PEUGEOT 206 CC S16

メイン0910クルマの草創期、その多くがオープンカーだった。ただそれは「あえて」ではなく「仕方なく」な部分が多かったと思う。そもそも人が運べて、荷物が積めて、天候にかかわらず快適に移動できるというのが、クルマに課せられた本来の役割。それなのに人もたくさん運べない、荷物も大して積めない、風雨を遮る屋根がない(いや、実際はあるのだけど)現代のオープンカーは、クルマ本来の役割を真っ向から否定した「あえて」の塊。なんだか大げさな表現だが、つまり言いたいのは、オープンカーを選ぶということは、できることをあえてしない、とても贅沢なこと。オープンカーを手に入れることは、少しだけ幸福になれる瞬間をより多く手に入れることと同義かもしれない。

前0907売れに売れた。

206CCの話をする前に、まず206のことに触れなければならない。206は1998年のパリ・ショーでデビューし、その翌年、日本にやってきた。当時としては相当に切れ上がったヘッドライト、コンパクトなサイズ、そして165万円~という圧倒的な値付けで、そりゃあもう売れに売れて売れまくった。205が15年かかって稼いだ527万8000台という累計生産台数を、たった7年で更新。535万台という記録は、これまでのプジョー車のなかでもっとも多く作られたモデルの称号となった。ちなみにフランス車最多記録のルノー・キャトル(813万台)には遠く及ばないが、シトロエン2CVの386万台を抜く記録であることを付け加えておく。

後0908乗れば乗るほど、興味が薄れた。

いまだに街中でよく見る206、じつは愛車の修理でRENOさんに預けている間、代車として206XT(RHD・1.4リッター・5Dr)を2週間ほど乗っていた。206はデビュー当時に乗ったことがあるだけで、今回が2回目。しかし再会を果たした感想は「あれ、206ってこんなんだっけ?」。正直言ってあんまりおもしろくなかった。
足回りは突っ張ったような感じで、まったくしなやかさがなく、306のような“猫足”テイストはゼロ。実用エンジンだとは言え、回転のフィーリングはかったるく、音もガサガサと不快。パワーステアリングの感じも、なんか粘っこい重さで好きになれなかった。同じBセグメントのベースグレードであるルーテシアRXEとは比較にならない。ルーテシアが乗れば乗るほど良さが染みだしてくるのに対し、206XTは乗れば乗るほど興味が薄れていった。ただ、いろんな人にその話をしたら「206スタイルの足はぜんぜん違うよ」とか「グレードによって部品やセッティングが違うみたいだから、XTに乗っただけで206のすべてを評価しちゃダメ」という至極真っ当な意見もいただいた。たしかにそうだ。ここはひとつネガティブなイメージを払拭して206CCに臨もう、と気持ちをあらためたのだった。

前席0921高価な電動ルーフが付いて、275万円~♪

さて、そろそろ206CCの話をしよう。グレードは1.6リッターと2.0リッター。当初日本には1.6リッターしか入ってこなかったが、ハッチバックの206が売れたように、206CCもオープンモデルながらけっこう売れた。しかも、ただのオープンではない。メルセデスベンツSLKに採用された「バリオルーフ」と似たような構造を持つ高価な電動ルーフが付いて、275万円という価格。その値段なら一時的に半年以上のバックオーダーを抱えたというのもうなずける。ディーラー車がないので並行で入れようって話もあったので、ときどきLHDの206CCも見かけたりするよ、とはすずきさん談。かつてはすずきさん個人で1桁台後半くらいは売った経験があるとか。
そんなこんなで206CCの1.6リッターは売れに売れた。そのせいか、本来なら2001年秋にデビューする予定の206CC S16は登場がズレ込み、2002年6月にようやく発売。価格は1.6リッターに比べてわずか15万円アップの290万円。それでも安い。

リアシート0920206シリーズでいちばんホットなオープンカー。

当該車である206CC S16は、その名前が示す通りシリーズ中2番目にホットなエンジンである2リッターDOHC16バルブユニットを搭載している。エンジンは最高出力100kW(137PS)/6000rpm、最大トルク194Nm(19.8kgm)/4100rpmを発生させ、1.6リッターDOHCに比べ、29ps/4.8kgm増しに相当する。エンジンスペックはハッチバックのS16と変わらない。組み合されるMTのギア比も含めて共通だ。おもしろいのは車両重量。1190kgという数字はハッチバックS16より110kg重いが、同じCCの1.6リッターモデルと比べるとS16のほうが20kgも軽い。エンジン単体でS16のほうが軽いのか、MTだから軽いのか、その両方なのか分からないが。
外観の大きな違いはフロントバンパー。1.6リッターモデルに比べるとハッチバックのS16と同じ大きなエアダムを持つタイプになり、フロントフェンダーの後ろに「S16」のバッヂが入る。ホイールもハッチバックのS16と同じ9スポークの16インチになり、タイヤサイズも同じ205/45ZR16と太くなった。
一方、インテリアは1.6リッターモデルとほとんど同じだ。違うのはシフトレバーとペダルで、ハッチバックS16と共通の仕様になっている。

