RENAULT Twingo 1.0 SCe 70

「○○らしさ」って何だろう、と考える。「○○らしさ」という言葉には、広義に使われることが多いからだろうか、どこか普遍的な要素を感じるのだが、その実、まったくそんなことはなく、おそろしく個人的な価値観に基づくものである。男らしさ、女らしさ……。そんな「らしさ」には絶対的な指標などなく、大多数がイメージしているだけのことだ。当然、時代が変われば「らしさ」も変わる。自分の価値観を時代に合わせてアップデートしていることは必要だろう。しかし、無理に時代についていこうとすれば、たちまち「自分らしさ」を失いかねない。

エンジンをリアに置くことで切り詰めることができたフロントのオーバーハング。顔はどことなくトゥインゴ2のフェーズ2をすっきりさせたような印象が残る。最小回転拝見はクラストップレベルの4.3m。これは「バリアブルギアレシオステアリング」と呼ばれる機構も大きく影響している。ステアリングを奥に切れ込ませるほど、タイヤが大きく切れる仕組み変化しまくり

ルノー車のラインナップの中で、モデルチェンジを重ねるごとにこれほど変化したモデルはないだろう。トゥインゴである。1992年に登場した初代は、愛くるしいルックスとクラスを超えた乗り心地や優れたスタビリティで人々を驚かせた。2代目は2007年に登場。初代のかわいらしさを残しつつ、少しスマートでかっこよくなった。しかもルノースポールバージョンが出たことで、走りの良さもアピールした。そして3代目はまさかのRRとなって姿を現す。3代目のスマートリアゲート面の角度にどことなくサンクターボの面影を感じる。リアゲートは1枚ガラスで構成されており、裏面には内装と梁がつくのみ。最近の欧州車でよく用いられる手法だが、ガラス面が波打っているクルマも散見する。その点、トゥインゴの仕上げの良さは他社の上を行っているように思う。5ドアのパッケージはトゥインゴ初。リアのドアハンドルはピラー部に持って来てサイドビューをすっきりと見せているのは、もはや常とう手段とシャシーやエンジンを共用していることから、メルセデスと協業で生まれたと思われそうだが、実際の開発はルノーが主導(スマートには2シーターのフォーツーと4シーターのフォーフォーがあるが、トゥインゴは4シーターのみ)。想像の域を出ないが、ルノーがメルセデスに企画を持ち込み、そのアイデアに乗ったメルセデスがスマートに適用した、という感じだろう。

 

RRという発想

インテリアは「明るく陽気な空間を創造した」という言葉どおり、開放感はあり、視界が広く感じる。当該車「ファッションライン ツインストロング」は、ポップさの中にも少し大人な落ち着きを感じさせるエッセンスがある。ドアミラーのミラー面調整は手動

エンジンを後ろに持っていくことで、フロントの自由度が高まり、前席の位置を前に移動させることができるようになった。加えてホイールベースを長く取ることで、室内長も拡大。コンパクトカーの課題である室内空間の狭さを克服しようとする意志がうかがえる。エンジンが後ろに移動したことで、音や振動の発生源から遠くなり、静粛性もアップした。さらにフロントタイヤが49度まで切れるようになり、回転半径は4.3mに。歴代ルノー車は「とにかくハンドルが切れな大胆に赤色で縁取られたシート。張りのあるウレタンは包み込むような軟らかさはない。長距離の場合にどのような感覚になるのか、今回は試すことができなかったい」のがお約束だったが、このトゥインゴに乗るとびっくりするくらい小回りが利くことを実感できるはずだ。

いまとなっては大衆車のほとんどがFFを採用していることもあって、RRでの登場は画期的だと思われそうだが、実際はそうでもなく、この思想は初代フィアット500やスバル360などですでに行われている。ルノーだって8の頃はRRが主流だったし、アルピーヌも含めればA110から310、V6 ターボ、610がRRだ。考え方自体は目新しいものではないが、安全性や快適性がその頃からずっと厳しくなった現代において、あえてRRを取り入れたことは非常におもしろい発想だと思う。

 

リアシートは前席よりも座面が少し高くなっているので、見晴らしの良さを感じる。シート下にスペースがあるのだが、何かに利用できないものか……。窓は昇降しないタイプトゥインゴのラインナップ

エクステリアデザインは、ルノーのデザイナーであるラファエル・リナリ氏が担当。初代から2代目、そしてこの3代目とエクステリアのディティールは変わっているが、どこか憎めない、末っ子の愛くるしさのような雰囲気は失われていないような気がする。それでいて小さくても堂々とした存在感を覚えるのは、どことなく全体的なフォルムがサンク、しかもターボ2のどっしり感がチラつくからだろうか。

