Renault MEGANE Estate 2.0 GT180

男性の平均寿命の半分あたりを超えてくると、年齢は重ねていくのではなく、カウントダウンされていく意識に変わる。たとえば80歳で死ぬとしたら、あと何年生きられるのだろうか、と考えてしまうのだ。そうなると墓場までカネは持っていけないのだから、カネをどれだけ稼いだかよりも死ぬ瞬間に「ああ、いい人生だった」と思えるかどうかに価値が置かれる(他の方は知らないが、僕はそう)。そのためには、後悔のない日々を送るしかない。それは仕事も遊びも、クルマも同じだ。

 

 

“限定商法”って何?

「あれ? メガーヌのワゴンって前にやらなかった?」と言われそうだが、確かにやった。しかし、以前のはGT220で右ハンドル・6MTだった。しかし、今回のはGT180の左ハンドル・6MT。GT220の前に60台限定で導入されたモデルである。
ルノーは(いや、ルノージャポンは)このような通称“限定商法”というのをよくやる。ひとまず限定で導入してみて、売れそうな感じだったら正規のラインナップにする。様子見をするわけだ。なので、そういうクルマはディーラー車でありながら並行扱いになる。「ディーラー車」というのは、型式認定を受けているので車検証にも型式がちゃんと記載されているのだが、GT180は型式不明。ディーラーが正規に輸入しているのに、書類上は型式不明になるので「ディーラー並行」とも呼ばれている。限定でやってみた後に正規輸入に踏み切ったのは、このGT180以外ないのではないか。ルノー以外で把握できているのは、たとえばニュービートルRSiがその類だ。ちなみに並行車であっても、型式認定車と似た扱いの通称“ハイフン縛り”というのがある(シトロエンDS3レーシングがそれ)。これについては下記に記すがマニアックな話なので興味のある方だけ読んでいただければ、と思う。

ディーラー車のような型式が認められたクルマを型式認定車と言うが、並行輸入車であっても型式認定車と近似であることを陸運局が認めると「-A5C5F04-」のように型式認定車の記号をハイフンで縛った記号が車検証の型式欄に記載される。これを通称“ハイフン縛り”と呼んでいる。たとえば、前回やったトゥインゴ3 0.9 TCeはまさしくそれで型式は「-AHH4B-」と記される。じゃあ、型式認定車と近似であることが認められると、何かいいことがあるのか? いちばん大きいのは、ハイフン縛り車なら通販系、外資系の保険屋でも任意保険の車両保険を引き受けてくれる可能性がグッと上がる。通販系、外資系の保険屋だと型式不明車は引き受けてくれない可能性が高いのだ(昔からある保険屋は何とかしてくれることが多いが)。余談だが、以前紹介したダシア・ドッケールは型式不明であるのはもちろんのこと、ダシアという車名自体が国交省のコード表にないため「車名不明・型式不明」というダブルで不明になりかけたとか(さすがにそれはまずいので、訂正してもらったそうだが)。

 

GT180はGT220よりも数字が小さいから劣っているのか?

GT180とGT220。何が違うのかというと、まずその数字からして馬力が違うし、先述したとおり、GT180は左ハンドル、GT220は右ハンドルである。それ以外にも違いはいくつかあって、GT180はメガーヌの素のクーペのシャシーをベースに使っているのに対し、GT220はR.S.のシャシースポールがベース。装備的には、GT180がHIDのヘッドランプやBOSEのオーディオシステムを採用しているのに対し、GT220はハロゲンヘッドランプと普通のオーディオ、ハンズフリーキーもなし。メカニズムはGT220の勝利だが、装備はGT180の勝利という感じだろうか。

 

