CITROEN C4 Cactus

クルマのフロントフェイスは、人の顔を模していると言われる。いや、意図的に模しているのではなく、必然的にそうなったのだろう。2つの目、1つの鼻、1つの口の3種類が盛り込まれていて、その中でも特段「目」は重要でパーツである。クルマの顔を見たとき、どことなく人間の顔を想起させ、人は心理的に安心感を抱くのだろう。しかし、近年、その盤石と思われたフォーマットを崩しにかかるデザイン的な挑戦があった。目が4つあるのだ。人はその4つ目に対峙したとき、かなりの迷いを感じる。4つのうち、配置や大きさなどによって2つを正規の目として認識しようとする。「どっちが目なんだ?」その迷いは不安感を呼び起こし、やがて排除する方向へ進む……はずだった。

上下に分割されたライト(下がメインで上がデイライト)とサイドの「エアバンプ」が特徴的。ちなみにこのエアバンプ、C3ではドアのボトム部分に配置されているので、ドアパンチには有効ではないかもしれない元祖はムルティプラ!?

C4カクタスが初めて姿を現したのは、2014年初のジュネーブショーだった。「The car that answers today’s questions.」というコピーとともに登場したクルマは、シトロエンらしく特異なデザインをしていた。これがいまのシトロエンが出した、いまの時代にふさわしいデザインのクルマなのだろう。

C4カクタスを見た瞬間、シトロエンらしいなとは思ったが、それほどの驚きはなかった。ポジションランプ(もしくはデイライト)とヘッドライトを分割させる手法は、2010年にフランスで発表された日産「ジューク」が先にやっている……と思ったが、すずきさんから待ったが入った。「いや、ムルティプラでしょう」。そうか。フィアット・ムルティプラ(1998年)は、ハイビーム用ヘッドランプとロービーム用ヘッドランプを分割させて配置したが、まさしくこの手のデザインフォーマットのハシリに違いない。このときムルティプラは「世界でもっと醜いクルマ」などと揶揄されたが、それから約10年が経ってジュークは比較的すんなりと大衆に受け入れられたような気がする(もちろんヘッドライトの配置だけの問題ではないが)。

ピラーをブラックアウトさせることで、ルーフが浮いているように見せている。ルーフレールも特徴的な形状だその後、この手のクルマが各社から発売されたこともあり、C4カクタスがデビューしたときにはもう見慣れ「ああ、そっち系ね」と思ったものだ。しかし、デザインでは驚かなかったものの、別の部分でかなり驚いた。それは車重だ。本国のベースグレードの表示は965kg。現代において、このクラスのクルマが1tを切るなんて。どんなマジックを使ったんだろうと思ったほどだ。

 

 

 

内装のデザインも独特で質感も高い。インストルメントパネルのアッパー部が低く抑えられているので、視界が広く感じる。助手席エアバッグは天井に備えられているユーザーフレンドリー?

C4カクタスは「C4」という名がついていながらも、プラットフォームはC3と共通のPF1を使っている。だからC4の派生車種というよりは、別物のクルマと思った方が良さそうだ。

その特徴はやはりデザインだろう。先述のヘッドライトに加え、ボディサイドの衝撃吸収パネル「エアバンプ」もなかなかユニークだ。ユーザーから「ショッピングセンターの駐車場に停めておいたら、隣のクルマからドアパンチ食らって傷ついた。こういうの、何とかならないの?」というニーズに対し「じゃあ、当たっても傷つかないようにしましょう」とこんな思い切った策を出してくるのは、他メーカーではなかなかできることではない。そして、このエアバンプをビジュアル的にうまく収めているところが、さすがシトロエン。まぁ、そもそも「こんなの必要?」と言われれば元も子もないが、こういうおもしろいことをしてくれるメーカーがいないとクルマもつまらない。

 

