RENAULT WIND EXCEPTION 1.6 16V

オープンカーは特別だ。オープンカーはかっこいい。オープンカーは非日常だ。オープンカーは注目を浴びる。オープンカーはやせ我慢だ。オープンカーは余裕だ。オープンカーは発見だ。オープンカーは季節を感じる。オープンカーは娯楽だ。オープンカーは贅沢だ。オープンカーは開放であり、解放だ。オープンカーは少数派だ。オープンカーは選民思想的だ。オープンカーは……和製英語だ。

オープンカーというより、タルガトップ?

 と、のっけからオープンカーを連呼したが、一言でオープンカーと言ってもその形状と呼び名はいろいろある。明確な定義があるわけではないけど、一般的な呼び名は以下の6種類くらいだろうか。

  1. ロードスター
    一般的にロードスターという名前を付けられることが多いのは、2シーターのスポーツカー。
  2. スパイダー
    サイドウィンドウを下げた状態でボディより上のパーツがフロントウィンドウやヘッドレストだけになるような完全なオープンカーを呼ぶ。スパイダーの語源は諸説あって明確ではない。英語の「SPEEDER(スピーダー)」がイタリア語風の「SPIDER」になったという説も。
  3. カブリオレ(カブリオ)
    本来はフランス語で1頭だて2人乗りの幌馬車を意味するが、現在では4座をベースにしたオープンカーに付けられることが多い。
  4. コンバーチブル
    「変化」を示す「CONVERT」に「~できる」の「a(i)ble」をつけて「変化できる」クルマの意味。屋根が全開になるものはすべてコンバーチブルと呼んでも良さそう。
  5. タルガトップ
    フロントウィンドウとピラー、リアウィンドウをそのままにルーフだけ取り外せるタイプ。タルガの名称はポルシェが最初に採用した。
  6. Tバールーフ
    ルーフの中央部を残して、運転席と助手席の上部が開くタイプ。ルーフの中央部が残ることでボディ剛性を確保できるメリットがある。

 と、こんな感じか。厳密にいえば分類上違うものもあるかもしれないが、いかんせん定義がないのでこれに当てはまらないものも多い。
 さて、今回のウィンド。オープンカーはオープンカーだけど、フルオープンとは言えない。どちらかというとタルガトップに近い印象だ。ちなみにルノーUKのサイトでは「ウィンド・ロードスター」と表記されている。まぁ、何が正しいのかはさておき、とにかく「屋根が開く」クルマで、その名が示す通り風になれそうな、爽快なネーミングは期待させるのに充分だ。

コロンブスの卵的発想。

 最初にウィンドが世に登場したのは、2004年のジュネーブショーだった。このときのウィンドは日産の共同開発した次世代Bセグメントプラットフォームを使ったコンセプトカーで、全長こそほぼ同じであったが、2+1の3シーターという特異なレイアウトを持っていた。前席2人、後席(中央)1人の配置は上から見ると三角形を描き、この形が新しいコミュニケーションスタイルを生み出す、と当時のルノーコンセプトカーズ・エンジニアリングマネーシャー、デニス・ファルク氏が述べていた。たしかエンジンはメガーヌの2リッターが積まれていたと思う。その後、時は流れ、2010年。同じくジュネーブショーで市販型が披露され、5月からフランスを皮切りに欧州各国で販売が開始。そして2011年、目の前に欧州からやってきたばかりのウィンドがいる。おそらく国内でウィンドを題材にしたコラムはこのブログが初だろう。
 ウィンドは見ての通り、トゥインゴをベースにし、オリジナルのボディと電動開閉式ハードトップを備えたオープンカーだ。いちばんのトピックスはやはりこのルーフだろう。初めてウィンドの動画を見たとき、屋根の開閉にかなり驚いたのを覚えている。電動開閉式のハードトップといえば、多くのモデルがルーフやリアウィンドウ部分を折り畳むの複雑な機構でその分、高価になりがちだった。しかし、ウィンドは大胆にもルーフを180度ひっくり返して格納している。「そ、その手があったか」と“コロンブスの卵”的発想に感動した。いや、このような方式はきっと日本のエンジニアでも思いついた人はいるだろう。しかし、ルーフの内側が180度反転し、外側になって格納されるという方式に日本人的な嫌悪感を抱いたのではないだろうか。だからそういうことにならないようにわざわざ関節を持たせて折り曲げたり、H社のデルソルが持つ『トランストップ(トランクリッドがルーフを迎えに上昇し、スライドしたルーフがトランクリッド下に収納されるシステム)』のような精巧な仕組みを考えたのかもしれない。でも、ルノーはそんなの関係ねぇー!とばかりにあらよっとルーフをひっくり返して見せた。このほうが機構が単純だし、何より開閉が速い。12秒という数字はこの手のクルマではトップクラスに違いない。ルーフ開閉の模様を撮影してきたので、動画でどうぞ。しかもオープンカーの弱点と言われるラゲッジルームの狭さも、ルーフの開閉を問わず270リットル(VDA方式)の容量を確保している。写真だと実感が湧きづらいが、ラゲッジルームを目の当たりにするとその広さに驚くと思う。2人で1泊旅行なんて余裕。お土産をたくさん買っても大丈夫だ。

