FIAT Grande Punto 1.4 Dualogic

「ブラビッシモ」、もしくは「ブラーボ/ブラーバ」という車名を憶えていらっしゃる方はいるだろうか。かつてフィアットにラインナップされていたモデルで、1995年に登場した3ボックスのクルマだ(現行もあるけど、これは初代の話ね)。本国では3ドアを「ブラーボ」、5ドアを「ブラーバ」、ハッチバックセダンを「マレア」、ステーションワゴンを「マレア・ウィークエンド」と呼んだ。そのうち日本に導入されたのは「ブラーボ」のみだが、日本では意味もスペルも同じの三菱「ブラボー」が商標登録されていたため、その回避策として最上級を意味する「ブラビッシモ」と名を変えて販売されたという経緯を持つ。

デザインはプント1も手掛けたジウジアーロ。丸みを帯び、愛くるしさを感じさせながらも500ほどキュートではなく、カッコよさも同居している絶妙なスタイリングだグランデプントさまさま

なぜブラビッシモの話をしたかというと、グランデプントに乗り込んだときの印象がこのクルマに似ていた、ただそれだけのことなのだが(理由は後々記述)、中身は当然、90年代から大きく進化し、いわゆる“いいクルマ”になっている。
プントはかつてフィアットの経営不振を救ったと言われるベストセラー「ウーノ」の後継車として1993年に登場した。ジウジアーロがエクステリアデザインを担当し、ボディタイプは3/5ドア、カブリオレモデルもあった。1999年になって2代目が出る。デザインはフィアット・チェントロ・スティーレ。ボディタイプはカブリオレがなくなり、3/5ドアのみになった。排気量は1.2リッターから1.8リッターまであったが、日本に来たのは5ドアハッチバック(1.2リッター/CVT)と3ドア(1.8リッター/5MT)の「HGTアバルト」だ。2003年にマイナーチェンジ。グリルが付いたことで顔つきが大きく変わり、これまでのシャープなイメージから親しみのあるやさしい印象になった。
テールランプをリアウィンドウの両側に配するのは、プント1からのお約束。その共通項を守りながら、バンパーラインを大胆に引き上げることで新しさを表現している。3ドアのスポーツにはドアにプント2のようなモールが付くが、5ドアではなくなっているで、2005年に3代目として登場したのがこのグランデプントである。「グランデ(大きな)」という単語が頭についているのは、先代よりも「大きくなった」という意味合いもあるが、本国では2代目プントと併売しているため、区別できるよう接頭語として付けたのだろう。デザインは再びジウジアーロが担当し、どことなくマセラティのグランスポーツを思わせる顔つきになった(いや、クロマっぽいと言った方がいいか)。プント2の前期はエッジの効いた鋭いイメージだが、グランデプントの丸みを帯びながらも、誰もがイタ車を想起させるデザインに仕上がっていると思う。
ナイスパッケージ、ナイスデザインのグランデプントは2006年1月にヨーロッパ市場において販売台数1位を獲得。その好セールスもあって、フィアットは2000年以降初めて営業利益が黒字になったという。かつてウーノがフィアットを救ったように、グランデプントもフィアットの救世主となったわけだ。まさにグランデプントさまさまである。

インテリアは鮮やかなブルーが華やかに演出。相変わらずプラスチッキーでチープだが、そのチープさはあえてのチープさではなく、コストダウンによるチープさのような印象を受けるのは気のせいか……。エアコンはオートなのだが、制御が緻密なのか、風量が頻繁に変わりちょっとうっとおしい。効きはさすが世界の「DENSO」、寒いくらいに効く素のグランデプント