座面が低い上、座るとかなり沈み込むシート。現代のクルマのシートは硬めで張りのあるものが多いが、それとは真逆を行く仕様だ座面が低い。

インテリアもなかなか独創的だ。まずシートに座って驚いたのが、座面がかなり低いこと。ジャンルはクロスオーバーSUVなのだろうけど、乗車感覚はまったくもって普通の乗用車だ。視点が高いなんてもんじゃない。むしろ低い。その低さはシートの沈み込みもあると思う。最近のクルマのシートはどちらかというと硬めでパンと張った感じのものが多いが、これは軟らかく、しっかりと沈む。ファブリックのソファと言ってもいい。

後席も前席同様のシートでソファに座っているような印象。後席の窓は上下動しないチルトタイプその座面の低さにともなってインストルメントパネルのアッパー部もかなり低く抑えられている。中央部にはデジタルディスプレイが設置されているが、その上辺はアッパー部よりも下に収まっている。そのため、前方を見るために右から左に視線を動かしても遮られるものがなく、非常に良好な視界をキープできている。

インテリア各部の質感もいい。助手席のグローブボックスやドアグリップなどはかなり凝っていると思うし、こういう部分がユーザーの所有欲をくすぐるのではないだろうか。

 

 

当該車はガラスルーフになっていた。おそらくオプションではないかと思われる左ハンドル、ディーゼル。

2016年、日本では限定200台の販売だったが、すぐに売り切れたそうだ。日本仕様は1.2L直列3気筒DOHCエンジンにシングルクラッチであるETG(エフィシェント・トロニック・ギヤボックス)の組合せのみ。一方、当該車は左ハンドルのETG、1.6Lのディーゼルターボエンジンである。ETGは2ペダルMTのことで、センソドライブの進化版に位置づけられる。マニュアルトランスミッションをベースにしており、人間がクラッチを切ったりつなげたりするのを、アクチュエーターが代わりにやってくれるもの。このコーナーではRMT(ロボタイズド・マニュアル・トランスミッション)などと呼んでいる。

「エアバンプ」は、熱可塑性ポリウレタン樹脂製で、絶妙な軟らかさ。ユニークなアイデアだが耐久性が気になるこのメカニズム、機械がクラッチを切ったりつないだりするときに独特のショックと間があるので嫌いという人もいるが、私はそれほど気にならない。いやむしろ好きなほうで、機械がクラッチを切ったりつなげたりするタイミングを感じるのがおもしろいのである。

このC4カクタスに搭載されるETGは、センソドライブのときよりもだいぶ進化していて、クラッチ操作やタイミングがより洗練されている。半クラッチもかなり丁寧だと思う。時代はツインクラッチ全盛だが、シングルクラッチでもこのレベルにまで到達していれば文句はない。

 

ラゲッジの荷室容量は358~1170リッター(VDA方式)。シートバックは分割可倒式ではなく、一体可倒式。じつはこれで-6kgの減量を実現しているというハイドロニューマチックを再現か

エンジンはディーゼルターボ。車外からエンジン音を聞くと、ディーゼル特有のカラカラ音がするが、車内に入ってしまえば、その音も気にならないレベル。振動も同様だ。エンジンの特性はディーゼルらしく低回転域でのトルクが太い。最大トルクをわずか1750rpmで発生させているので実用性は高いが、反面、高回転域まで回しても(いや、そもそも回りたがらないのでやらないが)平坦でおもしろみはない。乗っていて、以前紹介したC4 1.6HDi FAPのときにシフト操作が単なる作業のように感じてしまったのを思い出した。あのときは2速発進して、3速もしくは4速に入れておけば、街中ではたいてい事足りた。これじゃあ、MTである意味がない! だから、ディーゼルエンジンは2ペダルで乗るに限ると言いたい。MT+ガソリンエンジン車のように、上まで回してシフトアップさせる快感がないので、そういう部分は早々に切り捨てて、トルクにモノを言わせる安楽な走り方を楽しんだほうがいい。C4カクタスのキャラクターからしても、MTでキビキビとスポーティに、なんて柄じゃないだろう。自動変速で適切な回転数を機械が判断してやってくれるなら、太いトルクを活かして快適に走れるほうがいい。このクルマはキャラクターからもETG+ディーゼルエンジンが合っているエンジンは1560ccの直列4気筒SOHC 8バルブ ディーゼルターボ。最高出力は68kW(92PS)/4000rpm、最大トルクは230Nm(23.5kgm)/1750rpm。ヘッドの上に設置された遮音・遮熱材は、もうちょっと何とかならないものかと思う。まぁ、いちおうパドルスイッチはあるので、それで任意の変速はできるようになっているので、どうしてもシフト操作したい方はこれを使うのをおすすめする。

