PEUGEOT 206 RC

メイン_0300いやー、またしても楽しいいクルマを知ることができた。このコーナーでいろんなクルマ(といってもラテン車のみだが)に乗らせてもらって、最初はルーテシア16Vに衝撃を受けた。RSの陰に隠れてあまりにも目立たなかった存在がこんなに面白いものなのか、と。先々月のセニックにも驚いた。いわゆるミニバンなのに走って楽しいクルマはそうそうない。そして今回、またもや驚かされることになる。206RC。こんな楽しいクルマ、まだあったんだね(というか、乗ってみたことがなかっただけなんだけど……)。こりゃプジョー最後の真正ホットハッチじゃないか!

フロントだけ見ると“速いモデル”というアピールが少ない。それを善しとするか、悪しとするか。意見が分かれるところだろう。“羊の皮を被った狼”にしたければ、容易にそういう仕様へコンバートできそうだ206に(ほぼ)300万。

 

206は言わずもがな、日本で大ヒットしたクルマである(ラテン車の中でね)。デビューは1998年。日本にはその翌年、1.4リッターSOHCの「XT」と1.6リッターSOHCの「XS」、「XTプレミアム」が入ってきた。その後、2.0リッターを搭載したスポーツモデル「S16」を発売。2001年にはエンジンがDOHCになったり、2002年に「CC」が追加になったり「ローラン・ギャロス」なんて限定車が出たり、ワゴンの「SW」が加えられたりして、ともかくよー売れた。そんな多くのラインナップの中で頂点に君臨していたのが、2003年に出たこの「RC(LHDのみ)」である。ルーテシアRSに対抗して出したのだろう。そのスペックは非常に似ている。特にエンジンで比べてみると、2リッター・172PS/6250rpm、20.4kgm/5400rpm、1060kgのルーテシアRSに対し、206RCは2リッター・177PS/7000rpm、20.6kgm/4750rpm、1110kg。206RCのほうがちょっとだけパワーがあって、ちょっとだけ重い。しかし、価格で比べてみるとルーテシアRSが「259万円」だったのに対し、206RCは「294万円」と強気な値段。各所のパーツを見ていくと、それなりにコストがかかっているのだが、多くの人が「206にリアはスポイラーとデュアルエキゾーストパイプが目を引く(といってもそんなに派手じゃないけど)。フロントよりはちょっとだけ勇ましい感じが出ていると思う(ほぼ)300万かぁ……」と思ったに違いない。たしかにおしゃれで気軽でカジュアルポップな206のイメージは良くも悪くもしっかりと定着してしまっていて、206がほしい女子にとっては「なんだかよくわかんないけど、206なのに左ハンドルで3ドアしかない高いクルマ」に映り、走り好きの男子には「ルーテシアRSとスペックでほとんど変わらないなら、RSのほうが価格も手頃だしいいなぁ」と思われただろう。たしかに価格だけ見れば高い。でも、高いのにはそれなりに理由があるのだ。

 

インテリアで高そうな雰囲気を醸し出しているのがこのシート。レザー、アルカンターラ、ハニカムメッシュの3種類を組み合わせている。シートの左右にサポートが張り出しているが、座面はワイドで座りやすい“お金かかってますよ感”が希薄。

 

まずエンジン。2リッター直4 DOHCはS16に積まれている2リッターエンジンとは別物。ボア/ストロークこそ同じだが、かつてルノーのF1エンジンを生産していた、そしてルーテシアRSのヘッドチューンも担当した「メカクローム社」がヘッドを再設計し、可変バルブタイミングシステムを組み込んだ。4 in 1タイプのエキマニ、背圧の低いメタル触媒を装着することで177ps/20.5kgmまでパワーアップを果たしている。S16が137ps/19.8kgmだから、馬力では40psも上回っているわけだ。耐久性を度外視したレーシングスペックならその数値も分かるけど、あくまでも市販車で日常ユースでも耐え得るエンジンにしなければならないのに、どこをどういじったら40psもアップするのか気になるところではある。足回りにも変更がある。フロントは一般的なマクファーソンストラットだが、リアはストックの206同様のフルトレーリングアームに加え、車体中央から伸びる長いリンクで横方向の剛性を担うタイロッドが2本追加されている。これはSWにも採用されている形式だ。インテリアに目を移せば、レザー、アルカンターラ、ハニカムメッシュと3種類の素材が使われているスポーツシートに目を奪われる。1脚10万円以上しそうな贅沢なシートは、リアも同様の素材を使うことで統一感を出している。

