DACIA Sandero Stepway Plus

新型サンデロに乗ってその豹変ぶりに驚いた。フィアットパンダ2がパンダ3になったときのように、ここまで変わるものかと思った。ダシアはルノーのセカンドブランド、ローコストカーメーカー、東欧の得体の知れないメーカー……そんなイメージはもう古いようだ。

 

 

 

驚くべき進化

ダシアのサンデロがモデルチェンジして新しくなった。初代サンデロは2008年に登場し、同社のロガンと同じプラットフォームを使って開発された。5ドアハッチバックでいかにも大衆車といった風情なのだが、同年10月になるとクロスオーバーSUVを意識した「ステップウェイ」が登場。ルーフレールやクラッディングが付き、トレンドを押さえたデザインになった。そして2012年になり、2代目に移行したが、キープコンセプトでデザイン的にも機関的には大きな特長はなかった。しかし、2020年にフルモデルチェンジした3代目を写真で見て驚かされた。そのデザインは、とても「ローコストカー」をつくっているメーカーとは思えなかったからだ。
洗練されたデザインだけでなく、見るからに質の高そうな雰囲気が伝わってくるこの新型サンデロ。先代クリオ/ルーテシアと同じCMF-Bプラットフォームを採用し、エンジンは1.0リットルの3気筒エンジンを搭載した「SCe 65」、そのエンジンをターボで過給し、6速マニュアルもしくはCVTを装備した「TCe 90」、LPGとガソリンの2種類を燃料とするデュアルフューエルを搭載し、6速マニュアル変速機を装備した「ECO-G 100」の3種類を揃えている。
グレードは5種類。いちばん低いものから順に「アクセス」、「エッセンシャル」、「コンフォール」。で、別のラインとしてクロスオーバーの「ステップウェイ」、「ステップウェイプラス」が用意されている。アクセスの装備は、国産車の営業車以下の仕様(オプションですらエアコンを選べない)なので、省くとして現実的なのはエッセンシャルよりも上。エッセンシャルはオプションでエアコンを装備できるが、そうするとその上のコンフォールとの価格差が少なくなってしまうという悩ましい問題が発生する。廉価版は廉価なままにするのが筋であり、廉価なものにいろんなものを足していくと結果として廉価にならない。当たり前のことではあるが……。
今回紹介するのはステップウェイプラスなので、サンデロの中ではクロスオーバーの仕様である。では、その装備を具体的に見ていこう。ステップウェイでも「現代のクルマなんだから、これくらい付いててほしいよね」というそこそこの装備ではあるのだが、それに加えステップウェイプラスには

・オートパワーウィンドウ
・後席パワーウィンドウ
・オートエアコン
・オートワイパー
・8インチディスプレイ
・電動ドアミラー
・4スピーカー
・ドアパネルのプロテクション
・テレスコピックステアリング
・フォグランプ
・マップランプ
・リア12Vソケット
・ルーフバー

ところどころにオレンジを配したセンスのいいインテリアなどが装備される。さらに当該車はこれらの装備に加え、約30万円分のオプションが付いている。バックカメラやバックソナーなどを備える「パックシティ」に2重底のトランク(ラゲッジの写真参照。トノカバーを開けるとその下にさらにスペースを有する)、アルミホイール、オレンジメタリックの外装色、ハンズフリーキーシステムである。
快適装備や安全装備も現代的だ。上位グレードのダッシュボードには8インチのディスプレイが装備されており、ナビゲーション、メディア、Bluetoothに加えて、Apple CarPlayやAndroid Autoによるミラーリング機能を備えている。画面はダッシュボードの中央上部に配置され、ドライバーに向かってわずかに傾斜しているため、操作は簡単で使いやすい(ただ、スマートフォンホルダーの使い勝手は改善の余地あり)。
安全装備については、サンデロ全モデルに自動緊急ブレーキシステム(AEBS)を搭載。AEBSは、先行車との距離を識別し、衝突の危険性がある場合に音と映像で警告を発してくれる。もし、ドライバーが充分な減速を行わなかった場合は、自動でブレーキをかける仕組みだ。また、車線変更時に車両の前後にいる他の車両と衝突の危険性がある場合、警告を発する「ブラインド・スポット・ワーニング」も装備。車体周囲の4つのセンサーがドライバーの死角を監視し、他の車両を検知するとドアミラーのLEDが点滅するようになっている。さらにヒルスタートアシストやパークアシストなどの便利な機能も装備されている。ダシアというメーカーの立ち位置や200万円台のコンパクトカーであることを考えると、この内容は上出来だと言える。

 

座面調整やチルト/テレスコも装備もはやダシアは二流ブランドではない

当該車を目の前にすると、やはり写真で見たときと同様の質の高さを感じる。「まぁ、ルノーの弟分だから仕方ないよね」といった部分を見つけることができない。ところどころに「Y」をモチーフにした意匠が施されており、特にクルマを印象づけるヘッドライトは、LEDを使い、なかなか凝ったデザインだ。フロント部分に比べ、リアビューはちょっとおとなしい。冗談で「スズキのバレーノに似てる」と言われたが、確かに似ている。
運転席に乗り込むと、外観以上に好印象だった。ドアパネルは樹脂パネル1枚もので、ちょっと単調な気もしたが、ダッシュボードの造形、質感ともにまとまりのあるいいデザインだ。ドッケールでは、トゥインゴなどで使っていたドアレバーやスイッチ類などの部品流用も見られたが、サンデロではほとんど見つけられなかった。さらに驚いたのは、リアの居住性だ。試しに身長180cmのすずきさんと175cmの私が後席に座ってみたが、頭上はこぶし一個分ゆうに空いているし、膝前の空間もしっかり確保できている。いろんな部分を知れば知るほど、もはやダシアは二流ブランドではないことが分かる。私の印象では一流ブランドとまではいかないが、一流ブランドの下のあたりには付いた感じがする。
シートを前後・上下に調整し、テレスコでハンドルの位置を決めてから、電動パーキングブレーキを解除して走り出す。すると、今風な電動パワステの感触とは対照的に、足回りはどこかクラシカルな印象を持った。やわらかめなシートの感触も手伝って、しっかりストロークを感じられるソフトな乗り心地だ。まさかSUVを意識してのこのような味付けではないだろうが、個人的にはこの乗り心地は好きだ。しかし、乗り手によっては、足回りの質だけ違和感があると思うかもしれない。

 

90馬力で大丈夫?

