PEUGEOT 306 Cabriolet & Style

メイン_0096私の友人から聞いた話である。その友人には4歳になる娘さんがいるのだが、その娘さん(仮にAちゃんとしておこう)は4歳にしてすでに「オンナ」だというのだ。どういうことかと聞いてみたら、家族で出かけたときのことを話してくれた。Aちゃんにはお気に入りのサンダルがあるのだが、そのサンダルは長い間履いていると足が痛くなるのだとか。家族で出かけようしていたのはハイキングで、山道ではないにしろ長距離を歩くという。でもAちゃんはどうしてもそのサンダルを履いていくといって聞かない。友人は「また足が痛くなってもいいの?」と言うとAちゃんはふてくされながらも「おしゃれはガマンでしょ」と一言。うむ、恐れ入った……。

個人的には4座のオープンカーでもっとも美しいクルマだと思う。15年経ったいまでも、人を振り向かせる魅力は薄れていないプジョーの主力大衆車。

 

今回紹介するのは、プジョー306のカブリオレとスタイル。ともに2000年式だ。プジョー306と言えば、Cセグメントにあたる主力の大衆車だが、ヴィブルミノリテでは初登場のクルマ。タイミングよくオープンモデルとクローズドモデルをいっしょに紹介できることになったが、やはりクルマ趣味的にはカブリオレのほうにプライオリティを置きたいので、こちらを中心に進めていきたいと思う。

まず、出自からいこう。プジョー306は1993年に3ドア、5ドアのハッチバックとしてデビュー。日本には翌年にインチケープ・プジョー・ジャポンの手によって導入された(これが前期型のN3)。当初は1.8リッター・5ドアの「XT」と「XR」、2.0リッター・3/5ドアの「XSi」の3グレードで展開。XSiのみ5MTが選択できたが、他はすべて4AT(右ハンドル)の設定だった。

幌を開けると、幌の存在は跡形もなくなる。フロントから見てもリアから見ても破綻のないスタイルにはほれぼれ。リアのヘッドレストは撮影用に取り外してあるその後、2.0リッター・3ドア・5MTの「S16」、「カブリオレ」、セダンの「SR(1.8リッター・4AT)」、「ST(2.0リッター・4AT)」、「スタイル(3ドア・5MT/4AT)」と次々とニューモデルが追加。1997年にマイナーチェンジし、後期型(N5)へと移行していった。

後期型はエンジンがツインカム化し(4ATの「スタイル」を除く)、全長も若干延ばされた。外観は、グリルの形状変更がいちばん大きなポイントとなっている。後期型のトピックスは「S16」に6MTが導入されたことと、ブレークが追加されたことだろうか。ちなみにセダンは後期型では未導入となっている。

そして2001年。307の登場にあわせてハッチバックの輸入が終了。2002年にブレークとカブリオレも輸入終了となり、306シリーズは終わりを迎えることとなる。306は日本におけるプジョーの足がかりをつくったクルマではないだろうか。バブル景気やトレンディドラマの影響でよく売れた。205をはるかに凌ぐ売上でプジョーの知名度向上に一役買った貢献車。このおかげで206のヒットにつながったのだと思う。

 

前期型(N3)のカブリオレにはエアバッグがなく、シートもファブリックだったが、後期型(N5)では、運転席・助手席ともにエアバッグが付き、シートもレザー(一部合皮)が標準となるもっとも美しい4座のオープン(個人的見解にもとづく偏見)

 

日本に輸入されて8年。5つのボディタイプに9種ほどのグレードを展開し、大所帯となった306シリーズだが、なかでもひときわ目を惹くのはやはりカブリオレだろう。ピニンファリーナによるデザインワークは、同クラスのゴルフ・カブリオ、アストラ・カブリオとは一線を画す美しさだ。オープン化するにあたって、ただウェストラインから上を切り取って幌を付けたのはなく、全体のプロポーションやトランクスペースを配慮。リアのオーバーハングを190mmほど延長し、ホイールベースもわざわざ40mm短縮している。パッと見た感じ、そのような変更はまったく分からないが、このような地味な変更が行われているからこそ、パッと見た感じの直観的な美しさにつながっているのだと思う。その美しさは、すっきりと収まった幌部分も影響しているはずだ。電動の開閉機構(一部手動)を持ち、もともと幌なんかなかったんじゃないかと思えるほど見事に収まっている。元来、エンジンを傾斜させることで薄いボンネットを実現している306だが、このすっきり収まったリアセクションと相まって、ボディはフロン後席はしっかりと大人が乗れるスペース。幌を閉めるとヘッドクリアランスに余裕がないが、開ければ天国であるトからリアにかけてより薄く見える。リアのヘッドレストが気になって、撮影の際に思わず取っ払ってしまったくらいだ。これがハッチバックをベースにしたオープンモデルだろうか!(セダンもあったけど)

