RENAULT Megane RENAULT Sport 2.0T

オーディオが好きな方は分かると思うが、音を鳴らすためのエネルギー源はパワーアンプだ。一般的にこのパワーアンプは、その容量が大きければ大きいほどいいとされる。そのアンプのフルボリュームが10だとしたら、0.5か1.0くらい上げて聴く。それは小さな容量のアンプの目盛り9で聴くのとは雲泥の差を感じるのである。

 

 

 

 

生産工場はアルピーヌ由来のフランス・デュエップかと思いきや、スペインのバルセロナ工場だとか。3ドアのみで現行のメガーヌは5ドアのみ市販車FF最速モデルを賭けた仁義なき戦い。

メガーヌは初代が1995年に発売され、2002年になって2代目が、2008年に3代目がデビュー。現行は2016年に発表された4代目となっている。

2代目以降に設定されたR.S.モデルについては、ルノーの中でトップカテゴリーのスポーツカーで、何かと話に挙がるのが「市販車FF最速モデルか否か!?」という話題。2008年に初代メガーヌR.S.の「R26.R」で初めてニュルブルクリンクでタイムアタックを行い、8分16秒90というタイムを記録。2011年には2代目メガーヌR.S.の「トロフィー」で8分7秒97を記録した。そして2014年「メガーヌR.S.トロフィーR」で、FF市販車として初めて8分の壁を破る7分54秒36を達成したのだ。

ロー&ワイドで、内側から溢れんばかりのパワーが外板を外側に押し出しているような、張りのある面構成。各部に空力を意識したデザインが見られるこの記録に黙っていなかったのがホンダだ。ご存じの通り「シビックタイプR」でメガーヌR.S.の記録を4秒も縮める7分50秒63を叩き出したかと思えば、新たな刺客「ゴルフGTIクラブスポーツS」が7分49秒21とその記録を上回った。が、今度は2017年、新型シビックタイプRがゴルフの記録を大きく削る7分43秒80という驚異的な記録をマークする。

正直言って、個人的にはこのようなタイム争いに興味はないのだが、やはり「市販車FF最速モデル」という肩書きはブランディングや販売に大きく影響するから、カーメーカーにとっては喉から手が出るほど欲しい称号に違いない。この三つ巴の決着はどうなるのか。何かしらの法的な規制がかからない限り、タイムへの飽くなき追求は続くだろう。

 

ブラック系のインテリアだが、各パートに素材感を活かしており、スパルタンでありながら単調になるのを抑えている。ダッシュボード中央に設置された「R.S.モニター」には、過給圧、スロットル開度、エンジンのアウトプット、油温、LAP、0-400m、0-100km/h、前後左右方向へのGの出方など、走りに関するさまざまな情報を表示できる日本にはカップシャシーのみ導入。

ということで、今回は当時そのタイム争いに参戦していたメガーヌR.S.の登場である。2代目のR.S.は、R.S.275、R.S.トロフィー、R.S.275トロフィーRといった派生モデルとともにデビュー。シャシーはスポールとカップの2種類用意されているが、日本にはよりハードなカップシャシーのみが導入。2011年の導入当初は3ドア左ハンドル6MTだけだったが、2012年にはハンドル位置が右になり、LEDのデイライトが追加されるなどの変更が加えられた。当該車もこの変更が加えられた後のモデルで、ハンドル位置は右になっている。全幅が1800mmを超えるため、日本の道路事情では右ハンドルのほうが扱いやすいかもしれない。

 

いかにも高価そうなレカロ製のセミバケットシート。座面もサイドサポートも硬く、いかにもレーシーだが、シートバックの角度調整や後席へのエントリーのため、ワンタッチでシートバックを倒すことができる(当たり前か)。シートベルトはイエロー!硬い。とにかく硬い。

メガーヌR.S.は、これまでこのコーナーで乗ったルノー車の中で最もハイパワーなスポーツカーだ。それだけでも緊張するのに、取材当日は雨、しかもタイヤはかなり溝がない……。この悪条件のなか、それでもその真価を確かめたいと思い、私はいつもの峠よりもハイレンジで走れる別の峠に向かった。

いかにも高級そうなレカロのセミバケットシートに身を沈めると、そのクッションの薄さに「硬いなぁ……」とつぶやいてしまった。クラッチは恐ろしく軽いが、走り出した瞬間、突き上げるような衝撃を感じた。そして再度「こりゃ、そうとう硬いな」とつぶやく羽目になる。そう、その硬さはシャシーだけでなく、このシートも影響していると思う。

これまでにもR.S.モデルはトゥインゴ、ルーテシアともに乗ってきたが、メガーヌR.S.がいちばん硬いと感じた。日本ではこういったとんがったモデルのほうが食いつきがいいのは分かるし、実際、買う人はこういう硬さを求めていると思う。とはいえ「こんなに硬かったら、ギャップで跳ねそうだなぁ」と、そんなことを思いながら街中をスローペースでスタートした。

後席のシートはけっこうやわらかい(というか、前席が硬かったので、そう感じるだけかも)。外見からは後席の居住性はゼロに見えるが、収まってしまえば、あんがい快適だ。頭上空間も175cmの私でも充分。

タウンスピードで走っている分には、その硬さ以外、何も神経質なところは感じない。むしろ2.0Lターボという余裕のあるエンジンと出力特性でめちゃくちゃ楽である。1速で発進して2、3速と立て続けにシフトアップし、4速に放り込んでみる。そうするとNAなら低速域はもうガックンガックンして走れたものじゃないが、メガーヌR.S.は2000rpmからでもアクセルを踏むとスムーズに加速していく。「なんじゃこれ!?」と拍子抜けするくらいイージーなのだ。ただ、そのまま踏み続けると恐ろしいスピードでタコメーターとスピードメーターの針が上がっていくので、ご注意を。