エンジンはおそらく多くの人が抱くであろう「90馬力で大丈夫?」という不安を軽く払拭する。トゥインゴやキャプチャーなどに搭載されるこのエンジン、TCe90/100/115/120/130と過給機の味付けで5種類存在するが、末っ子のTCe90は非常に実用的で懐が深い。エンジン自体にすごく面白味があるとか、そういう感じではないのだが、アクセルを踏み込めば即時にトルクが立ち上がり、キビキビとした運転が楽しめる。私は最初、エコモードになっているのに気づかず、運転していて3000rpm以下に掻痒感があったが、90馬力だからこんなもんかと思っていた。しかし、エコモードを解除して運転してみると、その掻痒感は霧のように晴れ、爽快な加速を楽しむことができた。3気筒独特の振動もトゥインゴと同様、それほど気になることはない(車外からエンジン音を聴くとそれと分かるくらい)。停車時のアイドリングもほとんど気にならないし、基本的にアイドリングストップ機能でエンジンが止まってしまうので、問題はない。
フル乗員で荷物満載のときにどうなのかは分からないが、今回の試乗では90馬力のネガはまったく感じられなかった。トゥインゴよりもわずかに重い1171kgという車重も影響していたはずだ。サンデロステップウェイプラスと同様の外寸を持ついまどきのクルマを考えると、100kgくらいは軽いのではないか。その軽さが90馬力でも軽快感をもたらしているように思う。今回はなにせ新車なので、アクセルを踏むのをためらったが、思い切り踏んで走れば、あんがいスポーティな走りが楽しめるかもしれない。

 

2重底のトランクはオプション。収納力がさらにアップするサンデロ、その価格は?

このサンデロステップウェイプラス、車両本体価格が269万5000円。先述した約30万円分のオプションを装備しているので、総額は税込みで301万円。おそらくこの金額あたりがサンデロの最上だろう。ただ、これよりも下のグレードもあるので、装備などを落としていけば、220万円くらいから手に入る。もはや二流メーカーを脱したダシア。その希少性、質の高さ、左マニュアル6MT、現代的な装備、この辺りに刺さる人にはかなりおすすめではないだろうか。

 

オプションのアルミホイール。タイヤサイズは205/60 R16勝手な邪説!?

さて、ここからは長めの余談。サンデロを前にしてすずきさんと話をしていたとき、興味深い話を聞いた。通常、ヨーロッパ仕様の並行車を日本で走らせるためには、いろいろな作業が必要だが、その中でラジオの周波数帯合わせも行う。主にFMの受信帯域なのだが、欧州・北米ともおおむね近似の周波数帯を使用しているのに、なぜか日本では低い周波数帯を使用しており、そのままだと日本のFM放送を受信できないのだ(ワイドFMの周波数放送の一部は受信できる)。その作業を行っていたときにすずきさんは発見した。ラジオの設定に「日本」がすでに含まれていることを。なんと! しかも、FMワイドバンドで通常の並行車では入らないハイウェイラジオ(1620kHz)も受信できるという。この周波数帯域は日本で走る想定をしていなければ、わざわざパラメーターとして用意しないはずだ(ちなみに、ドッケールは日本向けのパラメーターは存在しなかった)。
「ということは……」と言いかけ、すずきさんはさらに燃費表示などのメーターの情報設定の中にも、仕向地として日本があったことを話してくれた。その設定は残念ながら途中でエラーが出てしまい、サンデロでは英語仕様にしているが、そうなるとますます、である。
つまり「ダシアのクルマを日本で売る計画があったのではないか」という仮説という名の邪説。もしそうだとしたら、たとえばルノー、日産、三菱のアライアンスの中でも最も可能性としてありそうなのは、三菱である。たとえば、ロガンをミラージュとして、サンデロをコルトとして三菱の販売網を活用し、日本国内に販売することも絵空事ではない。
企業再生を得意とするカルロス・ゴーン氏は、もしかしたらそんなことを考えていたのかもしれない。もし、あの事件がなければ「神の手! 日産に続き、三菱も再生」なんて見出しが新聞に踊る日が来たかもしれない。そしてダシアの名前もいまよりずっと浸透していたかもしれない。

輸入車では珍しく室内にフューエルリッドオープナーを備える Apple CarPlayやAndroid Autoによるミラーリング機能を装備 非常に質感の高いシフトノブ。トランスミッションはCVTも用意される

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

TEXT & PHOTO/Morita Eiichi

 

 

2021y DACIA Sandero TCe 90 Stepway Plus
全長×全幅×全高/4099mm×1784mm×1587mm
ホイールベース/2604mm
車両重量/1171kg
エンジン/直列3気筒DOHC 12バルブ ターボ
排気量/999cc
最大出力/67kW(91PS)/5000rpm
最大トルク/160Nm(17.3kgm)/2100rpm

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