【CROSS TALK】フランス大衆車の中古車を買うなら、いくらを基準に考えればいいのか?

2月にトゥインゴ3、3月にC2、4月にルーテシア3を紹介したが、今回はその3台の中古車を比べてみて、どうなのか? という話をしたいと思う。いちばん古いのはC2だが、走行距離は少なめで約5万km、いちばん新しいのはトゥインゴ3だが、走行距離は約8万km。ルーテシア3は新しさで言えば、2台の間だが、走行距離は9万5000km。三車三様を比較して見えてくるものは?

直近の3台を比較

 

Morita(以下、M):直近の3台について、それぞれ年式も走行距離もバラバラなんですが、この3台をあれこれ比較してみようというのが今回の主旨です。

Suzuki(以下、S):中古車って世間では年式と距離でだいたいの値段が決まるなんて言われてるけど、実際はまったくそうじゃないんだよね。距離が多いからダメってわけではなく、年式が新しいからいいってことでもない。それを証明するような3台が揃ったので、こんな企画を考えてみたわけ。

M:それぞれ紹介してください。

S:年式はいちばん新しいのが2016年のトゥインゴ3、いちばん古いのは2007年のC2なんだけど、距離で考えると2016年のトゥインゴはけっこう走ってて8万2000km、C2が約5万km。距離が少ないのがいいという話であれば、C2ってことになる。

M:そうですね。

S:ただ、走行距離が少ないといっても、年式は古いから値段は安くなる。一方、2016年のトゥインゴは距離は走ってるけど、年式が新しいのでそんなに安くはならない。

 

走行距離は短いけど、年式が古く、

異音のデパートなC2

 

M:C2を細かく見ていきましょう。

S:C2は特別人気のあるクルマじゃないけど、その中でもVTRじゃなくてVTSだから、これなら欲しい人がいるかもしれないね。前オーナーは屋根のある場所にクルマを保管していたし、ほとんど乗らなかったみたいなので、年式に割りに外装はそんなに傷んでいない。なのでパッと見きれいなんだよね。これだったらそのまま乗れるじゃんって。

M:後ろのエンブレムがないとか、細かいキズがあるとか、そういうのはあるけど、見る限りではこのまま乗れそうだと思いますよね。内装もきれいだし。

S:そう。さすがに5万kmだからなと思うわけ。だが!

M:だが!

S:5万kmしか乗ってないんだけど、その間、特に何もしていないんだよ。タイヤは換わっているけど、タイミングベルトやウォーターポンプは交換時期としてはまだちょっと早いから換えてないだろうな。でも、距離だけじゃなく経過年数からしたらゴムは確実に劣化してるので、本来なら換えておくべきだよね。みんな一度は換えていると思われるエアコンの内外気切り替えフラップのアクチュエーターも換わっていない。この年式ならクランクプーリーも換えておきたいところだけど、それもおそらく換えてない。

M:タイヤ換えただけって感じですね。

S:で、乗ってみるとクラッチがかなり減ってる。この時点でタイベル、ウォーターポンプ、クラッチ交換は必須で、ミッションを降ろすことになる。費用としては25万円くらいはいるかな。さらに走ってみると「異音のデパート」(笑)。

M:すごかったですね、この音は。

S:C2はよくショックが抜けるんだけど、リアのコトコト音はたぶんそれ。フロントのスタビのロッドからも音が出ている可能性がある。普通は何か問題があれば、順番に直していくんだけど、何もせずにここまで来ているので、原因を特定するのすら難しい状態。正直言ってどこから手を付けていいのか分からない。じゃあ、まずはショックを交換するかってなったとき、ビルシュタインの黒いのか、黄色いのか。全部換えると+20くらい。

M:全部で40万円くらいですね。

S:あ、そうそう。C2はカーステが謎の動きをするので、それもちょっと考えないといけない。

M:CD入ってないのに、一所懸命に読み込もうとしますもんね(笑)。

S:この年式のC2は珍しくパナソニックのデッキがついてるんだよね。

M:純正で?

