RENAULT Twingo 3 GT TCe 110

新車はラインナップされているグレードから自分の好きなものを選び、色を選び、オプションを選び……と自由度が高い。しかし、中古車は一期一会である。そのとき出てきたクルマが自分の欲しいものであるなら、価格はどうあれ、買うべきだと思っている。お金は後から生み出すことができるが、自分の好みにぴったりの中古車がもう一度、市場に出てくる保証はない。しかも、これからはエンジン車がどんどん減っていく。さらに中古車を買うのが難しくなる。
メーカーがエンジン車をラインナップしなくなる→新車でエンジン車が買えなくなる→中古車市場で良質なエンジン車が高くなる→中古車高騰(いまココ)→良質な中古車も買えなくなる→質の悪い中古車を買わざるを得なくなる→それすらも高騰していく……。このような状況になるのは、容易に予想が付くというものだ。

2度目の登場

ヴィブルミノリテは好き勝手クルマを紹介している企画だが、実はひそかな縛りがある。それは「極力、同じクルマを紹介しない」こと。「同じクルマ」とは「同じモデル」という意味ではなく、同じモデルであってもエンジンが違ったり、ボディ形状が違ったりしていればOKということだ。そもそも、そうしないと長くは続けられない。
今回、その縛りを破る「トゥインゴ3 GT TCe 110」に登場していただく。 前回紹介したのは、2019年12月。1年半ほど前になるか。なぜこのクルマを紹介することになったのかというと、単なるネタ切れという話もあるが、確認してみたいことがあったからだ。ひとつは新車の状態から時間が経つとどのように印象が変化するのか? ふたつめは高速道路での走行はどうなのか? 3つめは、純正のエンジンオイルからルブロス・シュペールノヴァに交換したことでフィーリングはどう変化するのか? について確かめてみたいと思ったからだ。それに加え、前回紹介したGTは右ハンドルの正規輸入車、今回のは左ハンドルの並行輸入車。そのあたりも含めて考察していこう。

3万km走ったトゥインゴ3 GT

2016年、日本でトゥインゴ3が発表されてから約5年。0.9Lのターボエンジンと1.0LのNAエンジンで展開され、それはフェーズ2になった現在でも変わらない(ただし、国内では5MTと組み合わされるのは1.0Lのみ)。
街中での遭遇率もフェーズ2になってからさらに上がったように思う。フェーズ1はかわいらしいイメージだったが、フェーズ2は少しシャープで洗練された印象が強い。
今回のトゥインゴ3 GT、前回紹介したGTと色も同じだが、こちらは左ハンドルで距離は3万kmほど走っている。このクルマを買おうと思ったのは、店主のすずきさんがベルギーのスパ・フランコルシャンのあたりで売りに出ているのを見つけたのがきっかけ。付き合いの長い自動車輸入商社に確認したところ、排気ガス検査が1台分だけ残っていたので購入の意志を示したところ、先方(個人ユーザーらしい)との売買が成立したという。
このような経緯なので当然、現車は未確認。日本に来てからあれこれチェックしてみると、どうやら右リアドアに修整塗装が施されている模様。田舎を走っていたのか、エンジンルーム内の埃もすごかったとか。さらに雪が降る地方からか、融雪剤によるものと思われる錆も散見。ただ、これらは日本にいるクルマでも程度の大小はあれど、充分あり得る話なので、並行輸入車だけが抱える問題ではない。
現地での価格に加え、現地でのハンドリング費用、海上運賃、日本での通関、日本の保安基準に合致させるためのあれこれ、予備検査に関わる工数などを考えると、決してお買い得とは言えないかも知れない。しかし、すずきさん曰く「あえて見ずに買ってでも、確保したかった」そうだ。
ちなみにこの2017年モデルだが、日本の車検証においては2021年登録となる。おもしろいのは、オートローンは新車扱いで組むことができることだ。任意保険は任意保険会社の判断によるが、場合によっては新車特約の付与もできるのかもしれない。

一般道ではどうか?

