CITROEN C2 1.6 VTS

あいうえ親戚の家に行ったときの話。そこの家は台所や洗面台などの水回りがとにかく汚い。汚れがこびりつき、カビが生え、まったくきれい好きではない僕でさえ、使うのをためらうくらいだ。「この家の人たちは、よくこんな状況で毎日使っていられるな」と感心するほどなのだが、先日、自分の家で妻から「このバスタオル、もう捨てたら?」と言われ、ハッとした。そのバスタオルをあらためて観察すると、端を折り返している糸が取れてボロボロになっており、色ももともとグレーだったの? と思えるほどグレーだ(もちろん最初は白)。身体を拭くものではなく、大きなウエスですと言ったほうがいい。それを僕は平気で使っていたのだ。何年も。当の本人はまったく気にしていないが、他人から見るとものすごく気になる。僕が使っていたバスタオルは、程度や種類の違いこそあれ、親戚の家のカビだらけの水回りと同じだ。最初は汚いと思っていても、それを継続していれば、それがその人にとっての普通になる。

 

PSA最後のホットハッチ

C2 VTSである。2014年の夏に1.4のVTRを紹介したが、シトロエン(というか当時のPSA)最後のホットハッチと言えるVTSは、以前から一度は乗ってみたかった。その念願が叶った。
C2はサクソの後継モデルとして、2003年に発表。Bセグメントのクルマとしては、すでにC3が存在していたが、C3と同様のプラットフォームを使いながらもホイールベースを縮め、全体的にひと回り小さくしたクルマとしてC2を誕生させた。サブBセグメントと言ったらいいか。
エンジンは本国では1.1、1.4、1.6(シングルカムとツインカム)の直列4気筒のガソリンと1.4のディーゼルがあるが、日本には1.4と1.6のVTR(センソドライブ)と1.6のVTS(5MT)のみが輸入された。いずれも右ハンドルである。
ちなみにトップグレードのVTSがラインナップに加わったのは、2004年でデビューから1年遅れで登場した。可変バルブタイミングシステムを搭載したエンジンの最高出力は125psで、組み合わされるのは5MTのみ。ギアのステップ比は詰められ、ファイナルについてはVTRの3.937から、4.285へ。電動パワーステアリングのギアレシオはVTRのロックtoロック3回転に対し、2.6回転とクイックなセッティングに変更された。スタビサイザーは太く、バネレートはソフトに見直され、ホイールは16インチを履く。VTRではオプション設定になっていたESPが標準装備されるようになった。

サクソ、C2、トゥインゴRS

今回、VTSを紹介するにあたって、念願が叶ったと言ったが、それは僕が乗っているクルマたちと関係がある。いまうちには、2000年式のシトロエン・サクソVTSと2010年式のルノー・トゥインゴRS(並行車)があるのだが、C2はサクソの後継車なので、その違いに興味があるし、トゥインゴはメーカーこそ違えど、同世代の、しかも最後のホットハッチという意味で共通点がある。この3台を比較できるのが非常に楽しみなのだ。

 

CITOEN SAXO VTS(GF-S8NFS)

ボディサイズ(全長×全幅×全高)/3735mm×1620mm×1360mm

ホイールベース/2385mm

車両重量/960kg

総排気量/1587cc

最高出力[ps(kw)/rpm]/120ps(88kw)/6600rpm

最大トルク[kg-m(Nm)/rpm]/14.7kg-m(144Nm)/5200rpm

 

CITROEN C2 VTS(ABA-A6NFS)

ボディサイズ(全長×全幅×全高)/3670mm×1660mm×1460mm

ホイールベース/2315mm

車両重量/1100kg

総排気量/1587cc

最高出力[ps(kw)/rpm]/125ps(90kw)/6500rpm

最大トルク[kg-m(Nm)/rpm]/14.6kg-m(143Nm)/3750rpm

 

RENAULT TWINGO RS(ABA-NK4M)

ボディサイズ(全長×全幅×全高)/3610mm×1690mm×1460mm

ホイールベース/2365mm

車両重量/1120kg

総排気量/1598cc

最高出力[ps(kw)/rpm]/133ps(98kw)/6750rpm

最大トルク[kg-m(Nm)/rpm]/16.3kg-m(160Nm)/4470rpm

 

まずはスペックから。こうやってみると、C2はサクソの全長よりも若干だが短く、ホイールベースも短いことを発見した。C2とトゥインゴのサイズはほぼ同じだ。装備的にもC2とトゥインゴは同じような感じである。このあたりの時代からC2はオートエアコン、ESP、ステアリングコラムにオーディオ系のコントローラー(COM2000)、オートクルーズ、センターディスプレイなどの快適&安全装備が普通につくようになった(リアシートが左右独立式なのも、C2とトゥインゴの共通点)。それを考えると、サクソは何もついていないと言ってもいいほど簡素だ。安全系の装備なんてABSくらいなもの。そりゃそうだ。もう20年以上も前のクルマなのだから。
エクステリアデザインについてもC2とトゥインゴは現代的な3ドアハッチバックのフォーマットに則っているように思う。サクソに比べて100mmも上乗せされた全高や高いウェストラインなどは、C2やトゥインゴだけでなく、この時代の小型ハッチバック車すべてに言えるかもしれない。

 

C2のシャシーは緩いけど、あえて?