後席も前席のフォーマットを守っている(RCは4人乗り)。とにかくインテリアにお金がかかっているので、インテリアの内容をもっとチープにすれば、価格は下げられたと思う。ただプレミアム感を出そうとすれば、これくらいの演出は必要か……「こりゃカネかかってるなぁ」と思ったのだが、肝心なエクステリアは控えめだ。外観上のアピアランスは、カーボンファイバー調のドアミラー、大型リアスポイラー、デュアルエキゾーストパイプ、17インチホイール(当該車は16インチの社外品に交換)くらいで、たとえばルーテシアRSのフロントバンパーのように見てすぐ違いが分かるような感じではない。いちおうワイドなタイヤを納めるためにフェンダーも膨らませてあるようだが、そう言われてもほとんど人が気づかないだろう。

おそらくルーテシアRSよりも販売に苦戦したのは、そういった“お金かかってますよ感”が希薄だったからではないか。もっと分かりやすいオーバーフェンダーとか、スポイラーとかそれ系の類を装着すれば「こいつは何か違う……」とユーザーに感じてもらえたかもしれない。それかスポーツ走行ユースを前提に考え、豪華なインテリア(とくにシート)はレスオプションにして価格を下げてしまうか。どうせシートやハンドルなんて交換されちゃうんだから、適当なのをはじめから付けておいて、その分安くするってのも手だったんじゃないか。まぁ、そう簡単にできるもんじゃないだろうけどね。

 

ブラックを基調にしたスパルタンな雰囲気。シフトノブ、ペダルはアルミに変更されており、ハンドルはレザー、グローブボックスのカバーはアルカンターラだ。エアコンもオートになっている普通の206とは別物。

 

さて、こんな魅力的なスペックを持った206RCが、なぜいままでこのコーナーに登場しなかったのか? その辺の話をすずきさんに聞いてみると、こんな感じだった。
「個人的にプジョーの2リッタースポーツツインカムってあんまいい印象なかったんすよ。405Mi16、306 S16ともになんかモサーっとしてて、レスポンス良くないんで、ぜんぜんスポーティーじゃないじゃん! って。高速道路ドカーン系だなと思うことすらあった。その先入観もあって206RCにはあんま期待してなかった。販売期間も短かったからか、市場にもあんま出てこないし、出てきても高いってのもあったけど。でも、実際乗ってみるとルーテシアRSと比較してもいいエンジンのクルマだと思う」。

そんなコメントを事前に聞きつつ、当該車を目の前にしてまず感じたのは、白のボディカラー。RCが何の略称なのか公表されていないけど、最初のRはきっと「Rallye」だろう。そう考えると白の車体はまだデカールが貼られていないストックのラリーカーっぽくて気分が盛り上がる。ドアを開けて乗り込み、閉める。この音と感触から、もうただの206とは違うことが分かる。もしかしてスポット溶接、増した? と思ってしまうくらい剛性感がある。ちょっと高めのギア比を持つ1速にアルミのシフトレバーを送り込んで走り出す。段差を1つ乗り越えるだけで、またしてもその剛性感に「おっ!」と思う。適当に街中を流していても、こりゃ普通の206とぜんぜん違うわ。別のクルマだ。それは大げさではなく、打倒! ルーテシアRSを掲げたプジョーの本気が伝わってくる。

 

S16に搭載されている2リッターエンジンとは別物。メカクローム社のヘッド、可変バルブタイミングシステム、フライバイワイヤがトピックス。ちなみにミッションは1速が高められ、クロスしたステップアップ比になっている楽しい峠道。

 

早朝の峠。まずはストレートでアクセルを床まで踏む。回転の上昇は滑らかで、とにかく吹け上がりが気持ちいい。トルク特性がフラットなので、変な癖もなく上まで回っていく。ルーテシアRSは低回転域で爆発力を感じたが、RCが全域フラット。ただ6000rpm以上回していっても、それほどドラマチックにはならないので、5500rpmあたりでキープしておくのがいちばんおいしいと思う。

足はルーテシアRSのどっしりしたスタビリティ重視の味付けではなく、軽快でキビキビしている。しかしそれは106 S16のようにいつテールがブレイクするのかヒヤヒヤする感じではない。「FFのリアなんて、とりあえずついてこればいい」的な考え方ではなく、しっかりと踏ん張り接地感がある。プジョー特有のホットハッチの味付けをしっかりと踏襲しながら、安心感をプラスした印象と言えば分かりやすいだろうか。ロールも少なく、アンダーも必要最小限。不用意にコーナーリング中、アクセルを抜いてもリアがブレイクする兆しはゼロ。狭い峠で速度域が低いのもあるが、とにかく安心できるのがいい。