S:そう。この頃のPSAって、純正のリモコンの配線の途中に各カーステメーカーに対応するモジュールを入れて信号を変換させてからデッキに突っ込んでる。だからC2にはパナソニック用のモジュールが付いてる。じゃあ、たとえばバイオニアのデッキに交換したとして、パイオニアとかに対応するモジュールがいま手に入るのかどうかわかんない。手に入らないとステアリングリモコンは使えないよね。だから、大人しくUSB/Bluetoothで聴けるようなデッキを買って交換したほうがいい。ステアリングリモコンが使えなくなるのは残念だけど、それを使えるように色々探究していくと、けっこうな時間とコストがかかるからね。まぁ、いまどきUSB/Bluetooth対応のデッキなんて安いのだと1万円代で買えるんだから。

M:むかしに比べて安くなってますよね。

S:ま、カーステの話は余談だけど、値段の話に戻して。うちらも商売だから利益もいるわけでいろいろ考慮した結果、売値は75万円という値段になってしまう。世間では不当に高いと言われるだろうけど。

M:うむ……。

S:でも、それくらいやれば「C2買いました」って胸張っていえるくらいにはなるよね。「けっこういいの買ったじゃん」って言ってもらえると思う。

M:そうですね。

S:でも、世間のクルマ屋さんはきっとC2でそんな値段になってしまうと、売れるわけないから止めるよってなっちゃう。でも、そこはなんせ僕なので。こういうクルマはとっておかないとなって。

M:現状でいいので欲しいって言われたら?

S:現状でいいよってことになると、30万円くらいかな。そうやって考えると、世間のクルマ屋で30万円で売ってるC2ってだいたいこういう状態に近いんだと思う。

M:でも、いくら30万円といっても、あの状態のをそのまま売るのはまずいですよね。

S:うん、あれはそのまま野に放ってはいけないクルマだと思うよ。2年前に車検を受けたときはどうだったのか分からないけど、もしいまと同じような状況だったとして、オーナーさんに車検通してって言われたら、とてもじゃないけど、そのままは無理ですよって言うな。

M:僕がすでに麻痺してるのかもしれないけど、そこまでやって75万円ってぜんぜん妥当な値段だと思いますけどね。

S:そうだね。そこにけっこう温度差があって、すでにこういう古いクルマを乗っている人は、これくらいの程度だったら、いろいろやってそのくらいの値段になっちゃうよねって言ってくれる。ちゃんとリフレッシュした状態で納めてくれるなら、ある意味お買い得だと考えてくれる人も多いんだよ。でも、年式だけで見て2007年? 走行距離は少ないかもしれないけど、15年も前のクルマが75万円って高くない? と判断する人もいるわけで。

M:そうかぁ。そうですよね。でも、僕は100万円以内で収まるのならぜんぜんいいけどなぁ。

S:そうだよね。100万円でおつりがくるんなら悪くないと思うんだけどね。

 

走行距離は8万kmを超えているけど、

新車かと思うくらい

きれいなトゥインゴ3

 

M:次はトゥインゴ3ですが、このクルマはすごかったですね。驚くべきコンディション。

S:これはうちのお客さんが今度買い換えるならトゥインゴ3がいいって言っていて。乗ってるクルマが車検切れてしまったので、不本意だけどオークションで探すしか手がないと。いいのが出てくるまで粘りましょうってことになって、結果3ヶ月くらい粘ったのかな。

M:よく待ちましたね。

S:そう、3ヶ月代車で過ごしてもらって。そんなに距離乗る人じゃないから、距離走ってるクルマでもいいよって話をしてて。ただ、トゥインゴ3がいま妙に高いんですよねって言ってるときにたまたまこのクルマが出てきた。距離は8万2000kmだけど、これなら予算内に収まりそうだし、評価書を見ると状態は良さそう。お客さんにも納得してもらって、モノを見たら、なんだこれは! ってくらいきれいで。

M:きっと几帳面な人が乗っていたんでしょうね。

S:そうだね。各部ちまちまといじってあるけど、そんなに変なことはしてないし、タイヤも安物のアジアンタイヤじゃなくてミシュラン履いてるし。乗ってみてもまったく問題なし。納車する前にひと通り点検してエンジンオイルとか交換して、EDCだからフルードも換えておいたほうがいいね。前のオーナーがもしかしたら一度も換えてないかもしれないしって、抜いたらぜんぜんきれいなのが出てきて(笑)。

M:換えなくてもよかったって感じですね(笑)。

S:花粉フィルターも点検したけど、これもぜんぜんきれい(笑)。これ、もしかしたら前回の車検で換えていたかもしれないねって。本当に何もしなくてもいいって状態のクルマだった。