名二環がその名の通り完全な環状になったことで、高速走行がしやすくなった。僕の自宅はその名二環に乗るインターチェンジのそばにあるのでなおさらだ。とはいえ、いきなり名二環に乗るのはちょっとな、と思ったので最初は一般道を走ることにした。
SCe70に乗ったとき、その硬めな乗り心地について「まだ新しいのでサスペンションやブッシュ関係が馴染んでいないというのもあるかもしれない」と書いたがそれはやはり正解で、全体的には硬めな乗り心地であるものの、角が取れたというか、ギャップへの当たりがマイルドになったように感じる。そのマイルドな印象はおそらくエンジンオイルにも起因していると思う。エンジンの回り方がギスギスしていないし、6000rpmくらいまできれいに回っていく(当該車はタコメーターが後付けされていたので回転数が把握できる)。
そして左ハンドル。右ハンドルと何が違うかと言えば、広々としたフットレストの存在だ。これは慣れの問題でもあるが、右ハンドルは左足の置き場に困る。もちろん、クラッチペダルの奥に足を置けばいいのだが、クラッチを踏むたびに一回、足を手前に引いてからペダルに乗せる作業は煩わしく感じる。その点、左ハンドルは踵を起点に踏みかえるだけでいい。
シートの硬さもやはり変化していて、新車のときのようにパンッと張った感じから体の重さや形に合わせてウレタンが馴染んできたような印象だ。トゥインゴ3はそもそもが運転しやすいクルマ。それに輪をかけて乗りやすくなっているなぁと感じた。そしてトゥインゴ3のラインナップでは最強のパワーを誇るエンジンが提供する、プラスαの余裕。GTならでは良さをあらためて感じた。

高速走行でジワる

しばらく一般道を流した後、インターチェンジから名二環へ。ゲートをくぐってからのランプも、いつもより多めにアクセルを踏めば、盛り上がるトルクが背中を押してくれる。
高速走行は想像以上に快適だった。まず音が静か。新しめなヨコハマ・ブルーアースAを履いていたこともあるかもしれないが、走行音がとにかく静か。角が取れた足回りは一般道よりもさらにしなやかさが感じられる。小さな車体にはオーバースペックかと思える17インチ45偏平でも、ゴツゴツ感は気にならない(とはいえ、これは気にならない程度。個人的にはもう1インチ落としてタイヤの縦バネを使えるようになれば、もっといいと思う)。
そしてひとたびアクセルを踏み込めば、エンジンが機敏に反応して追い越しも楽だ。「いやぁ、これいいなぁ」と思わず声が出てしまった。過給しているとはいえ、排気量が900ccでホイールベースが2.5m足らずのクルマとは思えない高速走行時のパワフルさと安定感。正直言って、何の不満もないし、何か粗を探してやろうと思っても、大したものが出てこない悔しさ(笑)。以前も書いたが、トゥインゴ3に初めて乗ったときは「ああ、いいクルマだね」といったあっさりした感想だったが、乗れば乗るほどこのクルマの良さがじわじわと迫ってくる。
あとはやっぱりエンジンオイルの違いが大きい。前回、純正オイルが入ったGTを高速走行させていないので、直接的な比較はできないのだけど、純正オイルではここまで伸びやかで、静かで、スムーズな印象は持たなかったと思う。何となく思うのだが、純正オイルは、最低限の性能を担保する品質のものが入っているのではないか。だとすれば、純正以外のオイルで激変することだって不思議じゃない。オイルを換えることで、走りが変わる。そういうことを楽しむのもまた一興だし、そういう楽しみを理解してくれるクルマ屋さんと付き合うとカーライフはもっと楽しくなるがはずである。
個人的にはTCe90がベストトゥインゴ3だと思っているのだが今回、あらためて乗ってみるとTCe110のパワー感も捨てがたい。街乗り中心の短距離利用がメインであればTCe90を、高速道を使って長距離もガンガン乗りたいという人であれば、TCe110をおすすめしたい。僕からはそんな提言だ。