不思議な乗り味。

 エンジンは2種類。トゥインゴGTと同じ1.2リッターターボのTCe(100ps)と、トゥインゴRSと同じ1.6リッター(133ps)の自然吸気エンジンで、現車は後者の1.6エンジン。試乗は撮影場所までの往復数kmで街中の運転だったが、1280kgの車体を引っ張るのに充分の性能を発揮した。トゥインゴRSは乗ったことがないので何とも言えないが、パワフルかつ元気でよく回るエンジンと聞いている。その聞きかじりの知識と比較すると、ウィンドはやんちゃというより、上質。おそらくトゥインゴよりも160kg重い車体が影響しているかと思うが、キビキビ感はそれほど感じられず、その代わりにとても落ち着いた乗り心地を提供してくれる。それにしてもルノー車はいつもひとクラス上の乗り心地を実現する。室内にいたらホイールベースが2mちょっとのクルマとは思えないほど。あくまでもタウンユースでの話だが、17インチ40扁平のタイヤでもバタつきはなく、低速域で少しゴツゴツするとはいえ、不快感はない。とにかく小さなクルマにありがちなネガがほとんど感じられないのには驚いた。ただ、これはあくまでも街乗りレベルの話。峠に持ち込んで目いっぱいアクセル踏んだら、まったく印象が変わることもあり得るので、この感想は本来の性能のほんの一部としてとらえてほしい。
 根底に流れる乗り味はトゥインゴやルーテシアと共通するものがあるが、神経を研ぎ澄ませると2車とは明らかに違うのもおもしろい。それにはまずシャシー剛性の高さが挙げられるだろう。ウィンドはフルオープンではなく、運転席と助手席の上部が開くだけだ。それなのにそこまでボディ剛性が必要だろうかと思えるほど剛性は高い。一方でやはり乗り心地を考慮したのだろうか、サスペンションの設定はやわらかめ。それでいてこの脚に組み合わせられるのが17インチという大径ホイールだから不思議な感触だ。硬いボディ+軟らかい脚+硬いタイヤホイール。このような組み合わせのクルマはいままで乗ったことがない。ルノーはルノーだが、いままでのルノーとは少し違う、新鮮な乗り味であることは確かだ。

オープンは特別だから、贅沢な仕様で。

 本来ならワインディング、高速道路と違うフィールドに持ち込みたいところだが、大事な新車である。そこはグッと我慢して撮影に没頭し、すぐにRENOさんに舞い戻った。そこで今回、ウィンドを輸入した背景を店主のすずきさんにきいてみた。

