Renault Clio 1.5 dCi 90

ガソリンエンジンと同じく、クルマに搭載されるディーゼルエンジンもやがて消えゆく運命にある。そもそもディーゼルエンジンが悪者に仕立て上げてしまったのは、2015年のVWによるディーゼルゲート事件だと個人的に思っている。日本のハイブリッドエンジンに勝てないと考えたEU諸国のカーメーカーは、ディーゼルエンジンに活路を見出したはずなのに、自らの首を絞めてしまった。苦境に追い込まれ、その代替策としてEVを表舞台に上げた結果、ガソリンエンジンまでも巻き添えを食ってしまった。偏見に満ちたストーリーかもしれないが、ガソリン、ディーゼルともに内燃機関に乗れる時間はもう限られている。

ディーゼルエンジン車への想い

振り返ってみれば、ヴィブルミノリテでディーゼルエンジン搭載車を紹介したのは、過去に一度しかない。それはシトロエンC4 1.6HDiで、当時の僕としては、ちゃんとしたディーゼルの乗用車に乗った初めての経験だった。ただ、あのディーゼルのカラカラ音、回転の重いエンジン、高回転まで回らないつまらなさなどが、僕の好みに合わなかった。裏を返せば、低回転域でトルクが出るから、運転が楽、燃費がいいばかりか、軽油を燃料としているのでランニングコストもかからないといった面が気に入れば、ガソリンエンジン車よりもディーゼルエンジン車を選んだほうが幸せだと思った。これは完全に好みの問題であって、C4の出来が悪いわけでもディーゼルエンジンが悪いわけでもない。
だから今回、クリオのディーゼルが来ると聞いて、ネガティブな気持ちとポジティブな気持ちが半々だった。ネガティブな気持ちは、やっぱりディーゼルエンジンの特性は変わることがないだろうという予想。そのメカニズムから高回転まで回らないのは明白だし、僕の好みもあのころと変わっていない。楽で経済的なクルマを求めているわけではないので、ディーゼルの特性は僕にとって完全にミスマッチなのだ。ポジティブな気持ちは、ディーゼルエンジン車を1台しか乗っていないということ。たった一度、C4に乗っただけで分かったような口を利くな。ディーゼルといってもいろいろな個性がある。制御技術が発展している現代。2006年式のC4からどれだけ年月が経っていると思ってるんだ! という想い。さぁ、楽しみだ。

 

ディーゼルはベーシックが似合う

当該車はクリオ4 1.5のディーゼルターボで5速マニュアル。見た目は普通のクリオ4だ。リアゲートにある「dCi」のエンブレムでディーゼルだと分かるくらい。グレードははっきりとは分からないが「ZEN」かそれ以下のようで、ベーシックなグレードであることは間違いない。ステアリングはウレタンそのままだし、リアのウィンドウが手巻きというのも、いまどき珍しい。
エンジンはECUのセッティングの違いで75馬力と90馬力の2種類が存在するが、当該車は90馬力仕様である。
車内に乗り込むと、ベーシックグレードらしい簡素のインテリアが迎えてくれる。しかし、安っぽい印象は感じなかった。いや、安っぽいというのは正しくない。日常の足としてガンガン乗り倒すディーゼル車に、そもそも豪華な内装は似合わないように思う。個人的にはこういったベーシックなグレードのほうがクルマの素性、特性にあった正しい内装の在り方のように感じた。とはいえ、豪華な内装はそれはそれで魅力があるのだろうけど。
エンジンをかけると、やっぱりあのカラカラ音は健在だった。まぁ、機構的にこういうものだから、と走り出してしばらくすると「ん……、ちょっと待てよ」と違和感。C4のディーゼルとはぜんぜん違うじゃないか。
低速域のトルクが太いのは同様だが、エンジンの回りが軽い。これは……と思ってちょっと踏んでみると、スムーズに上まで回っていく。思わず「おお……」と声が出てしまった。もちろん、ガソリン車とは比較にならないが、レッドゾーン近くの45000rpmまで淀みない。「あれ、ディーゼルってこんなに気持ちよく回るもんなんだ」と思い、その後も積極的にアクセルを踏んでいった。しかも停車中はアイドリングストップのおかげで、あのカラカラ音も聞こえてこない。もしかして、これはアリなのではないか?

