FIAT Panda 4×4 Climbing Plus

パンダは何度乗ってもいいな、と思う。パンダ1の個性により、熱狂的なファンを獲得し、その流れはパンダ2にも引き継がれ、確固たる地位を築いていたように思う。それはもはやクルマを超え「パンダを選ぶ」というライフスタイルにまでなっていると言ってもいい。パンダ、(旧)ミニ、ビートル、2CV、キャトル……。これらの名車には共通して人を強く引き付ける力があり、走る楽しさがある。

 

 

もともとかわいらしいデザインである。それが4×4化によって車高が上がり、各種プロテクターによってちょっとワイルドに(でも、コミカルに)なった売れたモデル。

2代目パンダは、これまで超ベーシックグレードの1.1L・840kgの「アクティブ」と高性能版である1.4L・1020kgの「100HP」を紹介してきた。よりにもよってパンダ2ヒエラルキーの中で底辺(付近)と頂点にあるような2台だが、今回はその中でも「4×4」モデルをピックアップする。
少しばかりパンダ2のおさらいをすると、デビューは2003年。この年のジュネーブモーターショーで「ジンゴ」という名前で出ていたコンセプトカー(とはいえ、見た目はパンダ2そのもの)リアビューもどっしり感のあるデザイン。このサイズで5枚ドア、左ハンドル・5MTで乗れるクルマはあまりないを市販化したもので、そのプロポーションからSUVっぽい雰囲気を漂わせていた。しかし、いざ発売という時期になってルノーから「トゥインゴ」との商標類似を指摘されてしまう。ルノー側は訴訟も辞さない態度だったことから、フィアット側が回避したという噂もあったりなかったり。それなら仕方ないということで、パンダの後継としてデビューさせることになった。日本では「こんなのパンダじゃない!」なんて声も聞かれたが、欧州ではけっこう売れて、経営状況の良くなかったフィアットの立て直しに一役買ったモデルとなった。
日本には2004年にやってきた。主となるのは1.2LにRMT(ロボタイズド・マニュアル・ミッション)である「デュアロジック」を組み合わせたモデル。これに加え、大型サンルーフを装備した「プラス」が上級仕様としてラインナップされた。2005年には「プラス」に代わって、ESP、14インチアルミホイールを装備した「マキシ」が登場。この年に「4×4」モデルも「クライミング」と大型サンルーフを装備した「クライミングプラス」の2つをデビューさせた。その後、2006年に「アレッシィ」、2007年に「100HP」(ともに限定車)へと続いていく。

 

プラスチックを多用したパンダらしいポップなデザイン。5MTのフィーリングはけっこうカッチリしていて小気味良いシフトワークが可能。電動パワーステアリングのフィーリングもまずまずかわいい+ワイルド。

パンダの4×4モデルは初代からある。初代はシュタイア・プフ社製のセンターデフを持つパートタイム式だったが、2代目の4×4はビスカス・カップリングにセンターデフ役を担わせる方式を採用。当時はFFをベースに4×4化させる最もポピュラーな方法だったように思う。4×4化にともない、FFのパンダから35mm車高を上げ、ホイールも155/80R13から185/65R14に変更。前後バンパーはアンダーガードへつながるような意匠を施した専用パーツを装着し、フェンダーアーチにもプロテクターモールが付いた。これによって見た目はSUVからクロスカントリー4WDのような雰囲気になり、かわいいデザインにちょっとだけワイルドさが宿った。
足回りもFFから変更されている。フロントサスペンションは、FFと同じマクファーソンストラットだが、ダンバーとスプリングは4×4モデル専用品。リアサスペンションは形式で言えばトーシ

 クライミングプラスの「プラス」たらしめているのは、この前後に2つ付く電動サンルーフ「ツインドーム」。窓全開、サンルーフ全開で走りたい

ョンビーム式だが、プロペラシャフトを通すために独立懸架方式になっている。
そして、4×4モデルの最も大きな特徴は左ハンドル・5MTであること。正規輸入のパンダ2を左ハンドル・マニュアルミッションで乗りたいのなら、この4×4を選ぶしかない。懸念点は4×4システムの採用や大型のサンルーフ(スカイドーム)を装備していることから、車重はFFモデルよりも120kgも重くなってしまったこと。これが走りにどのような影響を及ぼすのか……。