ラゲッジ0922206CC S16は206XTとぜんぜん違う。

そろそろ春である。あんまり陰鬱な写真ばかりでは気持ちも滅入るので、どこか春を感じさせる場所に行きたかった。諸条件によりあまり遠くは行けないので、知多半島でもどうか、と早朝、206CC S16を走らせる。朝はまだ寒いので屋根は閉めて行こう。当たり前だが、屋根を閉めてしまえば、普通のクーペとなんら変わりはない。ただ同じ206であることを考えると、代車で乗っていた206XTとはずいぶんフィーリングが違う。僕が前半で文句を垂れていたパワーステアリングの感覚は、こちらのほうが圧倒的に良い。適度な重さを感じつつ、切り初めからロックするまでのフィーリングが一定で、いやな粘り感もない。また足回りもぜんぜん違う。“猫足”まではいかないが、206CC S16のほうがしなやかさを感じる。タイヤが太く、低扁平になったことで、低速時にギャップを踏んだりするとバタバタする感じもあるが、206XTのようなサス自体が突っ張るような印象はない。

ラゲッジ(トノカバー)0923グリグリの刑。

ただひとつだけ難点を言えば、おそらくこのクルマに乗った多くの人がいちばん最初に違和感を覚える部分だ。クラッチペダルを踏み込んだとき、ステアリングシャフトにつま先が当たるのである。しかもステアリングシャフトにはカバーがされていないため、ステアリングを切るたびにグリグリ回る。そのときちょうどクラッチを切っていたりすると、つま先にそのグリグリが伝わって、何とも気持ち悪いのだ。クラッチペダルに対し、浅めに足の裏を当てればいいのだが、人それぞれ癖がある。ちょっと深めに足を入れようものなら即“グリグリの刑”に処せられることになる。ステアリングシャフトになにかカバーをするか、クラッチペダルの踏み方を変えるか、どちらかしか対処方法はない。
エンジンはシリーズきってのホットモデルとはいえ、それほどスポーティーには感じなかった。ただこのボディをスムーズに加速させるには十分の性能で、レッドゾーンまで回して走るよりも、トルクに乗せて早め早めにシフトアップしていく乗り方のほうが合っている。そもそもオープンモデルだし、目を三角にして攻めるよりも、エンジン回転にゆとりを持たせながら流したほうがいい。

気温10℃のオープンドライブ。

知多半島の先端からすこし北に戻ったところで撮影をし、帰りは屋根を開けて海沿いの道をクルージングしよう。電動ルーフの開け方は凝った手順を踏まなくていい。最初にフロントウィンドウの両側上端にあるラッチを外し、サイドブレーキあたりにあるスイッチを引っ張る。サイドウィンドウ、クオーターウィンドウが格納されてからデッキが開き、いよいよルーフが折りたたまれる。開閉は実測で30秒以内(参考までに動画をどうぞ)。さぁ、オープンドライブに出発だ。
エンジン0911 一気に車内が明るくなり、ブラック一色だったインテリアも光を浴びて光沢を帯び始める。閉めていたときはちょっと閉塞感があったが、屋根を開放することで気持ちも解放される。屋根を開けてもシャシーの剛性に不満を感じることはない。ちょっとオーバースピードでコーナーに突っ込んでも車体が撚れるような気持ち悪さもない。クーペにも、オープンにもなるクルマだが、やっぱり屋根は積極的に開けて走りたいものだ。
この日は幸いにも風が弱く、2月にしては暖かな陽気に恵まれた。気温は10℃。じつはオープンドライブは、このような少し寒い日がいちばんなのでは、と思う。夏は論外だが、春や秋も晴れているとけっこうな紫外線量だし、おまけに春は花粉の心配もある。足元の方向にヒーターを強めにかけ、ニットの帽子とマフラーで武装すれば、なかなか快適である。頬を撫でていく冷たい空気がまたいい。それでも寒ければ、両側の窓を閉めればいいだろう。
海を見ながら、ときどき視界に走る黄色い絨緞は菜の花だ。そしてその横を通り過ぎると、あの甘く、少し苦い香りがかすかに鼻をくすぐる。自然とこぼれる笑み。

タイヤオープンカーはジョーカー。

ヴィブルミノリテではこれまでルノー・ウィンド、タルボ・サンバ・カブリオレ、ルノー・スポールスパイダーと3台のオープンモデルを取り上げてきた。コロンブスの卵的な機構と感動においてはウィンドが筆頭に上がるし、圧倒的な開放感で言えば、サンバが最高だ。走りにおいてはスポールスパイダーの右に出るものはいない。さまざまな個性を持っていながらも、オープンという共通点は変わらず、その魅力もまた共通。206CC S16においても、名高いジャーナリストから初めてオープンカーに乗る人まで、いろいろな印象を持つだろう。重箱の隅をつつくような、本当に些細な不満だってあるかもしれない。でも、そんな細かな不満も、屋根を開けてしまえばチャラにしてしまう力がオープンカーにはある。そう、オープンカーは“ジョーカー”なのだ。
ここがもっとこうだったらなぁ。あそこがどうにも我慢できないんだけど……。まぁ、まぁ、そんなことで下を向くより、顔をあげて空を見上げましょうよ。屋根が開くって、それだけでもう素晴らしいじゃないですか。

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

エンブレム09092002y PEUGEOT 206 CC S16
全長×全幅×全高/3810mm×1675mm×1380mm
ホイールベース/2440mm
車両重量/1190kg
エンジン/水冷直列4気筒DOHC
排気量/1997cc
最大出力/100kW(137PS)/6000rpm
最大トルク/194Nm(19.8kgm)/4100rpm

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