グランデプントのベースはGMと業務提携していたときの開発車なので「ガンマプラットフォーム」を使用している(GMとの提携は2005年に解消)。ガンマプラットフォームはオペル/ヴォグゾールの「コルサ(かつて日本に導入されていたヴィータの次世代モデル)」が使用していて、グランデプントの他にもアルファロメオのミトにも使われているシャシーだ。
日本には2006年の夏から3ドア・1.4リッター16V・6MTを搭載するグレード「スポー大振りなシートは座っていても余裕があり、フィット感も上々。しかし、最近のクルマは昔ほどシートの個性がなくなってきているように感じるツ」が導入され、同年秋に5ドア・1.4リッター8Vのデュアロジックモデルがやってきた。ベースモデルに加え「メガ」、「ギガ」、「テラ」といういかにも日本人が好みそうなグレード名で展開したが、これらはすべて装備が違うだけ。最上級の「テラ」はレザーシートやクルーズコントロールなどの豪華装備が付き、価格は220万円を超える。
その後、2009年にはアバルトブランドのグランデプントが発売されたり、同年9月に「プント・エヴォ」としてマイナーチェンジしたりしているが、今回紹介するのはデュアロジックを搭載した“素”のグランデプントである。

「フィアット・ライド」最後のクルマ!?

グランデプントに乗り込んでまず気が付いたのは、車室内の広さである。すごいのは5ナンバーサイズを維持したまま、車室の広さを実現しているところ。ただ大きくしたってだけの話じゃないのだ。先代から全幅を25mm広げただけで、先代よりもはるかに広さを感じるのは技アリ! そしてこの広さが、先述したブラビッシモとの共通項である。あのクルマもやけに広かった。ブラビッシモの場合はグランデプントより全幅が70mmも大きいので、広いのは当然なのだが何というか、この空間感とでも言ったらい後席のスペースも広い。このサイズでこの余裕は本当に優れたパッケージだと思う。ちなみに乗車定員は5ドアは5名だが、3ドアモデルは4名いのか、車内に収まったときのイメージが両車はとても近いように感じた。しかもそっけないインテリアだったブラビッシモに対し、グランデプントは鮮やかなスカイブルーを配したポップな演出で、気分も上がる。こういう陽気な雰囲気づくりを見るとフィアットはうまいなぁ、と思う。
シートに座り、エンジンをかける。走り出してみると、ボディの剛性感は先代よりも向上したものの、乗り心地は「ああ……」という印象。何が「ああ……」なのかというと、これまでの大衆車の乗り心地を踏襲していたからだ。スポーティといえば聞こえはいいが、上下にヒョコヒョコと落ち着きのない足回りは、先代のプントやパンダ2と同様のものだ。ステアリングは中央付近の遊びが少なく、これもクイックといえば聞こえはいいが、高速道路などでまっすぐ走っているときでもちょこちょこと修正舵が必要になって落ち着きがない。そして不自然に軽い電動パワステ。ただでさえ軽いのに「CITY」モードにすると、もはや人差し指1本で回せる感覚(これ、本当に必要?)。ルノー車に乗ったことがある方なら分かると思うが、その真反対の乗り味と言えば分かりやすいだろうか。
ラゲッジもオーソドックスな6:4の分割可倒式。タイヤハウスの出っ張りが気になるが、このクラスでは標準的な広さだろうしかし、フィアットはこのテイストを90年代から続けている。ということは、フィアットがこの乗り味を「善し」としているわけだ。ただ「パンダ3」になるとこの乗り味は影を潜め、どちらかというとスタビリティ重視のテイストに変わってくる。ということは、このグランデプントが90年代から続く伝統(!?)の「フィアット・ライド」の最後のモデルになるのかもしれない。私はこの乗り味はそれほど好みではないのだが、裏を返せばキビキビとして街中でも取り回しのしやすい絶妙のドライビングフィール、とも言えるわけだ。もし今後、フィアットの乗り味がパンダ3のような方向性になっていくのだとしたら、それはそれで私的には歓迎だ。でも、ときに“あの頃のフィアットの乗り味”をふと思い出し、感慨にふけることがあるかもしれない。