実際に乗ってみよう。と、その前に。このC2、足回りに問題があって、走ってみるとかなり異音がするとのこと。すずきさんも「よくここまで放置した」と呆れるほどなので、そういう状態を前提に話をしたいと思う。
乗ってみると、少し動かしただけで足回りからいろんな音が聞こえてくる。ガタガタ、ゴトゴト、ギシギシ、キシキシ、ガンッ、ゴキッなどなど、言葉で表現できない音も含め、とにかくすごい。さぞかし過走行なのかとメーターを見たら、約5万kmでさらに驚いた。たった5万kmでこんなになっちゃうものだろうか。こんなクルマ、これまで乗ったことがないし、もうここまで来ると困惑を通り越して笑えてくる。こんな状態で峠になんて行って負荷をかけたら、たいへんなことになりそうだと思ったので、ここはおとなしく街中での通常運転に徹した。
最初に感じたのは、ギア比の低さ。サクソの最終減速比はVTRと同じ3.937だが、VTSはそれよりさらに低い4.285。なので、ゆっくり走る分には感じないが、少しでも踏んでいくと吹け上がりが速く、シフトチェンジが忙しい。まぁ、タイヤの外径がサクソのほうが小さいので、この差はわずかかもしれないが、体感的にはC2のほうが加速重視のセッティングで速く感じる。低速域でのトルク感もC2に軍配が上がる。これは可変バルブタイミングシステムの恩恵だろうか。3000rpm以下でゆっくり流していても、しっかりとしたトルク感に下支えされている余裕を感じるのだ。
乗り味は、これはPSAの伝統なのだろう。キビキビとしたフィーリングは、サクソから乗り換えても変わっておらず、サクソやプジョー106を乗っている人にとっては「ああ、こういう感じだよね」と思うはずだ。
一方、シャシーの完成度で言うと、サクソからC2に進化し、向上しているのは間違いないのだが、トゥインゴRSと比較すると比べ物にならないくらい低い。僕のトゥインゴはシャシースポールで、シャシーカップに比べたら緩いほうなのだけど、C2はその緩さをさらに下回る。この時代に高剛性のシャシーをつくる技術は充分にあるのだから、これはもうPSAの設計思想なのだろう。

 

斧とナイフ

ただ、ガタピシうるさく緩いC2だが、それを差し引いてもこのエンジンは心底すばらしいと感じた。正直言って、乗る前は「サクソのエンジンに可変バルブタイミングが付いただけでしょ?」と思っていたのだが、その「付いただけ」が、こんな劇的な進化を与えているとは。低回転域から高回転域にわたってしっかりとトルク感を感じながら、きれいに吹け上がっていくこの感覚は、官能的ですらある。もちろんトゥインゴのK4Mにも可変バルブタイミングは付いており、名機と呼んでも異論はないエンジンなのだが、まったく性格が違う。
これは僕がルノーのエンジンとPSAのエンジンを表現するときに多用する比喩なのだが、ルノーのK4MやF4は「斧」、PSAのTU、NF型は「ナイフ」。トゥインゴは太いトルクに任せてドカーンと高回転域まで持っていくのに対し、C2はそこまでのトルク感はないものの、スパッと回転を上げていくシャープさがある。どちらも魅力的なのだが、個人的に中毒性を感じたのはC2だった。夜、交通量の少ない街中で、ちょっとでも前が空くと1、2速を引っ張って楽しんだ。これは痛快! そのおかげでみるみる燃料計の表示が減っていくのだが、こんなに楽しいエンジンだとは……と感動するほどだった。

 

いまのうちに!

C2の魅力はエンジンだと確信すればするほど、新たな気持ちも湧いてくる。そう、このガタガタの足回りをシャキッとさせたら、もっといい印象になるに決まっている、という欲である。いまとなってはプジョー106はもちろん、不人気車種のレッテルを貼られたサクソでさえ、中古市場の価格が高騰し、高年式・低走行距離の個体だと200万円近くするものもある。それに対し、C2 VTSはといえば、タマ数は少ないものの100万円以下、いや50万円以下で手に入るものもある。まぁ、安ければ安いほどいろんなことをして結果、コストがかかるのは自明だが、それでも手に入れて+50万円くらいかければ、かなりいい感じに仕上がるのではないか。
正直言って、ここ最近のプジョー106/サクソの高騰具合は意味が分からない。106はむかしから人気があったが、修理しようにも純正パーツが出なくなっている現状を考えると、乗り続けるのはそれなりの覚悟が必要だ。それなのに何であんなに高いのか、理解に苦しむ。
106の後継がいないことを考えれば、PSAの選択肢はもうC2 VTSの一択である。106よりもまだ純正パーツは出るだろう。そう考えると、C2が高騰する前に(するのか!?)手に入れてリフレッシュし、この痛快なエンジンを楽しんでほしいと思う。
C2はデザインがなぁ……という意見もあるだろうが、一度乗ったら見方が変わるはずだ。かく言う僕も今回の体験でC2、いいなぁ……と思うようになってしまった。C2は全高があるので、車高を下げてJWRC車両のようにワイドボディキットを付ければ全体のバランスが取れるなぁ……などとあらぬ妄想をしてしまうくらいだ。

 

TEXT & PHOTO/Morita Eiichi

 

2007y CITROEN C2 1.6 VTS
全長×全幅×全高/3670mm×1660mm×1460mm
ホイールベース/2315mm
車両重量/1100kg
エンジン/直列4気筒DOHC 16バルブ
排気量/1587cc
最大出力/90kW(125PS)/6500rpm
最大トルク/143Nm(14.6kgm)/3750rpm

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