GT180のほうが若干リードか

乗り込んでみて車内を見渡すと、かなりシンプルである。GT220と同じだろうと思っていたが、180のほうが圧倒的にシンプル。220にはあった赤いステッチなどのアクセント類は一切ないが、このほうがむしろルノーらしいともいえる。驚くほど軽いクラッチを踏み、走り出す。気になっていたのはパワーの違いだが、日常的に100馬力前後のクルマしか運転していない身としては、220も180もそう大して変わらない。どっちも速い。充分すぎるほど速い。ただ、乗り心地ははっきりと違いが分かった。220のほうが圧倒的にガッチリしており、乗り味は限りなくR.S.に近い。一方、180は街乗りで硬いなぁ、という印象はなく、しなやかでギャップを踏んでもシャシー全体で吸収してくれる感じがする。たとえば、このクルマに荷物をたくさん積んで、旅行やキャンプなど長距離移動をメインとして使うのであれば、むしろこのくらいしなやかなシャシーのほうが疲れないのではないかと思う。街乗りであっても、舗装の悪い道路を走ったり、コンビニに入るための歩道の段差を乗り越えるといったシーンを何度も経験すると思うが、そういうときでも180ならガッタンガッタンしない。
ハンドリングもスポーティーだ。パワーステアリングの制御にクセはなく、非常に素直。切ったら切った分だけスーッと曲がってくれる。GT220のときにも書いたが、しばらく乗っているとサイズ感を忘れてしまう。後ろに大きな荷室があるとは思えないほど軽快に走れるところがいい。
高速道路には乗れなかったが、夜明けごろに大きな河の堤防道路を走った。ほぼ1直線。ある程度のスピードレンジで走ったのだが、これはいかにもルノーである。安定しすぎているほどの足回りは、速度感を忘れてさせてしまうアレだ。あぶないあぶない。意識してスピードメーターを見ないと大変なことになりそうだ。

 

GT180とGT220はかなり趣向が違う

充分な時間をかけて試乗したわけではないが、同じメガーヌ・エステートでもGT180とGT220はかなり趣向が違うことに気づくことができた。GT180は左ハンドルMTが絶対条件で、街乗りや長距離移動を快適にこなしたい実用優先の人向け。220はメガーヌR.S.に憧れがあるけど、人も荷物も載せたいから3ドアクーペはきつい(メガーヌ3での話ね)。ハンドルの位置はどうでもいいから、R.S.の走りと雰囲気をワゴンで味わいたい人向け。まぁ、実際はこんな単純にカテゴライズはできないのだけど、傾向としてはこんな感じではないだろうか。

GT180に乗って並行車を想う

SUV全盛の時代にあって、ルノーはメガーヌにワゴンを根強く用意してくれているが、現行のメガーヌ4はもちろん左ハンドルでもないし、MTでもない。そう考えるとルノーだけでなく、他のラテン車を見渡しても、そこそこパワーがあって走りを楽しめる左ハンドルMTのワゴンは皆無である。このクルマがデビューした2012年ごろはまさかSUVが制するような時代になるとは思ってもみなかっただろうから、ワゴン好きは「あのとき新車で買っておけばよかった」と後悔している人もいるだろう。しかし、それは非常に視野の狭い話である。並行輸入であれば、もちろん現行メガーヌ・エステートの左ハンドルMTは普通に手に入る(ここまでハイパワーではないが)。だから排気ガス検査などのコストを覚悟の上であれば、基本的にECで普通に売っている乗用車なら、ほぼ日本で登録が可能である。こういう風に「並行輸入があるじゃないか」というと、世間的には「保証がー」とか「部品供給がー」とかネガティブな意見が出てくるが、現代において新車のルノー車をディーラーで買って、1年そこそこ乗って保証を使わなければいけないような故障ってあるのだろうか。絶対にないとは言い切れないが、ディーラー車でも並行車でも工業製品としてのクルマは同じ。並行車だから壊れやすいなんてことはないし、もし何かあって部品が必要な場合は、普通に供給される(国内にない場合は待たなきゃいけないけど、それはディーラー車でも同じだ)。まぁ、そのディーラーが独自でやっているサービスとかが付かないとか、そういうのは知らないけど、本当に欲しいクルマを手に入れたいなら、そのクルマが本国にあるなら、挑まない手はないのになぁと私はそう思うんだけど。保証や部品供給を気にしながら、妥協して満足できないクルマに乗るほうが、私はイヤだ。

 

TEXT & PHOTO/Morita Eiichi

 

2012y Renault MEGANE Estate 2.0 GT180

全長×全幅×全高/4565mm×1810mm×1490mm
ホイールベース/2700mm
車両重量/1420kg
エンジン/直列4気筒DOHC 24バルブ ターボ
排気量/1995cc
最大出力/180PS(132.4kW)/5500rpm
最大トルク/300N・m(30.6kgm)/2250rpm

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