M:そんなクルマ、めったにないですよね。

S:うん、僕のこれまでの経験で言うと、オークションで買ってきたクルマでこんな大当たりの個体っていままでないくらい。3年落ち以内のクルマならそんなにボロボロになることはないからいいんだけど、6年落ちでこの距離でしょ? それなのにこんなにきれいなのはいままでなかった。

M:ほんと大当たりですね。

S:僕の個人的な見解だけど、オークションっていらないクルマが売りに出てるところだと思ってる。だって、オークションにクルマを出品するのってクルマ屋さんかクルマ関係の企業。自分のところで売りたいってクルマは、わざわざオークションに出さないもんね。うちでも下取りでこんなのが来るよって、そういうクルマが好きなお客さんに話すと、いいクルマならだいたいそこで売れちゃう。重ね重ねだけど、オークションで買うクルマにまったく期待してない。絶対どこかに問題があるって疑ってる。

M:じゃあ、このトゥインゴは本当にレアケースですね。納車後も特に何も?

S:納めてからは、両面テープで貼ってあったバックカメラが取れましたって言われたくらいで(笑)。

M:これはいくらでしたっけ?

S:車体だけで115万円。全部で130万円くらいかな。

M:こうなると8万2000kmはまったくネガにならないですね。

S:まぁ、もしかしたら運悪く2回目の交換が来ちゃったとか、そういうのはあるかもしれない。でも、それは消耗品だからね。どんなクルマであろうと結局、換えなきゃいけないわけで。

 

距離も走っていて、

年式も新しくはないけど、

ひと通り手が入っていて

不安要素の少ないルーテシア3

 

M:ルーテシア3はいかがでしょう?

S:ルーテシア3は前のオーナーがタイベルやウォーターポンプ換えて、タイヤ換えて、あれこれやって乗り出したんだけど、気が変わって手放したんだよ。いま現在、内外装の瑕疵くらいで、ここが壊れているとかそういうのはない。強いて言えば、カーステがケンウッドのいいやつに換わっているんだけど、ステアリングリモコンに対応していないし、iPhoneにも対応していないっていう……。

M:それもまた珍しいですね(笑)。

S:あとフロントバンパーの角に擦り傷があるくらい。前のオーナーがそこまでやってくれたので、C2みたいに宿題が満載ってわけじゃないから、価値として認めてやらなければならないと思ってる。たとえ同じ年式の同じ走行距離のクルマであっても、やっていないクルマと同じ評価というわけにはいかないもんね。

M:その通りですね。

S:だから、それ相応の値段で取ったんだけどね。それはちゃんとやってくれた前のオーナーへの敬意だし、それが値段に反映されるべきであって。

M:良心ですよね。ルテ3、欲しいと言われたら?

S:売るとしたら75万円くらいにはなるかなぁ。

M:C2と同じくらいですね。僕、この2台ともすごく好きなんですよ。C2もルテ3もエンジンのフィーリングがすごくいい。C2はあれこれやって75万円でしょ? 走行距離も考えると救ってやりたい気持ちもある。ルーテシアはそれなりに距離乗ってるけど、前のオーナーがしっかり手をかけてる安心感がある。RSじゃない注目されないグレードだけど、乗ると楽しいですしね。

S:機関的な話をしてきたけど、塗装の状態も大事だよね。この3台を並べてみて、外装のきれいさを競うなら、やっぱりトゥインゴには敵わない。C2も経年劣化で傷んでいるところはあるけど、世間のC2のように塗装がガサガサになってるような感じではなく、年式の割にはきれいだと思う。でも、これが今後も続くとは限らないので、そのあたりは考慮しておく必要はあるね。

M:そうですね。塗装の状態に関しては保管状況にもよりますけど、やはり新しいものには敵わないですよね。

 

予算が130万円なら、

その範囲で買える中古車を探すのではなく、

新車も視野に入れてみる

 

S:ラジオとかで買い取り業者が「年式と走行距離を言ってもらえれば、だいたいの買取値段が分かります」っていってるけど、そうと限らないのはこの3台を見て分かると思う。

M:そうですね。ほんとに三車三様です。

S:売値だけの話をすれば、この3台はだいたいどれも似たり寄ったり100万円を境に±30万前後のクルマだけど、そもそもそのクルマを欲しい人がいるのかどうか。欲しい人がどういうものを求めているのかでも価値が変わってくる。

M:いわゆる人気車種なのかどうかも影響しますよね。

S:それに人によっても価値観は違う。たとえばトゥインゴ3を新車で買うと200万円ちょい。でも、8万kmを走った6年落ちのクルマがまだ100万円以上するって考えると、このトゥインゴは高いんじゃない? って思われても当然だよね。

