RENAULT Lutecia3 1.6 16V

「普通」という言葉は不思議なニュアンスを持つ。普通の意味は「特に変わっていないこと。ごくありふれたものであること。それが当たり前であること。また、そのさま」とある。ただ、2000年代に入ってから「普通においしい」とか「普通におもしろい」といった表現が用いられるようになった。これはいずれも「おいしい、おもしろいよりもほんの少し劣る」という意味合いを持っている気がする。感動するほどおいしく(おもしろく)はないが、合格である、といった感じだろうか。このような表現が生まれるようになったのは、この世にある製品やサービスの質が全般的に向上し、普通以下と思えるものが少なくなってきたせいだろう。製品やサービスを評価する際、普通、おいしい、だけではなく、普通とおいしいの中間という評価も必要になり、生まれてきたのではないだろうか。それに加え、僕は「普通」の意味として新たな定義を提案したい。

 

ルノーの基礎を支え続けたクルマ

最近、ルノー車ではトゥインゴ3を多く取り上げてきたが、今回はちょい古のルーテシア3である。ルーテシアの歴史を紐解けば、R5の時代まで遡る。R5、シュペール5、そしてクリオと名を変え、初代は1990年にデビュー。1.2、1.4、1.7、1.8、1.9(ディーゼル)、2.0と幅広いエンジンラインナップを誇り、ボディも3ドア、5ドアを用意していた。1998年に2代目となり、2.0のRS(ルノー・スポール)に留まらず、V6 3.0のMR 2シーターといった特異なモデルも登場させた。
2005年には3代目へ移行。ニッサンのマーチやノートと同一のプラットフォームを利用し、ボディサイズは2代目に比べて若干拡大された。この3代目からエンジンラインナップが整理され、1.2、1.4、1.5(ディーゼル)、1.6、2.0の5種類になった上で、ボディは3ドア、5ドアに加えてワゴン(グラントゥール)が追加されることになる。ただ、日本には3ドアと5ドアのみが輸入され、ワゴンは入ってきていない(以前、紹介したワゴンは並行車)。
エンジンは当初1.6のガソリンのみで、トランスミッションは5MTと4ATが設定された。3代目にもRSが設定され、2009年の10月から日本市場で販売された。しかし、同時期に日本の歩行者保護基準が新しくなり、ルーテシアクラスの輸入車にも適用されることになったことから、その法規対応が間に合わなかった。そのため、2010年8月で販売を終了せざるを得ない事態になったのは多くのRSファンが知るところだ。ちなみにRSは4代目になっても設定されるが、EDCのみでMTはない。なので、この3代目RSがマニュアルで運転できる最後のRSということになる。
2010年になるとマイナーチェンジが施され、ルーテシア3はフェーズ2へ。フロントのグリルやバンパーを中心にリニューアルがなされ、機能面では横滑り防止機構を全車に標準装備された。ボディはRSを除き、すべて5ドアになり、単一グレード(ベースグレード)で展開。その後「ナイト&デイ」という仕様がベースグレードに置き換わって設定され、5MTは廃止に。その後、限定車などの販売を行ったが、2012年で日本での販売は終了となった。

何もかも普通である

今回紹介するのは、ルーテシア3のフェーズ2である。フェーズ1はパッと見た印象で左右2分割されたグリルが個性的だったが、フェーズ2になってからは特段アイキャッチになるようなデザインはなく、平凡になった気がする。ルノー車全般に言えることだが、フェーズ2になってデザイン的によくなったなぁ、と思えるモデルが少ない気がするのは僕だけだろうか。フェーズ2のRSはフロントバンパーの一部分がブラックアウトされ、印象的な顔付きになっているのだが……。
ドアを開けてシートに座る。右ハンドルであっても、ドライビングポジションには不満はない。ちゃんと左足を置くフットレストも用意されている。目の前には見慣れた光景が広がっているが、ステアリングに目を移すとセンターパッドに見慣れたアレがない。そう、クルーズコントロールとスピードリミッターである。これまで乗ったルノー車には当たり前のように付いていたから、未装備のクルマに乗ると「ないのもあるんだ」と思ってしまう。ちなみにステアリングリモコンやオートエアコン、パワーウィンドウ、電動ドアミラーは標準装備されており、このベースグレードは本国で言うところのゼン、ディナミク、エクスプレッションあたりにオプションでオートエアコンや電動ドアミラー、アルミホイールを付けたような位置づけ。まぁ、質素でもなく贅沢でもない「普通」である。
普通だなと思い始めたら、何もかもが普通に見えてきた。これといった特徴のないエクステリア、インテリアだってインパネやシートのデザインもすごく普通だ。唯一の救いはこのクルマは5MTであること。さて、乗り味は普通じゃありませんように……。

「普通」と思えることは、その人にいちばんフィットしている証拠!?