ただ、ひとつだけ気になることは、フライバイワイヤー(アクセルペダルとスロットルバルブがワイヤーでつながっているのではなく、ペダルに搭載されたセンサーからの信号をコンピューターが受け、スロットルバルブをコントロールする方式)によるアクセルコントロールである。はっきりいってパーシャル状態をキープしにくい。スロットルバルブをちょっと開けたいのだが、ジワジワ踏んでいってもある時点でパカッと開いてしまう。なので「ちょっとだけ開けた状態をキープ」がしにくいのだ(ただ、これは慣れの問題かもしれない)。だからコーナーでパーシャル状態をキープしたくても、微妙なアクセルワークができず、ギクシャクしてしまうシーンが多々あった。

ただ、不満はこれくらいなもんで、峠道はとにかく楽しい。1.6リッタークラスだと上りで圧倒的なパワー不足を感じるが、2リッターもあると上りも楽勝! 踏めば踏むほどグイグイ上っていくからストレスもない。ギアのつながりもいいし、1速が高めなのでタイトなコーナーでは1速に入れても充分に使える。ESPのしつけもいい。変な介入がなく、効き方が自然だ。一度、ESPをオフにして往復してみたが、若干素行がワイルドになったくらいで、大きな差は感じられなかった。

 

当該車は17インチの純正ホイールから16インチにダウンされている。ホイールは軽さに定評のあるVOLK RACINGのTE37106の次に乗ってほしい。

 

「いやー、これは楽しい!」。206RCに乗ってみて不満が出るどころか、こんな楽しいクルマがまだ残っていたんだね、と宝物を発見したような気分になった。プジョーのホットハッチといえば106 S16がその代表格だが、206RCは106の乗り味をそのままにエンジン、剛性感、足回りなどすべての要素をワンランク上に引き上げた感じがする。106乗りはよく「次に乗るクルマがない」と嘆くが、1.6リッターしばりならトゥインゴRS、2リッターでも良いならこの206RCを強くオススメする。きっと106から乗り換えても違和感はないはずだ。いまなら価格もこなれ、ほとんどが100万円以下で手に入るのもうれしい。プジョー最後のホットハッチと呼んでもいい206RC。ルーテシアRSもいいけど、これも試しておかないともったいないよ。

 

 

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

 

 

エンブレム_02972003y PEUGEOT 206 RC
全長×全幅×全高/3835mm×1675mm×1440mm
ホイールベース/2440mm
車両重量/1110kg
エンジン/水冷直列4気筒DOHC 16V
排気量/1997cc
最大出力/130kW(177PS)/7000rpm
最大トルク/202Nm(20.6kgm)/4750rpm

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10 Responses to “PEUGEOT 206 RC”

  1. シバッチRS より:

    タイヤを最新の軽量スポーツ系に取り替えれば
    良い感じのホットハッチとして楽しめそうですね。

    • タイヤは重要です。
      が、そもそも、Lutecia2/Clio2 RSと双璧を為す、純然たる生粋のホットハッチ、だと思います。

    • Morita Eiichi より:

      PINSOタイヤを履いていましたが、
      日常使いでは問題なさそうです(全体的にちょっと硬いですけどね)。

      • PINSO、インドネシアだっけか?
        悪くはないとは思うけども、日本にはもっといいタイヤあるので、次は、ねぇ。
        S-Driveが好きだけども・・・

  2. Eyeball_man☆ より:

    ワイパーを探して、偶然この記事にたどり着きました。
    銀獅子RC乗りです。

    この記事を読んでいて、益々、今の車を維持していく
    気力が出てきました(笑)ありがとうございました(^^)/

    • Eyeball_man☆ より:

      ちなみに...
      タイヤは、P-ZERO NERO です。

      • ィいタイヤじゃないかなぁ?(経験ないけども。)

      • Morita Eiichi より:

        ええ、ええ。いいタイヤだと思います。

    • ありがとうございます。
      イヤ、イイクルマだと思いますよ。がんばってください。

      ちなみに、ワイパーはコチラっ!
      http://www.reno-auto.net/wp/archives/9613

    • Morita Eiichi より:

      コメントいただきありがとうございます。
      206RCのオーナーさまからお褒めいただけて光栄です!
      玉数も少なくて手放すと次乗れるのはいつ? ってな感じのクルマなので、
      大切にしてあげてくださいね~

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