M:新車で比較するとそうなりますよね。

S:だって新車で買ったら3年から5年は何の心配もないでしょ? すべてのパーツが新品で来るんだから。

M:そうですね。常々、スズキさんも言ってますが、新車のすごいところは、すべてのパーツが新品っていうところ。よく考えるとすごいことですよね。それが200万円ちょっとで買えるんだったら、わざわざ8万km走ったクルマを100万円以上出して買うか? っていう意見も分かります。

S:これが古いクルマなら仕方ないねってなるけど、それほど古いわけでもないからお買い得かと言われるとどうなんだろうって。

M:たしかに。

S:僕だったら予算130万円くらいでトゥインゴ乗りたいってお客さんに言われたらどう答えるか? それ、現金で払えるの? はい、払いますってことなら、足らない分を3年でローンを組んで新車買ったらほうがよっぽど幸せじゃない? って言うかもしれない。

M:ああ、なるほど。

S:ただね、そういう話をしても、うちのお客さんは乗りたいクルマに乗ることを道楽としているから。そこにお金がかかることは当然みたいな感じで麻痺しちゃってるから、僕も止めないんだけどね。乗りたいなら直して乗ればいいって言うしね。直さないで乗るのはどうかと思うけど。

 

カスタム派ほど、

ちゃんとした状態の中古車を買おう。

じゃないとしたいことができなくなるよ

 

S:たとえばこんな考え方もある。C2、脚やってある、タイベル換えてある、クラッチ換えてある、現状乗る分にはまったく問題ないってクルマを100万円で買ったとして。これだけ仕上がっているなら、買ってからそれ以外のことができる。さっき話したカーステを換えることもできる。

M:そうですね。

S:クルマをあれこれいじりたいって人は、信頼性や耐久性に疑いのあるクルマを買うと、買ってからそっちの対応に追われて、やりたいことができなくなる可能性があるよね。たとえばアルミ換えたい、マフラー換えたいって人は、新車から3年以内にやったほうがいい。各メーカーもそれくらいならまだモノがあるし、新車だから他に手がかかるわけじゃないからね。でも、C2みたいなクルマでちゃんとしてないのを買うと、あれが壊れた、次はこれやらなきゃいかんってそっちばっかりに対応しなきゃいけなくなる。

M:なるほど。カスタム派ほどちゃんとしてる中古車を買っておいた方が、後々自分の好きなことができるってことですね。

S:そういうこと。あとよくあるのが、安いフランス車買ったけど、壊れまくって結局維持できず、もうフランス車なんて買わないっていうパターン。そういう人を増やすのは、僕の職務としてやるべきことじゃないからね。

 

100万円というのは、

中古車を買う上で基準となるライン

 

M:そうなると、ちゃんと整備がしてあって、車検も取って、3、4年は特に大きなことをしなくても乗れる中古車って、いくらくらいするんでしょうね?

S:むかしさ、カーマガジンの企画でやってた「100泥」ってのがあったでしょ?

M:あー、ありましたね。100万円で泥沼にはまる。

S:あれはいまでも通用すると思う。100万円はひとつのライン。

M:なるほど。

S:あの100泥はすごくマニアックなクルマとかも含まれちゃってるからアレだけど、普段乗るクルマ、何かあっても直せるような大衆車って、だいたい100万円前後なんだと思う。それ以下のクルマ、たとえば50万円以下のクルマはどこか問題があって、妥協したり、ガマンしたりしなきゃいかんクルマだと思う。

M:ふむふむ。

S:クルマ屋さんって大雑把に言って仕入れる費用、直す費用、利益という感じで値段を決めてるんだけど、それに加え、どれだけ手間がかかるのかによっても値段って変わってくる。サクサク売れるクルマなら安くてもいいけど、売れるまで半年、1年かかるクルマならそれ相応に利益がないとやれない。そういういろんな要素を鑑みて値段が決まっていくんだけど、そのひとつの基準として100万円っていうのはある程度信用できる値段だと思う。50万円以下はなんかあっても仕方ないという覚悟が必要。年式的には10年落ちくらいまでにしておきたい。

M:そう考えるとこの3台は年式も走行距離もバラバラだけど「ちゃんと乗れる状態にすること」を考えるとだいたい100万円±30万円の範囲に収まってくるってことですね。

 

まとめ/Morita Eiichi

 

 

 

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