エンジンをかけクラッチを踏み、1速へ。ステアリングを切って道路に出る。ここまでの動作はすべてが軽い。ステアリングなんて以前乗ったフェーズ1よりも軽い印象。ブレーキは踏み始めでガツンと効く“カックンブレーキ”っぽいか。
最高出力112psを6000rpm、最大トルク15.4kgmを4250rpmで発生するというエンジンのスペックを見ると、やや高回転型なのかなと想像できるが、低回転域もなかなかトルクフルで乗りやすい。タコメーターを見ず、40km/hくらいしか出てないのに4速に入れても普通に走る。怠惰な運転も受け入れてくれる懐の深いエンジンだと感じた。
この日は少し急いでおり、名古屋高速の都心環状線に乗った。ETCゲートを通過して上りのランプでアクセルを深く踏んでみた。するとルーテシアは本領を発揮。タコメーターの針は乾いた排気音とともに淀みなく上昇し、それに従って僕の表情も明るくなった。そして「ああ!」と気付いたのだ。このエンジン、僕が勝手に名機だと思っている「K4M」じゃないか(気付くの遅い……)。過去に大絶賛したルーテシア2 16Vやメガーヌ2 16V、カングー、そしていま所有しているトゥインゴ2 RSなどにも搭載されているエンジン。それぞれセッティングは違うものの、基本は同じだ。2、3速で引っ張って上まで回すと、これまで街中で感じていた普通のエンジンから一変し、スポーティな印象にガラリと変わる。排気系はノーマルなのに、何ですか、このやる気にさせる音は! ちょっと飛ばすと軽いハンドルに不安を覚えるくらいだ。街中では少し硬めだなと感じていた足回りも、高速走行に標準を合わせてあるのかと思えてくる。飛ばせば飛ばすほど足がフィットしてくる。そんな印象だ。
ああ、やっぱりK4Mはスペック通り高回転でおもしろいエンジンだ。街中ではゆっくり、のんびりした運転を受け入れる寛容さがありながら、いざアクセルを踏むと、シャープに回り「そうこなくっちゃ!」とエンジンに言われてるような気さえする。普通のようで普通じゃない。ルーテシア3を表現するとしたら、こんな感じだろうか。
スポーティさで言えば、ルノーには直4最強の「F4」があり、そのハイスペックさとフィーリングは誰もが認める名機だ。ただ、僕はそれの陰にひっそりと隠れ、ベースグレードという誰も見向きもしなさそうな地味なグレードであっても、じつはすごい、じつはおもしろい、という存在感に惹かれてしまう。パワーにおいてもF4のほうが断然強力で速い。でも、自分にフィットするものは何かを考えると、やっぱりこのエンジンに行き着く。要はこの1.6 16Vというのが僕にとってちょうどいいのだろう(そういえば、いま乗ってるクルマも2台とも1.6だし、前回のC2でエンジン最高! といったのも1.6)。もちろん「ちょうど良さ」は人によって違うから「いや、俺はやっぱ2.0だな」という人がいても当然。普通って、ともすると若干ネガティブなイメージで使われることが多いけど「普通」と思えることは、その人にいちばんフィットしている証拠なのかもしれない。

妄想も加速する

ただ、普通の中にもやはり自分らしさは欲しい。クルマは移動手段でもあり、自己表現ができる機械なので、こういうクルマに出合うと、どうしても妄想が加速してしまう。
(以下、個人的な妄想である)私には中学1年生になる娘がいるのだが、成長とともに身体も大きくなり、今後これまで大して気にしていなかったトゥインゴRSのサイズと3ドアという部分がデメリットになってくる可能性は今後充分ある。そうなるとトゥインゴRSよりも少しサイズが大きく5ドアのこのクルマ、かなりのストライクゾーンじゃないか。もし手に入れたら、何をするか。まずこのあまりにも高い車高を下げたい。車高調があれば(海外探せばあるだろう、たぶん)、まずそれを入れて、ホイールはどうしよう。1 インチくらいアップして16インチに。15インチはスタッドレス用に取っておこう。社外品ではなく、あえて別車種の純正ホイールを選ぶのもいい。でもな、エクステリアで言えば、フェーズ1のほうが断然いいから、フェーズ1のMTを探してみてはどうだろうか。フェーズ1なら3ドアがあるぞ。トゥインゴよりもサイズが大きくなるのだから、3ドアで行くのもいいなぁ。いや、やっぱり5ドアで行くべきか……。

 

TEXT & PHOTO/Morita Eiichi

 

2010y RENAULT Lutecia 1.6 16V

全長×全幅×全高/4025mm×1720mm×1485mm
ホイールベース/2575mm
車両重量/1160kg
エンジン/直列4気筒DOHC 16バルブ
排気量/1598cc
最大出力/82kW(112PS)/6000rpm
最大トルク/151Nm(15.4kgm)/4250rpm

 

 

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