鮮やかなイエローはカブリオレの非日常をさらに美しく演出してくれる。いまだ306カブリオレを超える美しい4座のオープンモデルを、私は見たことがないし、これからもこれを超えるカブリオレは出てこないような気がする。オープンカーにあえて幌(布)を選ばないのではないだろうか。鉄の外板に布を組み合わせるこの雰囲気や情緒はもうこの時代の遺産でしかなくなるのかもしれない。

 

ラゲッジはオープンモデルの宿命でそれほど余裕はない。それでも274リットル(VDA方式)は確保されているので、それなりに荷物は積める。高さがなく、奥行きのある空間形状だ丁度いい、とはまさにこのこと。

 

一方、クローズドボディの306は5ドアの「スタイル」。1995年に追加されたグレードで、当時は廉価版の位置づけだった。他のグレードが軒並み200万円オーバーなところ、スタイルは5MTで189万円、4ATで199万円というプライスを付けて登場。後期モデルになってからは他のグレードがツインカム化していくなか、4ATのみがシングルカムをエンジンは2リッターで前期型はSOHC、後期型はDOHCとなる。パワー&トルクは、それぞれ97kW(132PS)/5500rpm、183Nm(18.7kgm)/4200rpm。出力に癖がなく、扱いやすいエンジンだ貫いていった。スタイルから派生した「サウンド・スペシャル」や「プレジャー・パッケージ」などの限定車も多く、人気の高さが窺える。

個人的には欧州ハッチバックのベンチマークとなり得るクルマで、ルノーでいえばルーテシア(2)的な存在だ。ルーテシア2よりもサイズ、排気量ともにひと回り大きいが、サイズ、パワー、足回り、室内空間など、おおよそクルマ選びの基準となる要素すべてにおいて「丁度いい」というのが私の印象。過不足がないとはまさにこのことで、ウィークデーは日常の足として、ウィークエンドはレジャーなどの遠乗りも難なくこなしてくれる。

ただ「プジョー最後の猫足」とも言われる足回りに関しては、デビュー当時乗ったXSiの印象とかなり違っていた。もう20年以上前の話なので、その記憶があてになるのかという問題もあるが、もっとストロークが長く、しなやかだった印象があるのだ。しかし、スタイルはどちらかというとキビキビとスポーティーな味付け。聞きかじった話だと、グレードによって足回りのセッティングが微妙に違うという意見もあるので、もしかしたらそのせいかもしれない。

 

とてもクリーンで嫌みのないデザインは、まさに大衆ハッチバックの王道を行くスタイルAL4はそんなにイヤじゃない。

 

306のウィークポイントとしてよく挙げられる「4AT」。日本の道路事情に合っていないプログラムと熱対策が充分でない(ストップ&ゴーの多い日本の道路事情だと必然的に熱問題が浮上するものだが)ことから、よく不具合を起こすと言われている。この4AT、前期型はZF社製、後期型はシトロエン、シーメンス、ルノーと共同で開発したPSA自スタイルはそもそも廉価版としてスタートしたグレードだが、そこから派生した限定車なども多く、シリーズ中いちばん売れたグレードかもしれない社製のAL4である。

しかし、乗った印象としてはカブリオレもスタイルもATのシフトプログラムに大きな不満は感じなかった。もちろん国産のATに比べれば、パワーロス感、シフトショックなど劣る点も多いが、ごく普通に運転する分には目くじらを立てるほどの低品質ではない。たまたま調子のいい車両だったのかもしれないが。

ちなみに5MTは右ハンドルの弊害か、クラッチのフィーリングがいまいち良くない。おそらく長いクラッチケーブルを介しているからだろう。これはXSiでもS16でもついて回る問題なのでちょっと惜しい。

 

カブリオレのほうが猫足?

 

ほぼ垂直に切り立ったスイッチパネルはサーブ900を思わせる。女性的なデザインの306だが、ここからの風景は少し男っぽい話をカブリオレに戻そう。カブリオレで真っ先に気になるのが幌の開け閉めだ。まずイグニッションをONにして、ルーフ前端にある左右のロックを外す。そしてルーフを節度感のある部分まで押し上げれば下準備完了。その後は、サイドブレーキの後方にあるトップ開閉スイッチを押し続ければ、ウィーンとモーターが作動し、20秒くらいで幌がきれいにしまわれる。この方法は当時としては画期的だった。一部手動だが、それを自動化するのに他社も含めて後10年はかかったわけだから。

