGY 2.0 dCi 145 Twin Turbo
全長×全幅×全高/4999mm×1956mm×1971mm
ホイールベース/3098mm
車両重量/1901kg
エンジン/水冷直列4気筒DOHC16Vディーゼルツインターボ
排気量/1590cc
最大出力/107kW(145PS)/3500rpm
最大トルク/340Nm(34.6kgm)/1500rpm

3 Responses to “RENAULT Trafic COMBI ENERGY 1.6 dCi 145 Twin Turbo”

  1. 「無いものだけを世界から」の某氏のFBで話題持ちきり
    の新型トラフィック、カラーリングがモノトーンでもメタリック
    でも他の追随を許さない魅力満点ですね。
    商業バンでもデザインコンシャスなのはやはりさすがはルノー
    デザインなんですね。

    • ×トラフィック
      〇トラフィク

      でしたね、いきなり間違えた。

    • すずき@PMG4 より:

      すごいひとがいるもんだ。私はあるもの買えるものしか持ってこれないんですけども。

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