特別、飛ばすわけでもなく、ゆっくりと走っていると独特の乗り心地を感じられるようになる。サスペンションは初期の当たりは「コツン」と硬いが、その後の動きがとてもゆったりしてソフトなのだ。そうだ。そういえば車重。このクルマ、先ほどのベースグレードの965kgほどではないが、1055kgとそれでも軽い部類である(ただ当該車はガラスサンルーフ付きなので、実際の数値よりももう少し重いはず)。なのに、走っていても軽さを感じないのだ。ただそれは鈍重というネガな意味ではなく、やはり「ゆったりとしている」と表現するのが適切だろう。

ハイドロニューマチックとまでは言わないにしろ、この乗り心地は現代のシトロエンならではであり、根底にはハイドロのテイストに近づけようという想いが流れているのかもしれない。

 

タイヤサイズは205/50 R17この顔がシトロエンのファミリーフェイスとなる

現代のシトロエンに乗ったのは、本当に久しぶりだ。このコーナーで乗ったシトロエンでもっとも新しいモデルはC4のディーゼルだろうから、それ以来か。多くのカーメーカーがコモディティ化していくなか、今回乗ってみてシトロエンはユニークさを失っていないと感じた。もちろんハイドロを知っている方にとって、その刺激は弱いかもしれない。しかし、このご時世にやはりハイドロを復活させるのは難しいだろうし、それでもシトロエンはバネで何とかその味を再現できないかと努力しているのだろう。

デザインにしても、このフォーマットが受け入れられて良かったと思う。個人的には日本市場でよくこの特異なデザインが評価されたなと、いまでも感じる。ジュークやトゥインゴ2 ph2といった先人たちが、この方向性で日本人たちの目を適度に慣らしていたからこそ、成功できたのかもしれない。

この手のデザイン手法を用いたシトロエン初のモデルは、C4ピカソだったと思う。それに続いて、このC4カクタスが誕生し、ついにC3もこれ系の顔になった。その後、C5エアクロス、C3エアクロス、ベルランゴと続けてこのフォーマットで出しているところを見ると、今後のシトロエンはこの顔がファミリーフェイスになっていくのだろうか。次期C4は? C5やC6のセダンもこの顔になっていくのか? 今後のデザイン戦略の方向性が気になる。PSAグループは世界的に見ても日本市場を見ても、高い成長率を誇っているから、この先もきっと斬新なデザインをまとった新型車が生まれてくるだろう。
ただ、意地悪な見方をすれば、シトロエンをはじめとしたPSAグループは、このデザインしか頼るものがなくなってしまったのではないか、とも思う。ガソリンエンジンはBMWから供給されて久しいし、カーメーカーではなくどこか”商社”的な印象を受ける。これも現代を生き抜くカーメーカーの苦肉の策……なのかもしれないが。

 

 

PHOTO &TEXT/Morita Eiichi

 

 

2014y CITROEN C4 Cactus 1.6 BlueHDi 100 Shine Edition Moonlight

全長×全幅×全高/4157mm×1729mm×1530mm
ホイールベース/2595mm
車両重量/1055kg
エンジン/直列4気筒SOHC 8バルブ ディーゼルターボ
排気量/1560cc
最大出力/68kW(92PS)/4000rpm
最大トルク/230Nm(23.5kgm)/1750rpm

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