 

安心して走れる懐の深さ。

峠に着いても雨は降りやまないどころか、霧まで出てきた。ひとまずあれこれいじらず、ESPはノーマルのまま走り出すことにした。街中での怠惰なシフトワークを止め、きっちりと回転を上げていく。いつもの峠は道幅が狭く、クイックなステージで1速、2速を多用するだが、この峠は2、3速をメインとする。路面も多少荒れているが、先ほど感じた「ギャップで跳ねそう」なムードは微塵も感じない。こんなに硬いのに、不思議なくらいだ。

ラゲッジルームの荷室容量は344リッター。床下にも収納スペースがある走り出して特に素晴らしいと感じたのはハンドリング。メガーヌR.S.にはフロントのストラットにルーテシアR.S.と基本的に同一な「ダブルアクスル・ストラット・システム(DASS)」を搭載している。これは別体のアルミ製ナックルアームにストラットの下部を接続し、ピボットを意識的にずらすメカニズム。これによってサスペンションが上下に動いても、その動きに影響されることなく、常に荷重をタイヤの中心にかけることができる。DASSの影響か、私はこのヌルッとした独特のハンドリングに魅了された(これはタイヤのせいもあるかもしれない)。決してクセがあるわけではないが、自然なフィーリングの中にもメガーヌR.S.の個性を感じさせてくれるのだ。ツルツルタイヤなのに、緻密なESP(Electronic Stability Program)やASR (Anti Skid Regulation)といった電子制御、GKN製のLSD(Limited Slip Def)のおかげで安全にドライブできている感じがする。エンジンもどちらかというと低中速に強い特性のようだが、5000rpmくらいまで回すと急にエンジンに軽さを感じて気持ちがいい。ターボ車なので、回せば回すほどパワーが出る類ではないが、高回転の爽快感も味わえるので文句はない。熟成されたF4Rの真価を垣間見た気がした。

 

先代のメガーヌR.S.よりもタービンを大型化し、過給圧を上げた2Lターボエンジン。可変バルブタイミング機構を備え、最高出力が先代の224psから250psに引き上げられた。最大トルクも30.6kgmから34.7kgmに。それでいて燃費は7%向上しているという。「アクセルペダルマッピング機構」も特徴的。アクセルペダルを踏んだ量とエンジン側のスロットル開度の比率を変更するもので「SNOW」から「EXTREME」まで5段階に変更可能だFFだからとか、そんなこと考えなくていい。

7kmほどの峠を2往復したが、後半はこのクルマがFFで、FFのクルマの特性はこうで、こういう運転をするべき、というようなセオリーはほとんど忘れていたように思う。つまりFFなのにFFを感じさせない、非常にニュートラルなドライビングフィールを提供してくれるということ。アンダーとかオーバーとかはもちろんサーキットで限界まで攻め込んでいけば分かるのだろうけど、日本の峠レベルではいちいちそんなこと考えなくても、自制心さえちゃんと持っていれば気持ちよく走れる。それが物足りなくなったら、クルマからのサポートを一切カットできるモードが付いているので、それを試せばいいと思う。

峠からの帰りは高速道路を使ったが、想像通りすばらしい走りだった。速度域が上がってもメガーヌR.S.は「まだまだ、こんなの余裕だよ」と言わんばかりだ。きっと日常使いではこのクルマの実力の1/3程度しか発揮できていないのだろうなと思う。6速に入れておけば、それでOK。追い越し時も5速にシフトダウンすることなく、そのままアクセルを踏み込めばいい。脚の硬さも高速道路ならそれほど気にならない。このままノンストップで300km以上走れそう。そんな気持ちにさせてくれるのだ。

 

いまとなっては貴重なsifoの鍛造アルミホイールを装着。標準は18インチ(235/40ZR18)だが、オプションで19インチも選べた。ブレーキはR.S.モデルおなじみのブレンボルノーのなかで最も完璧なスポーツカー。

人それぞれ基準はあるが、私の中では250ps以上のクルマをハイパワー車と位置付けているのだが、その見方はどちらかというとネガティブだった。だって、そんなパワーがあっても日々の暮らしのなかで発揮するシーンはないし、宝の持ち腐れだと思っていたから。それよりも100psそこそこの軽いクルマで、性能を目いっぱい引き出して走った方が断然気持ちがいいと思っていた。それが自分の価値観だった。

でも、メガーヌR.S.に乗ってみて、その価値観に変化があった。それは「ハイパワー車でも、その性能をフルに発揮できなくても、楽しいクルマはある」ということ。メガーヌR.S.がまさにそのクルマだった。ハイパワーでありながら、タウンスピードでも扱いづらいことはなく、むしろイージードライブを許容する大らかさがある。中低速域でもハンドリングの良さを味わえるから、交差点を曲がるだけでも楽しい。もちろん、その気になれば充分速く、長距離を走っても疲れないグランツーリスモ的な性格も有する。

メガーヌR.S.は、これまでこのコーナーで乗ったルノー車の中で最もハイパワーなスポーツカーであり、最も完璧なスポーツカーだった。こんなクルマが当時385万円で買えたわけだから、そりゃ世の自動車評論家たちが「バーゲンプライス」というのも納得だ。ライバルとなりそうなVWシロッコRなどは軒並み500万円クラスなのだから。

 

PHOTO &TEXT/Morita Eiichi

 

 

 

2012y RENAULT Megane RENAULT Sport 2.0T

全長×全幅×全高/4320mm×1850mm×1435mm
ホイールベース/2640mm
車両重量/1430kg
エンジン/直列4気筒DOHC 16バルブ
排気量/1998cc
最大出力/184kW(250PS)/5500rpm
最大トルク/340Nm(34.7kgm)/3000rpm

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