乗った感じは、スタイルよりも好印象だった。オープン化によってボディには補強が入り、その影響で車重は3ドアのスタイルに比べて180kgも重くなっている。しかし、この重量増が身のこなしを鈍化させているかといったらそうでもない。ハンドリングもパワーステアリングのフィーリングが自然だし、クイックでもなくルーズでもなく、丁度いい。「あれ? クローズドボディよりもこっちのほうがしなやかな乗り心地じゃないの?」と思ったくらいだ。

大振りでしっかりとしたシートは、廉価版のスタイルでも手を抜いていない。適度なサポートもありながらコンフォートな路線は、この時代のシートのお手本といえるタイヤサイズは195/55R15。スタイルは185/65R14だから偏平率はカブリオレのほうが低い。でも、荒れた路面でタイヤはバタつく感じもないし、速度を増せば増すほどフラット感が高くなる。サスペンションのセッティングが違うのか、それともオープン化によって剛性感が弱まり、ボディがショックをうまくいなしているのか。もしくはその両方か。理由は明確ではないが、とにかくスタイルよりもカブリオレのほうが乗り心地が良く、私の猫足のイメージに近かった。

 

後席も広さは充分。大人がしっかりと座れるスペースを確保している。175cmの私が座ってもヘッドクリアランスに余裕があるネガは音問題と値段。

 

その一方でネガも感じた。ひとつは風切音。幌を閉めて高速走行を行うと、やはり風切音が気になってしまう。幌の内張りがしっかりしていないのか、風にあおられてパタパタしてしまうこともあった。幌を開けた状態での風の巻き込みはそれほど気にならなかった。
ボディからもいろんな異音がする。窓を上げているとプルプル震えて、キシキシとこすれる音が聞こえてくるし、低速で段差のある部分を乗り越えるときも、どこからともなく謎の音が聞こえてくるのだ。ただ、これはしなやかさを重視するがゆえの副産物だと思う。補強は入れているが必要最低限で、ドイツ車のようにガチガチエンジンは1.8リッターのシングルカム。SOHCだからとってネガな部分は一切なく、むしろ低速域でのトルクが豊かなことから、タウンユースでは扱いやすい特性だにしようとは考えていないはず。そのおかげで先述したしなやかな乗り心地をもたらしているのであれば、こんな音は些細なことである。
些細なことと片付けられないのは、価格だろうか。ロアレンジが100万円台後半なのに、カブリオレは300万円オーバー(あ、S16も)。こんな価格帯に幅のあるクルマも珍しい。とはいえ、それも当時の話。価格だけ見ればいまはもっと手軽に入手できる。

 

分割可倒式のラゲッジルームは、Cセグメントのハッチバックとしては広いほうだと思うガマンすら楽しめるオトナへ。

 

幌自体の材質や密閉性は、おそらく他のオープンモデル(同時代のゴルフやアストラ)よりも劣るだろう。激しく雨が降ったときは、雨漏りすることもあるかもしれない。しかし、この美しいスタイルやしなやかな乗り心地が自分にフィットするなら、そんな欠点は一瞬にしてかすむだろう。
そもそもオープンカーは「実」を重視するものではない。クローズドボディと同じように乗りたいのであれば、こいつはさっさとあきらめて他メーカーのオープンカーを選んだほうがいい。私の友人の娘さんのように「おしゃれはガマンでしょ」と、そのガマンさえ楽しんでいるかのようにさらりと言いのける、そんなオトナにこそ乗ってほしいと思う。

 

 

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

 

 

エンブレム_01062000y PEUGEOT 306 Cabriolet
全長×全幅×全高/4145mm×1690mm×1355mm
ホイールベース/2540mm
車両重量/1310kg
エンジン/水冷直列4気筒DOHC
排気量/1998cc
最大出力/97kW(132PS)/5500rpm
最大トルク/183Nm(18.7kgm)/4200rpm

 

エンブレム_8672000y PEUGEOT 306 Style
全長×全幅×全高/4040mm×1695mm×1400mm
ホイールベース/2580mm
車両重量/1130kg
エンジン/水冷直列4気筒SOHC
排気量/1761cc
最大出力/74kW(100PS)/6000rpm
最大トルク/153Nm(15.6kgm)/3000rpm

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3 Responses to “PEUGEOT 306 Cabriolet & Style”

  1. rallye より:

    200万ってところで、並行106ラリーと、正規306スタイルを天秤にかけたのは、私以外にいたかどうかは、わかりませんが、スタイルは魅力的なグレードでした。でも、やっぱり、ラリーdったんですけどね。カブリオレは別格なので、何もいうことはないですね。綺麗な車ですね。

    • そら1.3RALLYEでしょうなぁ・・・
      黄蕪には無条件降伏。

    • Morita Eiichi より:

      306スタイルと106ラリー、方向性は違うものの、
      悩ましい選択ですね。
      カブリオレの別格感、たしかに感じます!

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