RENAULT Lutecia Gordini R.S.

僕らが手を出せるクルマで、走りにこだわったモデルがどんどんなくなっていく。現在新車で、手に汗握るような、運転していてドキドキするようなモデルが、どれだけあるだろうか。ターゲットを中古車に移したとしても、それでも少ない。もう出てこないのなら、いま買っておくしかない。なんかこういう話は10年くらい前にもしたような気がするが、もうほんとにほんと。いまがデッドラインだと思う。

 

土下座しても欲しい

 

ルーテシアのルノー・スポール(以下、RS)は2代目からその仕様があり、年代で言うと1999年から。日本には2000年の12月に左ハンドルのみで展開された。2006年に3代目に移行し、2009年10月からマイナーチェンジされたフェーズ2のRSが上陸したが、2010年9月から施行される日本の歩行者保護基準がルーテシアクラスの輸入車にも適用されることになり、ルーテシアRSもこの規制に引っ掛かった(1.6Lモデルはお咎めなし)。そのため、同年8月の生産分をもって日本への輸入は終了。つまり日本での販売は1年にも満たなかったことになる。その間、「RSエディションリミテヴァンタン」と「ゴルディーニRS」、「RSコンプリート」の限定車が各30台ずつ発売された。
今回紹介するのは、その中の限定車である「ゴルディーニRS」だ。当時、ルノー・ジャポンのCOOだった大極氏のインタビュー記事によると、ゴルディーニRSはもともと日本への割り当てはなかったそうだ。しかし「土下座して何台でもいいから日本に入れたいとお願いをした結果、ようやく30台だけ間に合い、何とか輸入にこぎつけたのです。それで30台の限定車となったわけです」と語っている。土下座の真偽はともかくとして、当時はかなりバタバタの状態だったのは想像できる。

 

専用装備品満載の豪華仕様

ゴルディーニRSは2010年10月22日に発表されたが、その時点ですでに30台は完売状態だったとか。基本的なスペックは、3ドアボディに2L自然吸気エンジン(最高出力202ps、最大トルク21.9kgm)を搭載し、MTは6速、右ハンドルのみで変更はない。違うのは装備面で、2本の白いストライプが施された専用ボディ色「ブルーマルトメタリック」(地中海・マルタ島の青)を採用。写真では分かりにくいが、白いストライプ上にはゴルディーニのイニシャルをモチーフにした「G」マークがエンボス状にプリントされている。これにあわせフロント部のホワイトインテーク、ホワイトドアミラー、ホワイトレザーセンターポイント入り専用ステアリングホイールを採用している。シートはシルバーステッチ付ゴルディーニロゴ入りのブルーレザー仕様で、ゴルディーニロゴ入りアルミシフトノブ&ブルーレザーシフトブーツ、ゴルディーニロゴ入りフロアマット、シリアルナンバー入りゴルディーニステッカーなど専用品と装飾が加えられている。さらにボディカラーのブルーを配した専用17インチアルミホイールやリアサイドの専用バッチなどで限定感をアピールしている。価格はベース車の35万円高、334.0万円(税込)だ。

 

メガーヌRS同様の「DASS」を採用

 シャシーはメガーヌRSに続き、フロントサスペンションに「ダブル・アクスル・ストラット・サスペンション(以下、DASS)」を採用した点がポイントだ。ちなみにこれと同様の方式をホンダ・シビックタイプRも採用している(ホンダもDASSと呼んでいるが)。このDASS、簡単に言うと通常のストラット式に対し、独立したナックルを新たに組み合わせたもの。なぜそんなことをするのかというと、ひとつはトルクステアの減少が目的だ。操舵輪と駆動輪が共通しているFF車は、駆動反力が操舵系に伝達し、加速時にハンドルを取られるトルクステアが発生する。ハンドルに伝達する力は駆動反力に比例するので、ハイグリップタイヤを履くクルマほど、操舵に与える影響は大きくなる。特に旋回から立ち上がる際にトルクステアが発生すると、ラインが乱れてタイムに影響が出る。さらに詳しく説明するとなかなか難しい話になるので省くが、とにかくトルクステアの発生を抑制し、コーナー立ち上がり時の姿勢を安定させる働きがあると憶えておけばいい。
ちなみにリヤサスペンションはオーソドックスなトーションビーム式だが、パイプ材のトレーリングリンクとコの字型のアクスル支持部というシンプルな構成。ビーム内には30mmの極太スタビが配置され、ノーマル比25%増のロール剛性を得ている。
ブレーキも強力で、フロントはローター/キャリパーともにブレンボ製。対向ピストンの4ポットキャリパーがラジアルマウントされる。ディスクはφ312mm×28tのベンチレーテッドだ。リヤはブレンボ製φ300mm×11tのソリッドディスクとTRW製フローティングキャリパーの組み合わせ。100km/hからの停止距離は35mと、ポルシェ・ケイマンと同数値だ。ABSには、ボッシュ8・1システムを採用。 ESPには、明確な姿勢変化に至る前にアンダーステアを抑制する制御も内包している。

 

名機「F4」と「DASS」の組み合わせは最高!

