RENAULT Lutecia eLe 1.6 16V & Megane 1.6 16V

いろんな事象の本質を捉えたいと思う。イメージではなく、本質。もちろん本質だけが正義とは思わない。イメージ先行で、イメージ重視であっても、それはそれで幸せはあるだろう。方向性の違いなのだ。クルマにも料理にも音楽にも映画にも、どんなことにも本質はある。では、クルマの本質とは何だろうか? 答えは無限にある? それとも1つしかない? 時代によって変わる? それとも普遍的なもの?

 

アクの抜けたすっきりしたデザイン。きわだったポイントはないが、全体的なまとまり感はコンパクトカーのお手本のよう。ボディカラーは13色もあるなか、白は珍しいルーテシア3は過渡期のクルマ?

今回のヴィブルミノリテは、2台が同時登場。以前もやっていたのだが、ここ最近は1台ずつの登場だったからちょっと久しぶりだ。ルーテシア3とメガーヌ2。共通項は同じ形式のエンジン(K4M)と右ハンドル。違うのは車種とミッションだ。

まずはルーテシアからいこう。このルーテシア、パトリック・ルケマンがどテールランプの収まり方が秀逸。先代のようなどっしりとしたリアビューから軽やかさを感じるデザインになったれだけ関わったのだろうか。後任を任されたヴァンデンアッカー氏がルノーに入社したのは、2009年5月からなので、日付だけみるとやっぱりルケマンが関わったのか。ただ、ルーテシア3のデザインにはあまりルケマンっぽさを感じない。

ま、それは置いといて、ルーテシア3である。発売は2005年からで日産のマーチやノートとプラットフォームを同一としている。ルーテシア2に比べてボディは大型化し、幅は1700mmを超え、3ナンバーサイズに突入した。そのお外装色は多いが、内装は黒を基調とした1種類のみで、非常にシンプル。プラスチックのパーツも先代に比べると質感が高く、インテリア全体の雰囲気も向上しているように感じるかげか安全性が大幅に向上し、ユーロNCAPの5つ星を獲得。さらに2006年にはヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーも受賞した。

ボディタイプは3ドアと5ドア、それに5ドアステーションワゴン(グラントゥール)がある。エンジンは1.2 L、1.4 L、1.6 Lと1.5 Lのディーゼル。ただ、日本には3ドアと5ドアしか導入されておらず、エンジンも1.6のガソリンのみ(ミッションは4ATと5MTの両方ある)。その後、2010年にマイナーチェンジをしてRSを除く全車が5ドアのみとなり、グレートも1つに絞り込まれた。前期はフロントの2分割されたグリルが特徴的だったが、後期になってこの部分がなくなり、ちょっと無国籍なデザインになった。そして2012年に現行のルーテシア4へ進化している。

 

シートは先代のようなしっとり、もっちり感は少し薄まり、パンッと張ったウレタンの硬質感がある。これまでとはまた違う種類のかけ心地だ安心感があるから、ボサーッと乗れる。

ルーテシア3は以前1.2Lに乗っている。そのときも思ったのが、まずシャシーのデキがものすごく良くなったこと。ルーテシア2よりも格段に剛性が高く、ドアを閉める音もドイツ車っぽくなった。これはラテン車全体に言える傾向で、ルノーのみならずプジョーもシトロエンもフィアットも“そっち方面”のテイストに流れている。乱暴に表現すれば、みんながゴルフを目指してしまったがゆえに、昔よりも各メーカーの“味”が薄まったと言える。
しかリアシートはかなり広い。ひざ前、ヘッドクリアランスともに余裕があり、パッケージングの妙を感じた。リアの座面もあまり沈み込みはないし、それは「薄まった」だけで「なくなった」わけではない。ルーテシア3になって先代にあった圧倒的なスタビリティは薄まった代わりに、軽快さがプラスされた。シャシーもガチガチに固めるのではなく、若干の緩さも残している。脚も先代に比べれば硬めのセッティングだが、しっかりとしたストローク感があり、急な入力に対しても衝撃をうまくいなしてくれる。このような新しい骨格と脚が、ルーテシアの新しい味を創っているのだろう。

エンジラゲッジは通常で288L、シートをたたむと最大で1038Lの容量。シートのたたみ方はダブルフォールディング方式ンは1988年に登場して以来、使いに使い倒しているK4M型。商用車からミニバン、スポーツカー、フォーミュラにまで用いられる万能エンジンだから、まったくもって不満はない。ただ、ATと組み合わせるとなぜか凡庸に感じてしまうのは、ATのせいなのか、単なるマニュアル好きの偏見か。いや、ATは昔に比べれば格段に進化したと思う。乗っていてATの変速プログラムに不満を感じることはないし、むしろドライバーに意識させないくらい自然なフィーリングで変速してくれるようになった。そうなるとやっぱり好みの問題か……。

