RENAULT Twingo RENAULT Sport 1.6 16V phase2

トゥインゴ2のR.S.、ことさらフェーズ2においては、個人的に“悲劇のヒロイン”だと思っている。ホットハッチとしてすばらしい性能とエモーショナルなワクワク感を持っていながらも、あまり注目されず、それほど売れなかったクルマ。出てくる時代が悪かったのか。それともトゥインゴにスポーティなイメージを背負わせるのに無理があったのか。しかし、すばらしいクルマという事実は、発売後7年経っても色あせることはない。いや、むしろいま、フランス車界隈を見渡しても、ホットハッチと言えるクルマはないじゃないか。だからこそ、注目してほしい。この美しいクルマを。

フェーズ1と比べて大きく印象を変えたフロントフェイス。バンパー下部のあしらいはルーテシア3 R.S.をイメージさせる。色はこのジョンシリウスメタリックのみフェーズ2はR.S.のみ

1992年にパリモーターショーでお披露目されたトゥインゴ。初代はほとんどデザインを変更することなく2007年まで生産された。2代目になるとルーテシア2のフロアをベースに大きく姿を変えて登場。ベーシックカーとしての顔に加え、ルノースポール仕様もラインナップされ、走りのイメージもつくりあげた。さらに3代目になると、RRというコンパクトカーでは稀有なレイアウトを持って誕生し、クルマ好きを喜ばせてくれた。中でも「GT」はルノースポールがチューニングを担当。車名に「R.S.」と記載されることはなかったが、走りのイメージは3代目になっても踏襲されている。

このようにトゥインゴはルノーのベースを支えながらも、時代に合わせてフレキシブルに変化させてきたのが特徴だ。このコーナーでもトゥインゴは過去、ほぼすべてのモデル(限定車とかそういうのは除く)を網羅してきたと思う。

今回紹介するのは、2代目のトゥインゴで設定されたR.S.のフェーズ2(後期型)である。ただ、このモデル、ちょっと変わっている。日本においては2012年に「ルノースポール・ゴルディーニ」としてR.S.モデルが導入されたのが最初。フェーズ1の最後のほうにも「ゴルディーニ(シャシースポール)」があったので、それのフェーズ2版としての流れは自然なのだけど、フェーズ1にあった1.2L NA1.2L ターボのような“非R.S.”は日本では売っていない(もちろん本国にはあった)。つまり、トゥインゴ2のフェーズ2はR.S.のみなのだ。

リアはフェーズ1のイメージを引き継ぐ。しかし、スポイラー、バンパー、ハッチ部分が少しずつ変わっているので、それなりのコストと時間をかけているのが分かる同年の後半「ルノースポール・レッドブルレーシングRB7(シャシースポール)」を限定車として発売。そして2013年になり、シャシーカップの「ルノースポール・カップ」が登場。それがまさしく当該車である。ジョンシリウスメタリックは特別色で、メガーヌR.S.にも採用されているが、この塗装だけで15万円。しかし、価格は235万円とゴルディーニよりも安く設定している。この価格、調べてみると2001年製のプジョー106 S16と同じであることに驚いた。現地では通常のカタログモデルだと思われるが、日本においては限定車扱いで、30台しか発売されなかったそうだ。

限定車といえば、これは余談だが「限定車商法」というのがある(勝手に名付けた)。最近ではプジョー・シトロエン・ジャポンが限定でベルランゴを輸入し、その反応を見て正規で取るかどうかを判断しているが、ルノージャポンにおいてはそれを「限定車」という形で売るというやり方が以前から常態化している。FCAジャパンも同じかもしれないが、そのせいで通常モデルの拡販につながっていないのでは? 限定車商法なのでは? と言われたりしているのも事実だ。とはいえ、それが一定の成功を収めているところを見ると、日本人は「限定車なら買う」という体質に目を付けた賢い商法なのかもしれない。

 

この顔!