「引いてアップ、押してダウン」のほうが気持ちいいに決まってる

このクルマで述べるべきはやはり「デュアロジック」である。このコーナーではシングルクラッチの自動変速機のことを(勝手に)「RMT(ロボタイズド・マニュアル・トランスミッション」と呼んでおり、これまで何回も紹介してきた。そんなRMTのなかでもデュアロジックは老舗の部類に入るので、かなり熟成された感がある。もともとRMTに肯定的で好意的な私だからなのかもしれないが、オートモードでもそれほどネガな感じはしなかった。ただシフトチェンジのタイミングはルノーの「クイックシフト5(以下QS5)」のほうがちょっとだけ賢いかな、と思ったくらいだ。その一方でシフトチェンジのスピードについてエンジンは直列4気筒SOHC8バルブのFIREエンジン。いまどきのクルマとしてはエンジンルームを上から覗いて地面が見えるのはちょっと新鮮。熟成の域に達したエンジンなので、その性能には文句のつけようがない。スムーズで軽やかに回るフィーリングは気持ちいいの一言は、デュアロジックのほうが若干速いように感じた。そのスピード感をあますことなく味わうには、マニュアルモードで乗るに限る。QS5は変速プログラムが優秀なのでオートモードでももどかしさを感じなかったが、デュアロジックは積極的にマニュアルモードを使ったほうが楽しい。そうすると不思議なことにキビキビ感が際立ち、乗り味のネガが少しずつ気にならなくなってきた。なるほど。これはそういう性格のクルマ。乗り手がクルマのスタイルに合わせてやれば、弱点も克服できるのではないか。そう会得した瞬間だった。
しかし! ひとつだけどうしても気に入らない点がある。それはシフトアップ/ダウンの方向だ。多くのシーケンシャルタイプは「引いてダウン、押してアップ」である。これはQS5もこのデュアロジックも同じだ。おそらく運転中、不意にひざなどがシフトレバーに触れ、シフトダウンしてしまった場合、エンジンブレーキがかかって運転者が前のめりになり危険、という理由なのだろうが(あくまで推測)、これが感覚的にどうにも合わない。絶対「引いてアップ、押してダウン」のほうが気持ちいいに決まってる。これはもうぜひ改善してほしいと思っていたら、500やプント・エヴォは「引いてアップ、押してダウン」のパターンに変わっていた。そうそう、それなら納得である(まぁ、とはいえこんなのは些細なことかもしれないし、人の好みにもよるのでわざわざ述べることでもないのかもしれない)。

タイヤサイズは175/65R15。このくらいが妥当だと思うのだが、3ドアモデルになるといきなり205/45R17にジャンプアップ。たしかに見た目はかっこいいけど、さすがにオーバースペックでは……と気をもんでしまうプントは復活するのか?

乗り始めた当初は「ん~」と思ったグランデプントだったが、グランデプントなりに気持ちよく運転できるポイントをつかんでいくにつれ、少しずつクルマとコミュニケーションが取れ、仲良くなれたかなぁと感じるようになった。そうなると今度は16V・6MTの「スポーツ」にも乗ってみたいと思うし、アバルトにも興味が出てくる。この素のモデルに対してどのような味付けをしているのか、気になってくる。
そうそう、先にグランデプントの歴史について述べたが、プント・エヴォの後の話が抜けていた。2009年デビューのプント・エヴォは、2012年に(なぜか)「プント」という名前に戻っており、2014年にカタログから落ちている。現在、日本のフィアットのラインナップは500とパンダ3のみというさびしい感じになっているが、果たしてプントの復活はあるのか? あるとしたら、パンダ3のような乗り味をまとってくるのか? その辺も非常に気になるところである。

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

エンブレム_02042007y FIAT Grande Punto 1.4 Dualogic

全長×全幅×全高/4050mm×1685mm×1495mm
ホイールベース/2510mm
車両重量/1150kg
エンジン/水冷直列4気筒SOHC 8V
排気量/1368cc
最大出力/57kW(77PS)/6000rpm
最大トルク/115Nm(11.8kgm)/3000rpm

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