電動ステアリングのフィーリングがいまいちだと感じるのも、まぁ、これも好みの問題だろう。いろいろと小うるさく重箱の隅を突こうとして乗るのではなく、もっと大らかな気持ちで行こうじゃないか。普通に踏んで普通に走り、普通に曲がって普通に止まる。あれこれ意識することなく、ボサーッと乗れる安楽さ。それは現代にマッチしたシャシーがもたらす安心感だと思う。ボディが緩いな、まっすぐ走らんな、ぜんぜん止まらんな。そんなことを意識させないってことは、やっぱりすごいことだと思う。

 

もはや成熟の域に達しているK4M型のエンジンは、きわめてオールマイティな性格を見せる。さすがに古さは否めないが、絶大な安心感がある1.6Lもあったね。

メガーヌは昔2.0Lの左マニュアルに乗った。その頃からメガーヌと言えば2.0Lの印象が強く、1.6Lはそれほど意識していなかった。なので、今回「右だけど、1.6のマニュアルがあるよ」とすずきさんに言われたときは、ああ、そうか。そういえば1.6Lもあったねぇ、とそれくらいのリアクションしかできなかった。

メガーヌ2は2002年デビュー。3ドア、4ドア、5ドア、5ドアワゴンに加え、ミニバンのセニック、カブリオレと多彩なボディタイプを持ち、ルーテシアと同じく2003年にヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞。ユーロNCAPでも5つ星を獲得している。Bセグメントのベストセラーがルーテシアなら、メガーヌはCセグメントのベストセラーカーである。

今回乗ったのは、2005年にマイナーチェンジした後のフェーズ2。以前乗った2.0Lは前期型だったので、フロント回りとリア回りの意匠がちょっと違う。シャシーはひと世代前のものなので、ルーテシア3と比べるとかなり緩い。いや、個人的にはもう昔の人なので、このくらいがちょうどいい(厳密に言えば、緩いとか硬いとかを意識しない)。

 

タイヤ&ホイールは185/60R15。「eLe」はアルミホイールが標準装備となるすごくいい1.6L。

2.0Lのメガーヌはとにかく安定感と安心感がハンパなかった。「これぞ、GT!」と言わんばかりのスタビリティは高速道路をかっ飛ばしてこそ堪能できる。速度感を失うあの走りは、とろけるほどにマイルドでいつまでも運転していたい気持ちになった。しかし、初めて乗った1.6Lはそんな2.0Lを上回るほど良かった。ルーテシアならまだしも、さすがにメガーヌクラスの車格になると、1.6Lじゃ厳しいかなと思っていたのだが、乗ってみると重量も大きさもまったくハンデにならない。むしろ2.0Lのほうが鈍く思えるくらいだ。高速クルーザーとしての性能はスポイルされることなく、自在感が増し、これなら日本の狭い峠道でも振り回して楽しめると思った。もちろんパワーもトルクも2.0Lのほうが上だから、たとえば高速道路で他車を追い越したいときにアクセルを深く踏み込めば、あふれる動力を提供してくれる。しかし、1.6Lもそれに負けないくらいシャープなエンジンの回りでカバーする。思わず「あれ? これってさっきのルーテシアと同じエンジンだよな……」と疑ってしまう。まぁ、これも「マニュアルだからそう感じるんだよ」と言われたらそれまでだが……。

 

メガーヌ2のフェイズ2。当該車はバネが変更されているので、若干車高が落ちている。いま見てもかっこいいし、個性的なデザインだ違いはATとMTか?

それにしてもこの違いは何だ。車重も違うし、ホイールベースも違う。同じ型式エンジンだからといってもセッティングだって違うだろう。それなのに、重くて長いメガーヌのほうが自在感にあふれ、軽くて短いルーテシアのほうが凡庸に感じてしまう。これってカングー2のMTに乗ったときに感じた印象と同じではないか。
そこでちょっと考えてみる。ATはそもそも運転者が面倒なシフトチェンジをしなくても運転できるように考えられたものだ。だからそもそもMTのような自在感は織り込まれていない(はず)。でもだからといって、ルノーのATがぜんぜんダメかといえばそうでもない。たとえば高速道路で速度域が高いあたりの制御は他社ATよりも優れていると思えることもある。ただ、日本ではその辺があまり必要とされていないだけであって……。
渋滞やストップ&ゴーを繰り返す日本の道路事情は、むしろ低速域の制御が求められるが、ルノーはおそらくそこを重視していない。だから結果、ネガばかりクローズアップされることになるのだ。実際、日本でも欧州的な乗り方ができる地方では、あまりネガも感じないし、トラブルも少ないという話を聞いたことがある。

 

3ドアほどではないが、5ドアも充分に際立ったデザイン。メガーヌのデザインエッセンスはこのリアビューに集結されているように思うRSは分かりやすい。だから売りやすい。

ご存じのとおり、日本でルーテシアやメガーヌといえば、圧倒的にルノースポール版(以下、RS)が人気だ。それはルノージャポンの戦略なんだろうけど、あえてRSじゃないほうに乗ってみると、何か違ったものが見えてくるのかなと思っていた。