高速巡行はディーゼルの主戦場か

今回、クリオのディーゼルで試したいことがあった。前回、C4では街中のみの走行だったので、今回は何としても高速巡行をしてみたかったのだ。本来は次の日の撮影と同時にするつもりだったが、このまま走りたいと思い「名古屋第二環状自動車道(通称:名二環)」に乗ることにした。
夜の名二環は空いていた。ある程度加速して5速に入れると制限速度の60km/hではエンジンの音も聞こえてこないし、振動も極小。計算すると100km/hではちょうど2000rpmを指すことになるから、最大トルクを発生する1750rpmより少し上回ったところか。
追い越しするときにアクセルを踏み込んでも、1000rpm前後なのにノッキングすることはない。5速のまま力強く加速していくので、安楽だし、先ほども述べたとおり、その回り方がスムーズで気持ちがいい。あと気が付いたのは、シートである。他のクリオ4よりも少しやわらかいように感じるのは気のせいか。おそらく簡素な素材でカバーリングされているため、凝ったファブリックやレザーよりもダイレクトにウレタンの感覚が伝わってくるのではないかと思った。
上社JCTから名古屋南JCTの区間に入り、伊勢湾岸道へ。ここでちょっと気になったのは、NV(ノイズ&バイブレーション)である。エンジン音はうまく抑えられているのだが、段差を超えるときに足回りからの音がそれなりに入ってくる。ベーシックなグレードだから防音材が多少省かれているのかもしれない。いや、当該車は10万キロ以上の距離を重ねてきているから、各部の消耗によるものかもしれない。

予想を覆すルノーのディーゼルエンジン

新たに開通した新規区間(飛島JCT~名古屋西JCT)は通らず、飛島ICで下車し、後は一般道を走った。ギアを変えながら、いろいろな回転域から加減速を繰り返してみると、やはりディーゼルエンジンというのは、ストップ&ゴーを繰り返す環境よりも、一定数回転がある状態(2000rpm以上)で走り続けることを得意とすること。その回転数からであれば、それなりに鋭く加速してくれることが分かった。シャシーの剛性感により、足回りはやわらかめであってもしっかりとしたコシを感じるし、若干、ダルなハンドリングもルノーの伝統だ。この余裕は長距離を乗れば乗るほど、その良さを体感できると思う。
乗る前のネガティブな気持ちとポジティブな気持ちは、乗った後は完全にポジティブな気持ちが勝ってしまった。正直、頭の中では「ディーゼルはやっぱり僕の好みに合わない」というしめくくりを考えていたのだが、このクルマに対しては「好みに合わない」と断定するほどではまったくなかった。もちろん、ガソリン車と比較したら、いまだガソリン車を選ぶと思う。しかし、ディーゼルがまったくダメかと言われたら、そうではないと断言できる。
以前は100歩譲って、もしディーゼルに乗るならATでいいと思っていた。それは上まで引っ張る気持ちよさがないなら、いっそのこと安楽方面に振ってしまったほうがいいという考え方からだ。でも、このディーゼルエンジンならMTで走る価値があると感じた。たとえレッドゾーンが45000rpmという低い設定であっても、それなりに高回転域の高揚感があるからだ。
僕は考え直した。たとえ10000rpm回るエンジンであっても、そこに至るまでの回り方(フィーリング)が悪ければ、まったく意味がないということ。裏を返せば、5000rpmくらいまでしか回らないエンジンでも、スムーズに回転が上昇していくエンジンであれば、それなりに満足ができると言える。この1.5 dCiは間違いなく後者だ。
ただ、今回のような積極的にアクセルを踏んでいく乗り方は、燃費悪化を引き起こす。「ディーゼルだから、踏んでも燃費いいだろう」という考え方は持たない方がいい。ちなみに高速道路と一般道(8:2の割合)で約100km走ったが、燃費は11.6km/L(満タン法)だった。

ガソリンか、ディーゼルか

2021年になり、今後の内燃機関の行く末を心配する時代になった。おそらくこのコーナーを愛読いただいている方は、エンジンが大好きな方たちだろう。エンジンの音、振動、におい。それは人間と同じ「生物」の感覚をエンジンに抱いているからではないだろうか。そう考えると、内燃機関が駆逐される兆しが見え始めた時点で、ガソリンかディーゼルか、なんて論争は些細な話だとも言える。たとえ燃料は違っても、化石燃料を気化・爆発させて駆動力を得るこの愛おしいエンジンを楽しめるのは、残りわずかである。僕はこのディーゼルエンジン車に乗って、クルマ云々を語る視点が一段上に上がったような気がした。

 

 

TEXT & PHOTO/Morita Eiichi

 

2014y Renault Clio4 1.5 dCi 90

全長×全幅×全高/4061mm×1729mm×1447mm
ホイールベース/2588mm
車両重量/1420kg
エンジン/直列4気筒SOHC 8バルブ ディーゼルターボ
排気量/1461cc
最大出力/90PS(66kW)/4000rpm
最大トルク/220N・m(22.4kgm)/1750rpm

 

 

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