エンジンは900ccの「TCe 90」と1000ccの「SCe 70」の2種類があり、ボディは5ドアのみ。日本にはTCe 90と6速EDCを組み合わせたモデル(右ハンドル)が導入され、グレードは「インテンス」と「インテンスキャンバストップ」の2種類からスタートした。その後、SCe 70と5MTを組み合わせた「5S」と「パックスポール」が特別仕様車として50台限定で登場。2017年にはエントリーグレードとして「ゼン」を追加し、TCe 90とEDC、SCeと5MTというバランスの取れたラインナップになった。さらにさまざまな特別仕様車を追加しつつ、2017年に「GT」が200台限定で発売されたのは、まだ記憶に新しい。限定車で出して、その後評判が良ければカタログモデルに昇格するという戦略は、ルノージャポンの定石を踏んでいることから、トゥインゴでもそれを適用されるのは珍しくはない。

 

フロントのボンネットを開けるには、左右のグリル部分を取り外し、中にあるオープナーを操作すると、前方にスライドするようになっている(オープナーは施錠できる)。ボンネット自体はベルトで車体と締結されており、ずらして冷却水の補充、バッテリーの交換などが行なえる。中にはモノを入れるスペースはない

左ハンドル、1.0、5MT

さて、当該車である。インテリアの写真を見ても分かる通り、左ハンドルの並行車である。グレードは「ファッションライン ツインストロング」という。「ゼン」をベースにしてボディカラーと内装に専用色を与え、アルミホイールを履かせた「ファッションライン」という限定車。その中でもさらに細分化され「ツインスイート」、「ツインファン」、「ツインスタイル」と、この「ツインストロング」と合わせて5つのタイプがある。エンジンとミッションは、SCe 70と5MTの組み合せだ。
本国においてトゥインゴは、その外装色、ストライプの種類、ホイールデザイン、内装色、差色など、かなりの意匠/カラーバリエーションが選択できるようになっている。なので、発注時に自分の中に「こうしたい!」というイメージがないと仕様にえらく悩むことになる。そこでこの「ファッションライン」。ルノーがそれらをうまいこと組み合わせて5つのタイプに仕立てた推奨限定車というべきか。実際は下位グレードにエアコン付けて、少し装備を豪華にしつつもお値段据え置き的なモデルなのだが(だからドアミラー調整が手動だったりする)。日本人が好みそうなカラーコーディネートもあるが、ここはあえて黒。トゥインゴでありながらあえての黒。これはなかなか大人である。

乗り込むと室内の雰囲気はルーテシア4のそれっぽい感じがするし、このポップさはパンダ3のような雰囲気もある。シートは張りがあり、かなり硬め。エンジンは1.0Lの71馬力なので、想像通りのパワー感だ。トゥインゴ1の1.2L OHVや1.1L SOHCの感じをイメージしていれば、それほど非力な印象はない(ただ、トゥインゴ1のほうが100kgも軽いが)。

走り出して最初に思ったのは「静かだなぁ」ということ。やはり運転者よりも距離のある位置にエンジンが置かれているからだろうか。ただ、一般的に車内が静かなのはメリットとして迎えられるものの、個人的にはアクセルの踏み具合によってエンジン音もちゃんと聞こえないと嫌なので、静粛性の高さは私自身、それほど大きなメリットとは感じない。が、まぁ、そこは一般的な意見を尊重すべきか。

荷室容量は通常で174L、シートバックを少し立てた状態でも固定でき、それだと219Lとなる。シートバックを倒すと、荷室と同じ高さのフラットな荷室空間となり、奥行きは1350mm、荷室容量は980L。さらに助手席シートバックを倒すと、全長3620mmのクルマに、最大2200mmの長尺物を積むことができる。トランクの床面が少し高いが、後ろ床下にエンジンを載せている割には、車内スペースをそれほど犠牲にしていないのが秀逸。その次に気付いたのは「あ、これRRなんだよな」ということ。普通に運転している分には、RRであることを意識させない走りだ。では、どんなときにRRっぽさが出るのだろうか。いろいろ試した結果、コーナーリング中にわざとシフトダウンしてアクセルを多めに踏んだとき、RRっぽい挙動が出る。一瞬、フロントの接地感が薄くなり、後ろから押されるような感覚。ただ、これも街乗りの速度域でわずかにそう感じるくらいで、RRっぽいクセがあるとか、そういう感覚はまずないだろう。