欧州ではRSよりも圧倒的にベーシックなグレードのほうが売れている。日本はその逆で、ベーシックなグレードはあまり人気がなく、RSのほうに人気が集まっている。

ルノースポールの目玉はエンジンだ。もちろん、エンジン以外にもいろいろ手が入っているんだけど、やっぱりハイパワーなエンジンが積まれてこそ、ルノースポールだと思う。その長所はとても分かりやすく、訴求しやすい。だから人気が出るのだろう。一方、今回紹介した2台のように、きわめてベーシックなグレードは、これと言ったアピールポイントがないので売りにくいだろう。エクステリア、インテリア、走り、快適性、環境性、安全性……どれをとっても及第点以上あると思う。でも「じゃあ、何がいちばんのおススメですか?」と聞かれると難しい。私なら「ルノーと言えば、やっぱり乗り心地と安定感でしょう」と答えるけど、ちょっと弱い。それは乗ってみないと分からないからだ。いや、それもちょっと街中を走ったくらいじゃ分からない。街中も含め、ロングドライブなども経験してはじめて分かるのだ。ルノー車の良さは。それも強烈なインパクトではなく、ジワジワと分かってくる。だから弱い。

 

落ち着いた色調で2色の切り替えを入れるなど、ルーテシアのカジュアル感より少しだけ大人な上質感がある自分の生活基準でクルマを選ぶ。

ただ、個人的に思うのは、突発的に、衝動的に、二次曲線的に盛り上がったものは、それが冷めるのも突発的、衝動的、二次曲線的に下がっていくように感じる。学園祭で女子にモテたいため、突発的にバンドを始めたヤツらは、たいていすぐに音楽をやめる。私みたいに地味なベースの魅力(本質)を理解し、惹かれた人間は、バンドも長続きしたし、その活動が終わってもまだ一人でベースを弾いている。まったく説得力のない例えだが、あんがい的を射てはいないか(いないか……)。RSは単独でRSとして存在しているのではない。ベーシックグレードに立脚していることを忘れてはならない。

エンジンはルーテシア3と同じ「K4M型」。2.0Lはこちらも定番の「F4型」。ロングドライブをより快適にしたいなら2.0L。峠道もスポーティーに走りたいなら1.6Lをおススメするハイパワーなエンジンも、派手な外装も「●●最速!」というキャッチフレーズも、声高に宣伝したくなる要素を全部取っ払ったその先に、本当の、そのクルマの価値や本質があるのだと思う。
ただ、何事も本質さえ理解し、手に入れればいいというわけではないのが人間。私なんか「本質、本質」と言ってること自体がイメージでとらえがちな自分への反逆なのだと思う。もちろん、スペックを重視して乗るのも「●●最速!」というイメージを背負って乗るのも愉しみ方のひとつだ。その一方で、ちょうどいいパワーを日常的に自在に扱う愉しみ、そして街乗りも長距離もそつなくこなすクルマを選ぶのもまたいい。公道において充分なパフォーマンスを備えているクルマ。つまりスペック基準ではなく、自分の生活基準で選ぶこともまた幸せなクルマ生活を送るポイントだと思う。

 

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

 

 

2006y RENAULT Lutecia eLe 1.6 16V

全長×全幅×全高/3990mm×1720mm×1485mm
ホイールベース/2575mm
車両重量/1180kg
エンジン/水冷直列4気筒DOHC16V
排気量/1598cc
最大出力/82kW(112PS)/6000rpm
最大トルク/151Nm(15.4kgm)/4250rpm

 

2007y RENAULT Megane 1.6 16V

全長×全幅×全高/4240mm×1775mm×1460mm
ホイールベース/2625mm
車両重量/1250kg
エンジン/水冷直列4気筒DOHC16V
排気量/1598cc
最大出力/82kW(112PS)/6000rpm
最大トルク/151Nm(15.4kgm)/4250rpm

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2 Responses to “RENAULT Lutecia eLe 1.6 16V & Megane 1.6 16V”

  1. Ph2・2.0・6MT・3ドアのクリオRSとPh1・1.6・4AT・5ドアのルーテシアeLeを使い分けております。
    両車の違いは明白で、外観、内観、エンジン、ミッション・・・どれもが対称的なのが狙いだったりします。RSは遠征、ツーリング目的です。あまり渋滞等嵌らないような環境で維持したいと思い
    ルーテシアを導入した経緯があります。
    都会での取り回しのラクさは圧倒的に5ドアルーテシアに軍配があがります。元々、9年落ちの中程度の外観だったこともあり、気軽にどこでも行けるような便利さです。
    前期顔の後期モデルなので、パドルシフトレバー付です。主に高速道走行時にMTモードを多用しております。追い越し等の急加速にはパドルの方がレスポンスが良いと思います。

    • すずき@PMG4 より:

      パドルあってもなくても、シフトレバーあるやってること一緒、だからどっちでもいいけど、高速クルーズ中に前が詰まって、1段落として減速に便利。気持ちよい。
      つくづく、高速クルーズが主目的なATだなぁ、と。

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