 

着座位置が高くなったので、見晴らしや乗降性が向上した。運転席にはシートリフターが装備され、ハンドルのチルト機構も備わっている。シートの色遣いもポップ「なんじゃこりゃ!?」。

実車を目の前にすると、やっぱり小さくてかわいいなとあらためて思う。軽自動車よりは大きいが、1Lクラスの国産コンパクトカーよりは小さい。運転席に乗り込むと視点が上がったのがすぐに実感できる。走り始めて気付いたのは、やっぱり非力だなぁということ。私が知っているパンダ2 1.1Lと比べると、車重にして210kgも重くなっているから、そう思うのは当然だ。「アクティブ」は実に軽快な走りを見せてくれたから、その落差が大きい。低速トルクは細いし、高回転まで気持ちよく回るわけでもない。FIREエンジンはモーターみたいに軽々と回転を上げるエンジンだと思っていたが、4×4ではそのフィーリングは得られなかった。3500rpmを超えると少しは元気になるが、5000rpmくらいからトルクが薄くなり、踏んでも踏んでも音だけが騒がしくなり、スピードが上がっていかない。そして4×4専用の足回りもバタバタしていて思わず吹き出してしまった。明らかにFFと違うのは分かるのだが、硬いのか、軟らかいのか、よく分からない上、とにかく落ち着きがない。例えば、同じラテン車であってもルノーのトゥインゴ2あたりに乗っている人がこのクルマに乗り換えると、思わず「なんじゃこりゃ!?」と言ってしまうくらい足回りの成熟度が低い。しかし、これがフィアット、これがパンダなのである。数10分もすれば、この感覚に慣れてくる。そして、パンダ1から受け継いだパーツがほとんどないのに「ああ、やっぱパンダだね」と納得させられてしまうのだ。

 

 パンダの乗車定員は4名。後席は少々アップライトな姿勢に座らされるが、それほど窮屈さは感じなかった

考えて走る楽しさ、感性に任せて走る楽しさ。

街中を走り、山道へ差し掛かる。当然のことながら、このエンジンで山を登ろうとすると、その非力さに輪をかけることになる。とにかく遅い。アクセルを床まで踏んでも走らない。しかし、そこに文句を言っても仕方がない。そういう状況になると人間は、この与えられた状況でいかにクルマを気持ちよく走らせることができるかを考えるようになる。これができる人は、パンダに乗って楽しめる人だ。
つまりどういうことか。パンダは非力なので、一度速度が落ちるとリカバーが難しい。だから道の勾配、広さ、コーナーの曲率を考え、ステアリングをなるべく切らずに走り抜けるラインを考える。それに慣れてくると、目の前のコーナーだけでなく、次のコーナー、その次のコーナーへどのようなラインでつなげていくといいのかまで考えられるようになる。
「ああ……。アクセル戻しちゃった……。次はイン側、タイヤ幅ひとつ分内側に入れるようになれば、ステアリングはさっきよりも切らなくて済む。その先のコーナーは緩いからストレートに駆け抜けるため、アウトから入ろう」といった具合に、である。しかし、速度を落としたくないからと言って、ちょっと深めのコーナーをノーブレーキで進入するのはオススメできない。しっかりアンダーが出るので、フロントには荷重を残しておくことをお忘れなく。
頭をフル回転させる上りが終わったら、次は下り。下りはあまり深く考えず、感性で駆け抜けてほしい。上りとは違っもともと小さなクルマなので、シートを畳まない状態では荷物はそんなに積めない。ただ開口部も含め、スクエアな形状なので荷物の出し入れはしやすそうだ。後席のシートバックは5:5の分割可倒式た楽しさを味わえるはずだ。バタバタしていた脚も、下りになるとちょっと頼りがいがあるなと感じるから不思議だ。ブレーキローターはFFモデルより大径化されており、制動力もアップしているから安心感も高い。ロールが大きいので最初は少しびっくりするかもしれないが、慣れてくると非力さなんて何のその! 4×4らしいかどうかは別として、独特のコーナーリング感覚に新たな魅力を見出せると思う。
「大衆実用車、かくあるべし!」と言わんばかりのクルマがパンダ1だとしたら、それを受け継いで当時の量産車として認められる品質を担保して誕生させたのがパンダ2。んでもって、品質も運動性能も飛躍的に向上したのが現行のパンダ3。パンダ3はすごくいいクルマになったけど、僕らが抱くパンダのイメージからは遠ざかってしまったような気がする。でも、それが時代を生き抜いていくための正常進化なのかもしれない。
パンダ1至上主義者は、どんな困難があってもものともせず、パンダ1に乗るためなら苦労も厭わない筋金入りの人だから、そういう人はとにかくパンダ1の動態保存のために頑張ってほしいと思う。ただ、そこまではちょっと無理だけど、イタリアの小粋な大衆実用車がいいって人はパンダ2をお勧めしたい。