正規輸入車のGTと並行輸入車のGT

最後に前回の正規輸入車であるGTと、今回の並行輸入車であるGTとは何が違うのか。日本の公道を走れるようにするため、何をしているのかも少し触れておこう。
左ハンドルの並行輸入車は、右側通行用ヘッドライトが装備されている。しかし、日本は左側通行なので、ヘッドライト球を加工することで左側通行に対応させている。RENOでは、フィリップス社製のLED球を加工してそれを実現しているよう。ただ、実用上の支障はないと思われるが、LED特有の光のムラが多少なりと気になるかも知れない。
次に標板(ナンバープレート)。前の標板枠は、通常であればルノー純正品を使っている。しかし、当該車の場合は現地の標板を着ける際にいくつか穴を空けられており、それが通常のナンバーステイだと隠せない。だから、若干異なった標板枠を用い、穴は汎用のグロメットで塞いである。後の標板枠は、あえてルノー純正を避け、汎用のナンバー枠を用いてある。その理由をすずきさんに聞いてみると「ルノー純正の標板枠は、標板に角度が付いていてヤンキーチックに思えて嫌い」とのこと。実はこのナンバー枠、メーカーが生産を終了どころか、噂ではメーカー自体が廃業してしまったという話。困ったすずきさんは先日、近い仕様のものをオリジナルで20個作成したそうだ。従前比コスト3倍(笑)。誰も気にしてないと思いながらも、そこは譲れないらしい。
カーオーディオについては、基本的にディーラー車と同じものなので、TEXAで設定変更して日本のラジオバンドに設定することで、使用に支障がないようになっている。残念なのは、リアフォグランプが使用できないこと。これは日本の法規上、リアフォグの左のみ点灯が禁止になっているから。惜しい話だか、まぁ、これは日常的に使うものではないので、それほど気にすることもないと思う。
あとは、左ハンドル専用部品を国内で調達するのは多少苦労するかもしれないが、その苦労は基本的にすずきさんがすることなので、オーナーにはお待ちいただくこともあるかもしれない。ただ、僕も含めて左ハンドルの並行輸入車だからと言って、通常のカーライフに何か多大な悪影響があるのかといったら、そんなことはない。普通に乗れているので、恐れることはない。

エンジンを積んだトゥインゴ3が買えなくなる!?

トゥインゴ3は今回のGTも含め、どのモデルもそれぞれの個性があっていいのだけど、欧州のEVシフトによって本国ではすでにSCe65(1.0L NA)しかラインナップされていない。初めてトゥインゴ3に乗ったとき、妙にフロアが高いなぁと思ったのだが、それは床下にバッテリーを納めるため。それがもう現実化している。
EVはクルマの新しい選択肢として歓迎すべきものであり、当然否定もしない。実際、仕事で某社のEV試作車を運転させてもらう機会もあり、そのたびにEVの可能性やポテンシャルをひしひしと感じる。ただ、EVとエンジン車、どちらを選びたいかと言われれば、僕はいまだにエンジン車と答える。エンジン車の音、振動、においが好きだからだ。
しかし、これからはさらにエンジン車にとって厳しい状況になっていく。このトゥインゴ3のように小さくて、リーズナブルで、左ハンドルで、マニュアルで、となると、ラテン車全体を見渡してもすでに選択肢が少ない。「新車で買えなくても、中古車という手があるじゃないか」と言いたくなるが、その中古車ですら高いのだ。低走行距離のものならなおさら。中古車は新車よりも安く買えることが最大のメリットなのに、それが失われたらもう、中古車を選ぶ価値がない。しかし、高いからと言って買わずにいたら、いつの間にか欲しいクルマ自体がなくなっていた、ということになりかねない。
今後、この状況が改善されることはないだろう。だからこそ、トゥインゴを左マニュアルに乗りたいと思っている好事家の皆さん、いまならまだ良質な中古車が手に入る。5年後、10年後、あのとき高くても買っておけばよかったなぁと後悔しないうちにどうぞ。

 

 

TEXT & PHOTO/Morita Eiichi

 

2017y Renault Twingo GT TCe 110

全長×全幅×全高/3630mm×1660mm×1545mm
ホイールベース/2490mm
車両重量/1010kg
エンジン/直列3気筒DOHC 12バルブ ターボ
排気量/897cc
最大出力/80kW(109PS)/5750rpm
最大トルク/170Nm(17.3kgm)/2000rpm

 

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