当該車、ポップな色のイエローだが、ちょっとパールぽいメタリックが入っていて、高級感がある。しかし、この顔。顔だけ切り取ってみるとフェーズ1とは大きく変わっていて、同じクルマとは思えない。そしてこの好き嫌いが分かれるデザインフォーマット。シトロエンC4カクタスの回でその話はくどいくらい書いたが、ジュークっぽい雰囲気はこれが出たとき「まさかルノーもそっち方向に!?」と思ったものだ。ただ、その予想は裏切られ、このフォーマットが他車に伝染することはなかった。トゥインゴ3にそのテイストは薄く反映されたが、フェーズ2になってそれも消滅した。

インストルメントパネルはフェーズ1同様。ステアリングのホワイトがいいアクセントになっているさて、実際に乗ってみる。目の前に広がる光景はフェーズ1と大きく変更されている点はない。ただステアリングやシートの一部が白の合成皮革になっていたり、イエローのステッチが施してあったり、ヘッドレストに「R.S.」のロゴが配されていたりと全体的に上質感が増した雰囲気。前回のフェーズ1も左ハンドルでシャシーカップだったので、正直言って印象はそんなに変わらない。メーカーからも、フェーズ2になって何か機能的に変更や追加があったことはアナウンスされていないから、エンジンとか足回りとか、そういう部分は変わっていないのだろう。

 

欠点が見当たらない。

今回の試乗ステージは、街中、ちょっとワインディングっぽいところ、それなりに高速走行ができる場所の3つ。まずは街中から行ってみよう。

シートにもホワイトがあしらわれ、ちょっと上質な雰囲気に。相変わらずシートバックのサイドサポートが強めだシャシースポールとシャシーカップの違いは、鈍感な私でも乗ってすぐわかるくらい明確だ。個人的にはシャシースポールのほうがルノーらしさを残しているので好きなのだが、このクルマのキャラクターを考えれば、カップのほうが楽しく走れるのかもしれない。中低速が中心の街中では、さすがに硬く、195/40R17の薄いタイヤからはゴツゴツした感触を伝えてくる。ただ、心なしかフェーズ2のほうが上質に感じる。いや、これはフェーズ1のときがほぼ終わってるタイヤを履いていたせいかもしれない。このクルマはヨコハマのSドライブの後継「アドバン・フレバ」の比較的新しめなタイヤを履いていた。

街中を抜けてちょっとしたワインディングに入る。そうなると「ここが自分のステージだ!」と言わんばかりに生き生きしだす。レスポンスのいいハンドリングは、ちょっとフロントに荷重をかけてやるだけで、鼻先をクッと変えて曲がっていくし、エンジンはちょっとガサツに、それでもパワフルに回っていく。いやー、それにしても「K4M」は名機だ。もちろん、このエンジンをベースにルノースポールがいろいろ手を加えているのだけど、ワイルドな雰囲気を残しながら、エモーショナルさが際立っている。上まで回せば回すほど、ドライバーをワクワクさせるエンジン。やっぱNAはいいなぁ、とあらためて思わされた。1.6L NAで136psは特別際立ったスペックではないが、絶対的な速さよりも加速感、そしてエンジンが回るフィーリングに重きを置く人には気に入ってもらえると思う。

リアシートのヘッドレストにもホワイト。フェーズ1はシートベルトが赤色だったが、フェーズ2ではブラックになっているあと、再確認したのがサスペンションの良さ。走った場所は左右の細かいコーナーに加え、路面があまり良くなかったので、上下の動きも強いられる場所だったのだが、うねっていたり、バンピーな部分でも、タイヤを路面から離すことがほとんどなかった。硬い脚はともすれば、ちょっとした段差でハネてしまってトラクションが抜けてしまうようなシーンに遭遇する。しかし、このクルマはしっかりと路面に追従し、トラクションをかけ続けるのだ。縮む側よりも伸び側のセッティングが合っていたのか。ESPの影響もそう感じるひとつの理由としてあったかもしれない。

ワインディングからちょっとした高速走行ができるステージへ。こういう場所に来ると、街中では硬いと思っていた足回りが安心感に変わる。路面に吸い付くような感覚とはよく言われるが、まさにそんな感じ。このスタビリティは少しずつテイストが変わっているものの、ルノーが昔から得意としてきた性能である。

そういえば、トゥインゴは初代から「グランツ―リスモ」であった。あの初代が? あんなルックスだから、お買い物クルマじゃないの? なんて思っている人は、認識をあらためたほうがいい。たとえ1L前後の小さなエンジンであっても、長距離も得意とする性格。それはしっかりと2代目にも受け継がれている。ワインディングでの性能とロングドライブの性能は背反しそうだが、トゥインゴR.S.はこの小さな車体でうまく両立していると思う。

 

リアシートがスライドするのは、トゥインゴの個性。2脚とも取り外すこともできるHOT HATCH is Dead !?