モリタ(以下、M):そもそもなんでウィンドなんでしょ?
すずきさん(以下、S):もともとクーペが好きなんだよね。たくさん人が乗れますとか、荷物が乗りますとか、そういうこと考えてないじゃない。そういう実用部分から脱却した立ち位置にあるクルマってかっこいい。おまけに屋根も開いちゃうんだから、なおよし。乗るだけで非日常の体験ができるのは最高に贅沢だと思うよ。
M:デザインもおもしろいですよね。
S:もちろんルノーだな、と思えるデザインなんだけど、最近のルノーにしてはちょっと異端児的なデザインだよね。かっこいいというより、かわいい。両生類のような顔にも見えるし。
M:ミドシップのようなサイドビューもいままでのルノーにはないシルエットですよね。顔は、個人的にはムツゴロウみたいだなぁ、と思いました。あ、畑正憲さんじゃなくて有明海にいる魚の。
S:そう見えなくもないね。あとルノーにしては異様に小さい窓と高いウェストライン。いままでのルノー車って乗ったときに肘を窓の開口部に乗っけられるよね。でもこれはそうはいかない。
M:そうそう。座ったときにすごく囲まれ感が強かったです。ウィンドはエンジンが2種類ありますが、なんで1.6リッターにしたんですか?
S:1.2 TCeも魅力的だけど、1.6はトゥインゴRSと同じエンジン。オープンだから重量もあるでしょ? 重量に見合った動力性能がほしいな、と考えるとやっぱ1.6になっちゃう。5MTで乗るんだから走ったほうがいいに決まってる。当然、1.2 TCEよりは高いけど、ここを譲ったらいかん。
M:なるほど。装備的な面では?
S:グレード展開は1.2 TCeのなんも名前がつかないやつがいちばん下のグレードで、1.2 TCeディナミク、1.2 TCeエクセプション、1.6ディナミク、1.6エクセプションの順に高級グレードになっていく。このクルマは1.6エクセプションだから最高級グレード。エクセプションはオートエアコン、EPS/ASR、フォローミーホーム(エンジンを切って数十秒間、ヘッドライトを点灯させたままにする機能)、オートワイパー、オートヘッドライト、ブルートゥース、17インチアルミホイールが付いてます。あと、オプションでスペアタイヤ、メタリック塗装、ペインテッドルーフを付けてるのも特徴。さらにアクセサリーで「RENAULT Sport」のロゴが入ったシフトノブも別途購入。個人的に「ウィンドRS」チックにしたかったので、ま、これはお好みで、ですけどね。シートはレザーも選べるんだけど、日本の夏を考えるとすぐに傷んじゃう可能性があるのであえてパス。いちばん下のモデルからすると20万円くらいアップしてますが、こういうクルマってあんま貧乏臭く乗りたくないでしょう?
M:非日常を味わえるクルマですからね。それなりに贅沢な仕様で乗りたいもんです。でも、これだけの装備がついて20万円アップならそれほど高いとは思いませんけどね。
S:そうだね。せっかくのクーペ、せっかくのオープンだからさ。あ、そうそう。これの輸入をアレコレやってるうちに「ウィンド・ゴルディーニ」が出るって話もあったりして。
M:へぇ~、そうなんですか! 最近、ゴルディーニ連発ですね。ちょっと派手目に行きたい人はゴルディーニもいいかも。
S:名前とあのラインに萌え~な方はぜひご用命ください。
M:ウィンド、どんな人に似あうでしょうか?
S:ファミリーの方にはセカンドカーとして奥さんに乗ってもらいたいなぁ。ファミリーの方にはセカンドカーとして奥さんに乗ってもらいたい。5MTだけど。若者にも乗ってもらいたいねぇ。最初のクルマがウィンド(笑)。
M:贅沢! でもこれに乗ってラテン車のディープな世界に入ってもらうってのもいいですね。
S:まあ、女性だろうが、若者だろうが、クーペやオープンにあえて乗る粋というか、そういうのが分かる人に乗ってほしいね。人が乗れないとか、荷物が載せれないとか、そういうこと言う無粋な人は乗らなくていい(笑)。
M:やっぱオープンカーは特別な存在ですね。初夏の夕暮れから夜にかけて、街灯の光をボディに映しながら都市高速を走りたいなぁ。時間を忘れて何周もしたい。

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2010y RENAULT WIND EXCEPTION 1.6 16V
全長×全幅×全高/3828mm×1698mm×1415mm
ホイールベース/2368mm
車両重量/1280kg
エンジン/水冷直列4気筒DOHC
排気量/1598cc
最大出力/98kW(133PS)/6750rpm
最大トルク/160Nm(16.0kgm)/4400rpm

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