 

1240ccの排気量を持つFIREエンジン。1tを超えたクルマに載せるエンジンとしては非力か。しかし、シフトワークを駆使し、パワーバンドを拾いながら走るのがまた楽しいパンダの「スキ」。

帰り道、パンダの魅力っていうのはいったいどこから来るのかを考えていた。「パンダは運転して楽しいクルマだよ」と人がいうこの「楽しい」とはいったい何だろうか。
これは以前、プジョー106に乗ったときにも書いたのだけど、完璧過ぎないパフォーマンスなのかなぁと思う。メーカーが意図的なのか、そうでないのか分からないけど、人がそのクルマのネガをどうにかできる、もしくはどうにかできそうだと思わせるスキが残してあること。そのスキにドライバーというピースがピタリとはまると、まるでドライバーを待っていたかのようにそのクルマは活き活きと輝きだす。クルマがちゃんと走れるように、ドライバーは考え、手足を使ってうまく補助してやる。その考え、補助する行為が楽しさにつながるんじゃないかなぁと思うのだ。ESPやASRがついていつでもだれでも快適に危険なく走れますよという優等生的なクルマは乗って楽しいかどうかという観点だけで見れば、楽しくはない。多少悪さをするヤツだったり、一芸に秀でたヤツのほうが付き合っていて楽しい。そういうのと同じかもしれない。
「なんだ、それなら欠点のあるクルマのほうが楽しいってことじゃないか」と思われてそうだが、それは半分正解で、半分不正解だ。重要なのは、その「スキ」の具合。スキが大きすぎれば、それは本当の欠点になってしまい、人が補う範疇を超える、もしくは補おうという気持ちが失せてしまう。反対にスキが小さすぎると、ドライバーが補おうとも思わなくなり、物足りなく感じてしまうかもしれない。私には、フィアットが作るこの「スキ」の具合が、絶妙にマッチしている。でも、人によってはこのスキを「許せない!」と思う人もいるだろう。バタバタの足回りも、非力なエンジンも笑って許せるかどうか。パンダの好き嫌いが分かれるのは、パンダのスキの許容度によるものだと思う。
 タイヤサイズは185/65R14だが、当該車は175/70R14とワンサイズ細いタイヤを履いているフィアットって、その辺の「スキづくり」がうまい気がする。しかも、それを“天然”でやっているような気すらするのが、イタリアンの恐ろしいところだ。真面目で細かい部分にうるさい人は、本当の欠点につながる「スキ」と、ドライバーの補助意欲をくすぐる「スキ」の違いに気づかず、すべてをネガとして捉え、潰そうとする。もちろん、それはそれで性能は上がるだろうし、信頼度も増す。乗ってみて「このクルマ、気に入らない」という人も減るだろう。道具としてのクルマの完成度はどんどん高まる。でも、反対になくすものもある、ということだ。
イタリア人を形容する際、よく「陽気な」という言葉が使われる。何事もポジティブに捉え「そんな小さいことに目くじら立てずに、楽しんじゃえよ!」。パンダに乗っていると、そんな風に言われているような気がする。

 

 

PHOTO & TEXT/Morita Eiichi

 

2006y FIAT Panda 4×4 Climbing Plus
全長×全幅×全高/3570mm×1605mm×1635mm
ホイールベース/2300mm
車両重量/1080kg
エンジン/水冷直列4気筒SOHC
排気量/1240cc
最大出力/44kW(60PS)/5000rpm
最大トルク/102Nm(10.4kgm)/2500rpm

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