反対にハンドルの切れ角は、おそらく多くの人が「おっ!」と声をあげしまうほどだと思う。歴代のルノー車に乗ってきた人ならなおさら。だいたいこれくらいだろうな、と思ってハンドルを回した位置よりもさらにもう1/4回転くらい奥に切れ込む感じ。これはUターンが楽しくなりそうだ。バックでの車庫入れや縦列駐車もかなりやりやすいはず。RRの恩恵を存分に感じられた箇所だ。

 

トゥインゴ3のエンジンは2つ。「TCe 90」は898cc、ターボで過給することにより最高出力90ps、最大トルク13.8kgmを発揮。当該車は「SCe 70」で999ccの自然吸気エンジン。最高出力70ps、最大トルク9.3kgm。いずれもラッゲージルームの下、リアアクスル付近にマウントされ、空間を有効に使うために前方約49度に傾けて搭載されているルノーらしさとは?

さて、肝心の足回りについては、ちょっと考えさせられてしまった。これはルノーに限らず、全体的にそうなのだが、乗り心地のイメージがドイツ車をベンチマークとしているからか、全体的に硬いのだ。ボディ剛性の向上もかなり影響しているのだろう。それはルーテシアも同じ。いまだルーテシア2を基準として考えてしまう古い人間には「どのメーカーも同じ方を向いちゃってるなぁ」と少し悲しくなるのである。トゥインゴ1に初めて乗ったときの、こんなに小さく、しかもコストのかけられないエントリー車で、ここまでのスタビリティとしっとりと気持ちのいい乗り味を実現できるんだ! という感動はもうないのか。つけ麺の”またおま系”のごとく「ああ、この感じね」という想定内の乗り心地に、ルノーらしさの片鱗も感じない。まだ新しいので、サスペンションやブッシュ関係が馴染んでいないというのもあるかもしれないが……。

ただ、そうは言ってみたものの、この潮流は翻ることはないだろう。そもそも「○○らしさ」なんて言葉は、それを発した人の価値観によるものが大きく、絶対的な指標などではもちろんない。新しくトゥインゴを買い、新しくルーテシアを買った人は、そのクルマがルノーの基準としてインプットされ、ルノーらしさになるのだから。逆に彼らがトゥインゴ1に乗ったら「こんなやわいシャシー、怖くて乗れない」とそう思うかもしれない。

 

タイヤは、フロントが165/65R15、リアが185/60R15と異なるサイズを履くフラッグシップモデルorエントリーモデル?

そう考えていて、またひとつ思ったことがある。それは「トゥインゴこそ、時代のニーズをとらえた最先端のクルマではないのか?」ということ。ここまでおじさんに「昔は良かった」と思わせるということは、裏を返せば現代のニーズに応えるために、先進的な考え方をし、先進的な技術を投入してつくられている証。3気筒、小排気量ターボ、そしてRR。もうトゥインゴ1と何もかも違う。いやいや、トゥインゴ1も当時を思い返せば先進的だったんだ。クラッチレスの「イージーシステム」、それを進化させた「クイックシフト5」はなかなか感動的だったし、トゥインゴ2にいたっては小排気量ターボを取り入れ、その一方で1.6L NAのRSモデルを用意し、スポーティな方向にも振った。そしてトゥインゴ3では、現代においての常識である「空間効率とコストパフォーマンスが高いレイアウトはFF」という既成概念にとらわれず、RRを実現してきた。

たいていのカーメーカーは、こうしたエポックメイキングな思想や技術をフラッグシップやそれに類するモデルに採用する。そういうクルマはメーカーのイメージの牽引役でもあるし、何より価格帯が高いことからコストをかけやすいからだ。しかし、ルノーはそれをエントリーモデルでやってしまう。私はそこにひどく共感する。フラッグシップモデルorエントリーモデル? どっちが正しいということではないが、あえてのエントリーモデルで挑むところに企業姿勢のかっこよさを感じるのだ。しかも、それをこれ見よがしに喧伝しないところもいいし、実際の製品でもその特長を感じさせない。そこがまたいいのだ。

私も「○○らしさ」という呪縛から逃れ、ルノーのような既成概念から脱出した捉え方でモノを見るべきなのかもしれない。

 

 

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

 

 

2017y RENAULT Twingo 1.0 SCe 70 Fashion Line Twin’s Strong

全長×全幅×全高/3620mm×1650mm×1545mm
ホイールベース/2490mm
車両重量/960kg
エンジン/直列3気筒DOHC 12バルブ
排気量/998cc
最大出力/52kW(71PS)/6000rpm
最大トルク/91Nm(9.3kgm)/2850rpm

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