トゥインゴR.S.は走るのが好きな人すべてにおすすめしたい。ぜひ実際に乗って、その魅力を感じてほしいと思う。たとえば、普段は家族を乗せるために大きなクルマを使っているけど、一人になれる時間はこのトゥインゴR.S.で。早朝、家族がまだ寝ているときにコイツを連れ出して、ワインディングを楽しんだ後、見晴らしのいい峠でコーヒーを淹れる……なんてことをイメージしてしまう。

でも、やっぱりホットハッチなので、若い人に乗ってもらいたい。新車時の価格は235万円。中古市場では100万円を切る価格で売られている。

ホットハッチとは何か? 人によってさまざまな定義があると思うけど、ヴィブルミノリテ的には、

  1.  3ドア
  2.  扱いやすい5ナンバーサイズ
  3.  元気なエンジン
  4.  せいぜい250万円くらいまでの価格

エンジンはK4MをチューニングしたK4M-RSという型式名が与えられる。高回転まで回したくなる官能的なフィーリングが特徴という感じではないか。そう考えるとトゥインゴR.S.のフェーズ2は、現状で「フランス車最後のホットハッチ」と言えるのかもしれない。そう考えると、もっと売れても良かったのにな、と思う。でも、これは単純にクルマのせいではなく、世の中の流れなのだろう。1990年代半ばから2000年にかけて、プジョー106やルーテシアRSはけっこう売れたのだから。じゃあ、そういうクルマの乗り換え組がコレを選んだかといえばそうでもないようで。単純に趣味の方向性が変わったのか。それとも他に訳があるのか。理由はよくわからないけど、もしただの食わず嫌いで候補に入れていないのだとしたらもったいない。純然たるホットハッチが手に入りにくい時代なのだから。

 

タイヤサイズは195/40R17。トゥインゴR.S.にはオーバースペックな感じもするが、秀逸なサスペンションでこのタイヤサイズを使いこなしているその短命の理由は?

話の前半で「このモデル、ちょっと変わっている」と書いたが、ちょっと変わっているのは、その終わり方にもある。というのも、2012年に登場してゴルディーニ、レッドブル、そしてこのカップを出した後、2014年にトゥインゴ3にモデルチェンジしてしまったからだ。あまりにも短命で残念だと思うとともに、なぜそんなことになってしまったのかも気になる。

この不自然な終わり方、トゥインゴ3の発売が何かしらの原因で早まってしまったのではないかと推測する。通常、クルマの開発は2、3年かかるので、トゥインゴ3にモデルチェンジすることはこのクルマが出る時点で分かっていたはずだ。でも、何かしらの理由でその時期が早まり、わずか2年という短命に終わってしまったのではないかと。でなければ、わざわざコストをかけてフェーズ2にマイナーチェンジしないだろう。トゥインゴ3の開発にはメルセデスも関係しているから、ルノー独自の判断で決められないことも影響していたかもしれない。そういう意味では、フランス車最後のホットハッチは、希少なホットハッチでもある、と言えそうだ。

 

 

 

TEXT & PHOTO/MORITA EIICHI

 

 

2013y RENAULT Twingo RENAULT Sport 1.6 16V(phase2)

全長×全幅×全高/3700mm×1690mm×1460mm
ホイールベース/2365mm
車両重量/1090kg
エンジン/直列4気筒DOHC 16バルブ
排気量/1598cc
最大出力/98kW(134PS)/6750rpm
最大トルク/160Nm(16.3kgm)/4400rpm

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