以前、ルーテシア3 RSに乗ったのはいつだろうか。記事を遡ってみると2016年に並行のクリオRSの限定車「レッドブルレーシングRB7」に乗っていた。シャシーカップにほぼフルバケと言えるセミバケット、アクラボヴィッチのエキゾーストとかなりハードな仕様だったが、それに比べるとシャシースポールのゴルディーニRSはとっつきやすい。いい意味で普通に乗れる。右ハンドルだが、ポジションに違和感はない。ペダルレイアウトやハンドルとシートの位置関係もまったく問題ないので、これなら左ハンドルにこだわる必要はなさそうだ。シート自体もサイドサポートの張ったスポーツシートなのだが、座り心地はけっこうラグジュアリーだ。

 走り出すと、まさに「これがルノー車のお手本です!」と言わんばかりの乗り心地だった。サスペンションはしっかりと動いて仕事をし、段差や道路のうねりをうまく吸収していく。そして速度を上げれば上げるほどフラット感とスタビリティが増し、どんどんと速度感がなくなっていく。アクセルを少し踏み込むと、この個体の特性かもしれないが、3000rpmあたりで少しワイルドな排気音に変わる。さらに踏み続けていくとだんだん澄んだ音色になっていき、5000rpmあたりではかなり鋭い吹け上がりになり、音とレスポンスで気分を盛り上げてくれる。これがノーマルマフラーかと思うくらいレーシーだ。

この自然吸気のエンジンもいい。ルノーの1.6L(K4M)と2.0L(F4)は個人的に特に好きなエンジンで名機だと思っている。どちらかというとK4Mのほうが好きなのだが、F4も乗ると「いいなぁ」と思ってしまう。+400ccの余裕は特に高速道路でのクルージングに表れる。ガンガン踏んで峠やサーキットで元気よく走らせるのもいいし、長距離の移動もストレスなく楽々こなす。万能さで言えば、F4が圧倒的に優位だと思う。

そして、今回特に感じたのは、DASSによるコーナーリングの楽しさだ。DASSはクリオRSにもメガーヌRSにも搭載されていて、過去、それらを乗ってきているが、今回のゴルディーニRSが最もハンドリングが気持ちいいと感じた。コーナー立ち上がりの安定感はもちろん、進入時、コーナーリング中も終始安定していて、ちょっと言い方はおかしいが、コーナーリングしているのに、直線道路を走っているような感覚を覚えた。表現の仕方が難しいが、コーナー進入時にブレーキングしながら少しハンドルを切っても、ほとんど姿勢の変化がなく、そのままスッと鼻先を変えて入っていけるのだ。このとき、レッドブルはもっとシャープに切り込んでいく感じだったが、それがなくもっと自然だし、コーナーリング中にアクセルを増し踏みしても膨らむことなく、何事もなかったかのように加速していく。自分のコーナーリング技術がうまくなったかのような錯覚に陥るから、何とも不思議だ。

 

本当に最後だよ

ゴルディーニと別れて、何となく思う。フランス車のホットハッチと呼べるクルマは、もうこの年代が最後なのだろうな、と。2010年。プジョーもシトロエンもホットハッチと呼べるモデルはもうない。ルノーのみがトゥインゴとルーテシアに設定してくれているわけで。ルーテシアも次モデルにRSはあるものの、MTではないことを考えると、2.0Lではこれが最後だ。
この後、2010年12月9日に本当に本当の最終モデル「コンプリート」を発売する。コンプリートはゴルディーニRSと違ってシャシーカップを採用し、専用サスペンションとステアリング、ブレンボのキャリパーは赤色に塗装されている。さらにカーボン製のリアディフューザーを備えたモデルだ。そうだ、メガーヌRSに採用されていた「RSモニター」もルーテシアRSでは初採用されたんだっけ。

発売からもうすでに13年が経った。ルーテシアRSはその希少性から、今後どんどん買いにくくなっていくだろう。最後の最後まで2.0L、MT、自然吸気を追求し、ぜいたくなつくりの足回りを持ったホットハッチが、ルーテシアRSだ。欲しい人は、本当にいま買っておかないとダメだと思う。

 

TEXE&PHOTO/Morita Eiichi

 

2010y RENAULT Lutecia Gordini R.S.

全長×全幅×全高/4020mm×1770mm×14850mm
ホイールベース/2585mm
車両重量/1240kg
エンジン/直列4気筒DOHC
排気量/1998cc
最大出力/148kW(202PS)/7100rpm
最大トルク/215N・m(21.9kgm)/5400rpm

 

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